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ちょっと待て、こちらは有翼宇宙船部門だ

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

人工重力モジュールをどうするのか、予算承認もされていないのに盛り上がっている中、別の部門も密かに闘志を燃やす。

「今回、短期滞在隊を宇宙に送る際、アメリカ宇宙企業に依頼した。

 それはそれで仕方無いとしても、今後は我々の宇宙機を使って欲しいものだ」

「まあ、将来的にはね」

「あれ? なんか皆、反応が悪いですよ」

「いや、設計を大きく見直す事になりますから、今後の苦労が思いやられましてね」


有翼宇宙機は現在、新幹線と空想特撮シリーズの機体をベースにしたリフティングボディを設計、研究している。

サイズも日本が持っているロケットに合わせてある。


「大体、有翼機を使う意味って、大量輸送が目的じゃないですよね」

有翼機の意義は、接続の簡易さにある。

一度大気圏再突入したなら、着水もしくは着地想定域から大きくは移動出来ないカプセル型に対し、有翼機は移動が容易だ。

これはどういう事かと言うと、着陸予定地の上空の天気が悪い場合、そこから移動して近隣の滑走路付宇宙基地に変更が可能という事だ。

軌道傾斜が少ない日本の宇宙ステーションは、帰還想定日に天候が悪くて延期になったとして、翌日か翌々日に再アタックが可能だが、傾斜が大きいISSだと延期してから再挑戦まで3日以上先になる事も有り得る。

これに対し、上空を上手く回避出来る有翼機なら、帰還予定日を変えずに済む。


そして日本の場合、着地でなく着水であり、海自に頼んで回収して貰う必要がある。

しかし有翼機だと滑走路がある宇宙基地にそのまま帰還する為、持ち帰った物資や人員をすぐに研究施設に運び入れる事が出来る。

海上自衛隊も人員(リソース)不足であり、あまり負担をかける訳にはいかない。

そういう意味でも、宇宙基地に直接帰還出来る有翼機は役に立つ。


だが、有翼機には空気力学による制限が常に付きまとう。

滑空出来る形状にすると、内部容積はカプセル型よりも小さくなる。

「大体、モデルにはHL-20もX-24も小型ビー〇ルも1人から2人乗りです。

 新幹線ALFA-Xも1人で操縦し、予備の運転士がいるくらい。

 今の設計だと、コクピットに4人が精一杯ですな。

 そして、持ち込める貨物量も人が持ち込める量、精々数百キロ。

 この設計だとアメリカの民間宇宙船のような7人乗りとか、無理です」


アメリカのスペースシャトルの軌道船(オービター)は、全長37.24メートル、翼幅23.79メートルという巨大な機体である。

これは50~100人を乗せる小型旅客機(リージョナルジェット)よりも大きい。

ひと昔前の中型旅客機、全長26.3メートル、翼幅32メートルのYS-11より一回り大きいくらいだ。

全長9メートル、翼幅7.2メートルのHL-20や、全長13メートルの三角ビー〇ルを叩き台に再設計した機体とは搭載力に差が出る。

そして、これだけ大きいスペースシャトルですら、搭乗可能人数は最大8人と、遥かに小型なカプセル型宇宙船の最大7人と大して変わらない。


そして有翼機の究極の目標は、水平発進での宇宙到達である。

ロケットの先端に取り付けて垂直に打ち上げるのではなく、空力を使って自力、または補助機関による超高空到達、それ以降は自力のロケットまたは広義のジェット(内燃機関式でないスクラムジェット等)で低軌道に到達させる。

現在はその為の実験段階で、大人数の輸送、貨物の輸送は輸送用打上機(ローンチ・ヴィークル)を使った方が今のところ効率が良い。


「焦らず、確実に開発を進めましょうよ」

とは言いつつ、折角軌道上に自国の宇宙ステーションがあるのだから、降下実験や無人機での打ち上げ実験までには漕ぎ付けたい。

多目的ドッキングモジュール「うみつばめ」には、スペースシャトルや有翼機がドッキング出来るよう、少し本体からせり出した、旅客機乗降用舷梯(パッセンジャーステップ)状のポートが備わっている。

「一度は有翼機をそこにドッキングさせてみたい」

そう目標を立てていた。


「まずは10分の1スケールの機体で大気圏再突入及び滑空実験。

 その次は2分の1スケールで同じく大気圏再突入及び滑空実験。

 そしてエンジン無しの実物大実験機の打ち上げと滑空試験、これは軌道周回はさせない弾道飛行に近いものになりますね。

 それから無人機、最後に飛行士が搭乗して、という運びになります」

「その手順で良いのだが、スケジュールを早めたい」

「すみません、何を焦っているのですか?

 大量輸送、大人数の運搬は用途が違うから、民間宇宙船と張り合う必要は無いんでしょ?」

「いや、これは秋山リーダーに聞いたのだが、この先3年4年ならともかく、10年以上宇宙ステーションを運用する予定は無い、と。

 アメリカの国際宇宙宇宙ステーション次世代機と、月探査計画の方に組み込まれて発展的解消が先々の予定にあるとの事です。

 さらに、その頃は総理が代わっているどころか、政権だって今と同じか分かりませんからねえ。

 予算がついて、宇宙での実験を自由に出来る間に、出来る限り進めておきたい」

「であるなら、たしかに計画前倒しにした方が良いですね。

 であっても、技術的な問題で長引くものもあるから、焦りは禁物でしょう」

「10分の1模型や2分の1模型、ペイロードの持ち帰りは出来ますね?」

「それが出来ないと、『こうのす』への輸送が後回しになるって事ですよね。

 大丈夫です。

 小さいなりに、相応の物を貨物室に入れて降下着陸可能にしてますよ」

「では、早く完成させて宇宙での実験を再開させましょう。

 確かに慌てる必要はありませんが、それでも急ぎましょう。

 時間は待ってくれないようです」

実験機の開発が急がれる。

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