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第三次長期隊先遣隊到着とやっぱり引っ越しは楽じゃないよ

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

ジェミニ改2が種子島宇宙センターから打ち上げられた。

第三次長期隊3人を乗せている。

このジェミニを打ち上げたH3ロケット特別仕様機の数日後には、HTV-Xを搭載したH3ロケットも打ち上げられる。

HTV-Xにも暴露設置用の大型ラック等が搭載出来る為、「こうのす」の外部も内部も新たな研究器材を設置する作業が続く。


「さっさとゴミ掃除、役目を終えた機器の撤去を行って貰い、

 入れ替わりになる筈の第三次長期隊を先に受け入れたのは、人手が欲しかったからです」

山口船長が説明する。

6人で常勤運用する「こうのす」に9人滞在するのは、それなりの負担となる。

だが、内部においては研究ラックの運び込みと設置、外部においてはロボットアームの操作と設置の為の船外活動が行われる為、人手は多い方が良い。

全員が作業をする訳ではない。

だが、交代しながらだと長時間連続して作業が出来る為、結果として早く終わるし、分業している飛行士が地上との交信や調理をしている方が良い。


まずはロボットアームを使い、コア2の軸部ドッキングポートに接続しているジェミニ改を、予備のドッキングポートに移動させる。

ここは電力供給がされない為、予備のポートに接続したら、システムを起動させてジェミニ改の電池を使って温度調整やコンピュータのデータ通信を始める。

第二次隊の中では先に帰還する井之頭副船長は、コア1の個室を明け渡し、この日から帰還用ジェミニのコクピットで休息を取る事になった。

コア1には4室の個室があり、男性飛行士4人のうち、山口船長が船長室となった旧「こうのとり改」に一人で住んでいる為、3室が利用され、1室空いている状態だ。

井之頭副船長が個室を明け渡さなくても、第三次隊先遣隊の部屋は調整可能なのだが、生真面目な井之頭副船長は

「帰還まで、自分の身を預ける機体の何か起きないか、自分が乗る事で逐一確認を取ります」

と言って、早々にコクピット生活を始めた。


コア2にも4室の個室が在るが、現在は女性2人がコア2を独占しているような状態だ。

今回の第三次長期滞在隊は、1人は女性飛行士なのだが、先遣隊で来る3人は男性である。

古関副船長、土壌農耕モジュールのミッションスペシャリスト・生野飛行士、環境観測系ミッションスペシャリストの中島飛行士である。

コア1で空いた個室は2室なので、1人はコア2の個室を使わざるを得ない。

今まで女性の城と化していたコア2に、男性飛行士が個室を得て生活する事になるが

「別に望んで占領してた訳じゃないです」

(あくまでも地上スタッフと船長・副船長が気を使っただけ)

「私は1週間以内、石田さんも2週間後には地上に戻りますから、気にしませんよ」

との事だった。


そんなこんなで受け入れ準備の整った「こうのす」に第三次隊先遣隊が到着した。

第三次隊の古関副船長は、ロボットアーム操作のプロである。

更にHTV各種の操作についても得意であり、彼の着任を待って作業が始まった。


まず、ゴミを満載したHTV-Xの切り離しが行われる。

スムースに軌道投入させると、廃棄用のHTV-Xの運用は地上に引き継がれた。

この機体は最後の仕事(ミッション)、大気圏再突入のデータ収集に使用される。

冷戦時に宇宙開発に乗り遅れた日本は、ICBMの弾頭を着弾させる為に当時の米ソが数多く繰り返した大気圏再突入実験のデータを持っていない。

平和利用の為か、裏に事情があるかは触れないが、独自の大気圏再突入データは欲しいところだ。


次いでランデブー状態にあった多目的ドッキングモジュール「うみつばめ」を、今までHTV-Xの接続されていたドッキングポートに接続する。

それが終わると、ロボットアームを使って、ロボットアームの設置を行う。

アメリカから別のロケットで打ち上げられていたカナダ製のロボットアームを、「うみつばめ」に接続する。

「うみつばめ」は今後、「HTV-X」やアメリカの民間宇宙輸送機のドッキング先となる為、コア1本体よりも、ここに設置した方が使い勝手が良い。

また、日本独自のイプシロンロケットを使っての小型輸送カプセル回収用のレーダーや誘導レーザーも外部に増築する。

(早くこの部分が有効活用される日が来れば良いな)

「HTV-X」や民間宇宙輸送機と結合される共通結合機構(CBM)は、モジュールの完成後は外にせり出した形になっている。

これはスペースシャトルのような有翼有人宇宙機のドッキングを見越しての設計であった。

まだ有翼機完成の目途は立っていない。

いつ使用されるかは分からない。

もしも早期に完成した日には、このドッキングポートが有れば役に立つ。

その日を待ちたい。

「うみつばめ」には期待と希望と打算と皮算用の他に、将来の「夢」も搭載されていた。


アメリカの「ホルス」は既にドッキングしており、これで「こうのす」の有効なドッキングポート10基の内、9基にモジュールまたは有人宇宙船が結合された。

残る1基に、短期滞在者用の豪華宿泊モジュールが結合される予定である。


「完成に漕ぎ付けましたね」

「技術系の飛行士が3人もいると、そりゃ順調にいくよ」

「井之頭隊の帰還より先に先遣隊を送るってのが功を奏しましたね」

「あとは残る三次隊用の研究ラックや生活物資を持って来るHTV-Xのドッキングで我々は任務完了(ミッション・コンプリート)ですよ。

 4ヶ月目に突入しましたし、長かったですね」

「堅物の井之頭君だけど、今日は飲もうや。

 石田船務長から、熱燗で貰いました。

 熱燗だから、少量だけですよ」

「少量なら、いただきましょう。

 もうあと何日も無いですから」


パイロット系、技術系の飛行士3人が祝杯を上げ、軽く酒と成功に酔っていた。


……その頃、新任のミッションスペシャリスト2名は、宇宙に酔っていたのであった……。

どんなに生活空間を改善しても、素人にとって宇宙はやはり慣れない環境なのだった。

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