第二次短期滞在隊の面々
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
第二次短期滞在隊の打ち上げが決まった。
ロケット及び有人宇宙船製造の都合で、第一次短期隊打ち上げの6週間後が打ち上げの日である。
短期隊は日本の総理が見得と打算と(自国民には負担を強いる)諸外国への好意の混ざった産物であるが、それでも一次隊は緊張が有った。
これまで順調に進んでいた「こうのす」での宇宙生活に、農作物に異常の兆候という影が落ちていたからである。
それを解決する為に名乗り出たのが、宇宙経験は全く無い71歳の退官教授だった為、宇宙で健康を害さないか、骨粗鬆症にならないか、等の不安があり、それが緊張感となった。
第二次短期隊が派遣される前に、ある程度農業問題は目途が立ち、「二次隊には農業の専門家は不要、当初の予定通りのサービスで行こう」となった。
一次隊で出た問題もクリアしつつあり、二次隊は落ち着いたペースで今に至っている。
船長兼アメリカモジュール「ホルス」のミッションスペシャリストであるアーロン・ニール飛行士が多彩な国籍の滞在隊を統率する。
彼にも観測する任務は有るが、どちらかと言うと他の飛行士が「ホルス」を使用する際の御目付役がメインな感じである。
前回の短期隊においては、アメリカは担当者不在である事を理由に「ホルス」の使用を中東系ミッションスペシャリストに許可しなかった。
評判が非常に悪いが、アメリカはそんなのは特に気にしない。
だが、今回は使用を許可する事にしたようだ。
二次隊唯一の日本人である室戸飛行士は、「あくまでも水道工事に行く」という姿勢の水回りのプロフェッショナルである。
研究職でなく、宇宙ステーションのメンテナンスに行く事になる為、厳密に言えばミッションスペシャリストとは言えない。
とはいえ、操縦技能を持った運用担当でもない為、少々微妙な飛行士であった。
カナダ人飛行士は、「ホルス」を間借りし、またロボットアーム生産国である事から、それを使って観測機器を「こうのす」外周に取り付けての国土観測を行う。
カナダの国土には永久凍土もあるのだが、昨今の地球温暖化で溶け出したものもある。
また、国土に多くの湖や河川を持つ為、そこに降下している汚染物質についても調べる。
赤外線での観測が主となるが、光学や波長の違う電磁波での観測も行う。
小型衛星放出任務を省略した分、観測に充てる時間が多い。
カナダが北極寄りの国土を観測するのに対し、オーストラリア人飛行士は南極方面の「自国領扱い」の海洋を観測する。
本格的には別の機会に衛星打ち上げを行うのだが、それに先立ち南極域を上手く観測出来る軌道を開拓したい。
そのおまけで重力や磁力の観測をする小型衛星を放出するところまでが任務となる。
よって、カナダとは逆に衛星がメイン、宇宙ステーション内での観測がおまけとなり、彼はゆったりとした宇宙生活を送る事になるだろう。
インドは宇宙開発に力を入れている。
カナダが使わなかった分の枠も貰い、8機の小型衛星を放出する。
飛行士としては「宇宙に滞在し、経験を積み、やがては自国の宇宙飛行士育成に携わる」事になる。
故に彼も衛星放出までが多忙で、それ以外は「宇宙に居る事」が仕事であった。
UAEもまた宇宙開発を行っている国だ。
王族が国策として科学技術振興を行っている。
資金は豊富だが、人口が足りず、ロケットを打ち上げるとしても、オマーン湾を南東方向に進んだ後、インド最南端辺りで東向きにコースを変えるようなやり方になる為、技術を必要とする。
そこで、今すぐの自力打ち上げを目指すより、日本やアメリカと組んで打ち上げを行う一方、衛星や探査機開発の技術を高め、自分のものにしようと考えているのだ。
技術習得が目的である為、小型衛星も野心的な設計であった。
最終的には月を目指す。
4機中3機が地球スイングバイ航法の実験を行う。
その中で月を目指す本命は1機だけで、2機は技術確立の為の捨て石だ。
あえて地球の重力に捕まって、落下するコースを試すものもある。
そういう軌道に投入する任務が飛行士の最大の仕事であるが、同時に彼はUAEの将来を担う青少年へのアピール役としても宇宙生活を送る。
アメリカの地球観測モジュールを使用するのはカナダだけでなく、もう一国ある。
メキシコである。
彼等の望みは、自国のX線による観測であった。
豊富な森林を通過し、遺跡を捜索する「宇宙考古学」という、ちょっと毛色の違う学問の為に地球観測を行う。
ここの国はやりたい事が多数あり、小型衛星の機能は海洋観測、森林の酸素の観測、外宇宙のガンマ線バーストの観測であった。
飛行士も天文学者であり、「ホルス」の観測機器もだが、「こうのす・コア1」に設置された光学天体望遠鏡を使った観測をする事になっている。
こんな7人がアメリカ民間宇宙船に搭乗となる。
研究内容が丸で違い、持ち込む研究道具も多彩であった。
一次隊の時のように、荷物が一部間に合っていないという事も無い。
実に様々な荷物が船内に運び込まれる。
打ち上げ1日前、リハーサルで乗り込んだ飛行士たちは思わず呟いた。
「あちこち荷物がはみ出していますね。
この宇宙船、きちっと収納されて、生活空間広いんじゃなかったんですか?」
明らかに大量の荷物が生活空間を侵食していたのであった。




