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小型衛星放出

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

各国のミッションスペシャリストたちにとって、小型衛星(キューブサット)放出は一大イベントである。

多目的ドッキングモジュール「うみつばめ」の発射装置に、衛星を先端につけた軌道投入ロケットをセットする。

「魚雷発射管みたいですね」

森田副船長補佐の感想に古関副船長が

「魚雷はあんなに細くねえなあ」

とボソッと返す。

一辺10cm、大きくても一辺15cmに満たない小型の機械。

それを所定の軌道に送り込むロケットは直径15cmの筒に入れられている。

筒は単に射出まで滑走を安定させる為のもので、実際のロケットはそれより小さい。

投入する軌道によって、推進剤の量、出力の違いがあるが、基本的に余り大きいものは使わない。

出力が高いヒドラジンを使うものも、姿勢制御などで窒素ガスを使うものも、基本的には爆発の危険があるから、宇宙ステーション内に多く保存はしておけない。


多目的ドッキングモジュール「うみつばめ」はモジュール外部に、イオンエンジン用のキセノンガスも含めた様々な推進剤を貼り付けて保管している。

異常があれば、外部のそれらガスタンクを放棄する。

さらには「うみつばめ」そのものも、「こうのす」本体に被害を及ぼさない為、いざという時は切り離して捨てられる。

2017年のSF映画のように、火星から持ち込まれたサンプルが異常成長して襲って来るような事態になったなら、方針として「うみつばめ」に閉じ込め、そのまま射出して切り離す事になる。


射出シーケンスは、マイナス1800秒、つまり射出30分前からスタートする。

30分前にはまだ与圧室内だが、衛星の電源が入り、自身のデータを送信し始める。

ミッションスペシャリストは、自分の端末を使って、衛星の状態が軌道投入に耐えるものかどうかを確認する。

20分前には射出用の発射管に装填される。

潜水艦やVLSではないので、ここから直接発射はされない。

発射管の船内側が閉じられると、船外側が開放される。

そこからロケットを収めた筒ごと船外に送り出され、アームがそれを掴む。

そしてアームは、ロケットの噴射(バックブラスト)が宇宙ステーションに当たらないよう、離れた位置に発射筒を移動させる。

こうして5分前には発射位置につき、ここからは衛星のデータが地上でもキャッチできるようになる。

射出マイナス300秒からマイナス60秒になるまでに、射出角についての諸元を確認する。

マイナス60秒からゼロになるまで、完全に自動で推移する。

ミッションスペシャリストに許される操作は、非常停止だけである。

ゼロアワーになると、大概は緩やかな噴射によって衛星と軌道投入スラスターのセットが滑り出て行く。

射出プラス10秒から、5秒置きに「うみつばめ」から軌道投入ユニットにつけられた反射板に向けてレーザー光が発射され、測距データが逐次得られるようになる。

位置データは「こうのす」のアンテナを使って、NASA、JAXA、衛星製作国に送信される。

各地の管制官と交信し、衛星の稼働を確認する。


実に宇宙技術者っぽい仕事である。


「普通にロケットから放出すれば良いんじゃないか?」

それを言ったらおしまいだ。

小型衛星(キューブサット)は、大型ロケットの貨物(ペイロード)の重さ調整に乗せるバラスト代わりであり、わざわざ宇宙ステーションに持って来て、そこから射出するものではない。

ISSでもこの放出はやっているが、正直サービス的なものである。

「こうのす」のもサービスというかパフォーマンスでやらせているものであり、各国の本命の衛星はきちんとロケットに乗せ、そこから軌道投入させている。


だが、先を睨めば意味はある事だ。

将来は部品を宇宙に持ち込み、宇宙で組み立て、それを宇宙ステーションから発射したい。

船外に射出機(カタパルト)を設け、それを使って月なり火星なりに宇宙ステーションで組み立てた探査機を発射する。

地上で組み立てると、どうしても打ち上げる際のロケットのフェアリングに収まるサイズと形にせざるを得ない。

宇宙で組み立てるなら、より効率の良い設計にする事が出来よう。


「実はこの『うみつばめ』からの射出は、電磁カタパルト方式にする予定だった」

古関副船長が語る。

「どうしてそうしなかったんですか?」

「オーバースペックだからなあ」


地球の周回軌道に乗せるだけなら、そんな高速は必要ない。

月や他の惑星への射出については、ギリギリ月までが計画の内で、他は「またいつか」である。

最大の理由としては、某宇宙戦艦の切札ウェーブモーションガン同様、エネルギーを貯めて一気に使う為、実験設備が一時的にダウンしてしまう、まだそれくらい電磁カタパルトは効率が良くないものであった。

「カタパルトなら『行きまーす!』と言いながら射出出来ますね」

「いや、それは乗ってる側の台詞。

 射出する側としては『カタパルトセット完了、〇〇、発進よろしくて?』と言う」

「お、副船長も分かってますね!

 その台詞、クールビューティーな女性に言って貰わないと!」

「硬派に言うなら『戦術長、地球の仇を取って来て下さいよ!』かな」

「メ2号作戦ですね!

 自分としては硬派なのなら、垂直発射でガンバ〇ターマーチを鳴らしながら射出ですね」

「あれ美少女アニメだろ。

 全然硬派じゃないと思うが」

「では、その同じ監督の作品で

『射出ハブターミナルに到着。

 進路クリア。

 オールグリーン。

 発進準備完了。

 〇〇、リフトオフ!』

 ってのもいいでしょ」

「それは衛星が暴走するフラグかい?」


……等等ヲタトークが続く。

小型衛星(キューブサット)射出任務におけるサポート役ではあるが、順調過ぎて暇を持て余しす故についついアニメ話に花を咲かせる副船長と補佐であった。

なお、射出をしているミッションスペシャリストたちには、そのヲタヲタしい日本語は聞こえていても、何を言ってるのか(非言語的な部分で)意味が分からないので、任務に支障は出る事はなかった。

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