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頑張れ日本の御老人

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「新型に乗ると、如何にジェミニが訓練機かよく分かる」

船長を勤める事になった森田飛行士がそう語った。

新型の有人宇宙船は、快適な新幹線の座席のようだ。

それに比べればジェミニは、路線バスがそのまま夜行バスになった4列シートのきつさがある。

ジェミニの場合、所狭しと計器があちこちに並んでいる。

流石に1960年代と違い、ブラウン管のモニターはなく液晶パネルにはなっているが、その他のメーターは、そのまま機械やタンク内の様子を示すアナログなものである。

一方の新型は、基本的に操縦しなくても良い。

前面に宇宙船の様子を示す巨大モニターが3面貼られ、表示は座席前面、窮屈にならない位置に置かれた液晶コンソールで切り替えられる。

新型は収納スペースに綺麗に荷物が収納されているが、ジェミニだと空いたスペースに縛り付けて設置する。

結果、雑然として見えるジェミニに対し、白壁が見えて必要最低限のスクリーンだけの未来的な宇宙船となる。


6人のミッションスペシャリストも、万が一に備えて操縦訓練は受けている。

その訓練はジェミニ改の地上シミュレータを使った為、アメリカの新型宇宙船に入って

「全然違いますね」

と嘆息した。

メカメカしいのが好きな人もいるし、白基調の殺風景な未来的なものが好きな人もいる。

どちらも宇宙船らしくはある。

日本のアニメを見て育てば松○メーターがないと寂しく思うし、

アメリカのSFテレビドラマを見て育てば「プシッ」と開くドアの先の白い部屋とモニターを見て宇宙船だと思うだろう。


その新型宇宙船は全自動化されているだけに、旧型をリニューアルしたジェミニ改のように脱出経路が分かりやすくはない。

ジェミニ改は非常口の閉鎖機を外せば、丁寧に開けるも良し、蹴り飛ばしても良し、とにかく外に出られる。

閉鎖機もハンドルを回せば解除出来る。

分かりやすく「EXIT」とプレートを貼ってある。

また、コクピットの座席は旧ジェミニ同様、戦闘機のように射出(ベイルアウト)される。

この時、ハッチが閉まっていようが火薬で吹っ飛ばすし、開いていなくても射出される椅子がハッチを強引に破壊して外に飛び出す。

とにかくいざという時、分かりやすく外に逃げられるのだ。

新型は、壁面のカバーを外し、そこのスイッチを切る事で非常脱出口が開くようになる。

脱出口はドッキングポートと同じで、そこを登って船外に出る。

ジェミニ改が非常時には超航空であろうが、乗員を直ちに爆発する宇宙船から放り投げるタイプなのに対し、新型はカプセル単位で非常脱出する。

その為、居住区兼大気圏突入モジュール兼非常脱出モジュールでもあるカプセルが、着水なり着陸なりしてから脱出する事になる。


不安視されていた老先生だったが、この訓練で恐ろしい程に素早かった。

様々な状況での脱出訓練で、軽い身体に意外な筋肉で、金属梯子をスルスルと上り、機体から速やかに離れるという状況では足が速かった。

トラックの上を走らせたら若い人に負けるが、山道だったり、湿地や沢等を走らせたら外国人ミッションスペシャリストたちより遥かに速い。

不時着を想定したサバイバル訓練でも、どこからか水を持って来て、生えている植物の中から食べられる物を選び、火を起こして料理をする。

これは農学者としての知識と、日本がまだ貧しかった時に様々な経験していた為に出来たものである。

だが、外国人からの見る目は違った。

「ニンジャだな」

「いや、プロフェッサーはそれより上のニンジャマスターだろう」

「老人なのに凄いなあ」

「ちょっと違うぞ。

 日本では老人である程、達人になって若者より強くなるのだ。

 ドラゴ○ボールでも、ローシは凄まじく強いじゃないか」

「ミラクルピースのエドを作ったイエヤスは七十過ぎても戦場に立っていたそうだ」

「いや、もっと凄いのがいると聞いた。

 あるサムライ・ダイミョーは93歳まで生きたそうだが、

 それでも父親と弟がイエヤスに度々逆らって命を狙うというストレスが無ければ、もっと長生きしたそうだ」

日本(ヤバーニ)の老人はヤバいな」

「まったくだ」


老先生の身体能力に驚嘆したのはミッションスペシャリストたちだけではない。

「御老体だから、くれぐれも健康管理をしっかりして欲しい。

 よろしく頼みます」

等と言われていたNASAの職員も、その能力を見て囁き合った。

「かつてイソロク・ヤマモトという提督(アドミラル)が居た。

 太平洋戦争(パシフィックウォー)で我がアメリカと戦った男だが、名前の意味は五十六(フィフティシックス)だ。

 父親が56歳の時に産まれたから、そういう名前になったそうだ」

「日本の老人はそうなのか!?

 若い奴は覇気が無い感じなのに」

「ビデオゲームにも、やたら強い爺がいるよな」

「そいつは剥げて、横の髪だけが逆立っている筋肉(マッスル)爺の方か?

 それとも巨大なハンマーや刀を振り回すサムライ爺の方か?

 もしかしてコンクリートの柱を二本持ったポケ○ンの爺か?」

「どれでもいいよ……。

 とりあえず世界一の長寿国・日本だし、爺さんも侮れないって事だ」

「異論無し。

 むしろ若者以上にタフで頑健であると見た方が良いだろう」


こうしてまた一つ、日本に対する誤解が増えていった……。

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