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新型宿泊モジュールドッキング

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

短期滞在隊打ち上げに先立ち、新型居住モジュールがアメリカから打ち上げられた。

数日の飛行の後、モジュールは日本の宇宙ステーション「こうのす」とランデブーに入る。

ロボットアームでモジュールを把持(キャプチャー)した古関副船長は

「重いな」

と呟いた。

アームを動かすハンドルと、実際のモジュールの動きの違いで感じられたようだ。

ドッキングさせてみると、サイズも大きい。

ドッキングポート、入り口付近を絞っている為、他のモジュールに干渉したりはしないが、居住部にあたる部分が一回り大きい。

「重量配分調整が必要かもしれないな」

橋田船長が語る。

昔の潜水艦ではあった事だが、急速潜航などでダウントリムが必要な時、乗員が艦首の側に集まって前方を重くして傾きを速くする。

宇宙ステーションでも、重心がずれた場合、重量配分を変えて回転軸がふらつかないようにしたい。

この場合、船外にくくり付ける荷物や、ドッキングポートに一段、多目的輸送機の「のすり」を挟む事でバランスを取る。

どのように重量配分を変えるか、船長と地上スタッフが話し合う中、ドッキングした居住モジュールの気圧や、空気成分調整が行われ、通電して中の機器が全てコアモジュールからの電力供給に任されるようになった。

そしてハッチを開け、中の確認となった。


古い話だが、日本がISSに輸送機「こうのとり」初号機を打ち上げた時、与圧室についてのノウハウが足りていなかった。

照明に蛍光灯を使用したのがその例である。

打ち上げの衝撃で、一部の照明は壊れてしまっていた。

それはハッチを開け、中を確認して分かった事だ。

この初号機の打ち上げで、「こうのとり」タイプは排熱に問題がある事が分かり、後のHTV-Xで太陽電池を全周貼り付け型からパドル型に変えるきっかけとなったのだが、これについては地上管制で分かった。

内部の温度計がデータを送って来たからだ。

照明の破損は、そういう事があると予め知っていないと、照度計や内部カメラ等も設置しようがない。

その後改良され、壊れにくいLED照明が使用される事になる。

このように、中に入って確認するという作業も必要な事であった。


さて、中に入った古関副船長は思わず息を飲んだ。

「豪華だなあ」

壁一面にディスプレイがあり、「Welcome」の文字が流れている。

一定時間で、地上の緑の景色が映ったり、一転して宇宙ステーションから見下ろす地球の風景が見えたりする。

これはカメラ映像を表示しているだけで、肉視する窓は別に存在していた。

強度を増す意味もあり、柱状の構造物もあるが、そこは一部が3Dホログラフィを映すようになっている。

エントランスの照明はオレンジだが、ナトリウム灯のような無粋なものではない。

シャンデリア風の照明から、蝋燭の灯のような光を出しているのだ。

無論、シャンデリアを直接持ち込んで等いない。

半球状の樹脂の中に、シャンデリアのような構造が埋め込まれていて、照明部分はLED電灯であった。

夜間照明はこの蝋燭の灯のような光となる。

昼は白色光で、しっかり明るく見える。


個室はカードキーで開く。

使う予定はないが、一応長期滞在隊用のカードキーも用意されていた。

それを差し込むと自動でドアが開く。

このドアは手動でも開ける事が出来て、緊急時には強引に開く事が可能だ。

中に入り、カードキーを所定の場所に差すと、中の照明が灯り、エアコンが利き始める。

「この辺はホテルと一緒だな」

古関副船長が言うと、一緒にチェックに入ったミッションスペシャリストの柳川飛行士が驚いた声を上げる。

「これ、見て下さいよ。

 キーを差し込んだら副船長の顔がモニターに映ります」

ドアは擦りガラス状だが、内部からの操作で限りなく遮蔽に近いものから、透明にまで変えられる。

遮蔽状態はプライバシーの保護的には良いが、これだと中で誰が寝ているのか分からない。

そこで、IDカードも兼ねたキーを差し込む事で、入り口にある小型モニターにルームキーの主の顔写真が表示されるのだ。


柳川飛行士もルームキーを貰い、個室を試体験する。

「柔らかい布団っすね。

 宙に浮いてるような感じです」

「……ここは無重力だからな」

「室内を風が流れているような感じです。

 温度調整も出来ますね。

 快適です」

「……宇宙ステーションは空調完備だから、開けて寝ればどこでもそれは同じだぞ」

「収納庫も良い感じですねえ。

 壁面に目立たないように在って、物を仕舞っておけます」

「……無重力だと、別に宙に浮かせていても特に問題は無いけどね。

 それに、必要なら拡張与圧室の方に余計な荷物置いておけばいいし」

「装備されているタブレットで、船外とか、カメラ映像とかも見られますね」

「我々が持って来たPCを船内WiFiに繋げば、同じ事出来るけどな」

「ここにミニ冷蔵庫ありますよ。

 ミニバーとか出来るんですかね」

「宇宙はアルコール持ち込み禁止だけどな。

 一応、キッチンには多少あるが、基本ここには水かアイスコーヒーを入れるかな。

 ここは厨房モジュールからちょっと遠いけど、我々のコア1の個室からだと、すぐ傍だから必要ないな」

一々ツッコミを入れる古関副船長である。


とにもかくにも、便利なのか、余計な機能なのか、豪華な居住モジュールの運用が始まった。

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