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第四次長期隊選考

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

人から始めるか、計画に沿って人を集めるか。

本来、提出された「宇宙でしてみたい実験」を吟味してミッションスペシャリストを選考する。

しかし現在宇宙ステーション「こうのす」は「宇宙で長期滞在、宇宙で自給自足、宇宙に出来るだけ日常を持ち込む」という継続実験中である。

それに沿って「土壌農業の専門家」「水耕農業の専門家」が選抜されている。

そして土壌農業で問題発生した為、第三次長期隊から延期された「水環境の専門家」が送られる。

水環境の専門家というが、実際は「干潟」の研究者であった。

干潟が持つ水質浄化能力、干潟という環境での生物、そして干潟の生物の食用について詳しい。

一方で、地上から指示を出す協力者として、浄水のプロである水道局の職員が招かれた。

彼が宇宙に行くという可能性もあったが、無重力及び閉鎖環境への適性が無かった為、地上での協力となった。

(正確には水道局に協力を依頼したところ、何人か協力者を推薦してくれたものの、彼等は宇宙に行く事を拒んだ為、一応受けて貰った適性試験もポイントが低く出た。

 基本的に意欲が無いと高ポイントは出ない。

 家庭環境で子供の年齢次第では、長期出張は嫌われるし、まして絶対安全とは言えない宇宙なら……)


この長期宇宙滞在という継続テーマは理解しやすい。

だが、政治的な事情で決まった任務も出来ている。

「こうのす」の前の宇宙ステーション「こうのとり改」の時、最も人気があった実験は「大気圏再突入したカプセルの回収」であった。

さらに、失敗した有翼機部門が雪辱を望んでいる。

宇宙から実験機であるリフティングボディが降下して来て、衆人環視の中を着陸し、中から成果物を回収する

……そういう光景を政治家先生たちが望んでいたのだ。

与党の議員だけでなく、委員会とかで難癖つけた野党議員や、当地の地方議員も

「やるんなら我々の地元に招致したい」

「宇宙港の開港や、管制施設を作って地域活性化したい」

「地元の大学も協力を申し出ているし、考えて欲しい」

と言って来ているのだ。


この要望には、地方空港の有効利用という事情もあった。

空港を作ったは良いが、予測よりも利用客が下回っている。

国際線を誘致したりもしたが、昨今は入国制限・出国制限で上手くいっていない。

有翼宇宙機の着陸基地という利用も可能にする事で、別の補助金が得られる。

実験機だけでなく、後に完成するかもしれない実用機の方を視野に入れていた。

この宇宙港誘致を有利に進める為に協力している議員もいる。

無視も出来ない。


という訳で、船長と副船長は単に宇宙ステーションの管理だけでなく、地球降下の実験を行う技術者を兼ねる事になった。

フェーズ3では、ドッキング中継用のモジュール「うみつばめ」が接続される。

このモジュールから各種実験体を発進させ、目的地に降下させるのだ。

四次隊は、それまでと違いモジュールをドッキングさせたり、機能拡張の為の増設工事をする事は予定に入っていない。

船外活動よりも、降下隊の遠隔操作が上手い飛行士が選ばれる予定だ。


このように、長期隊6人のうち、5人は任務が決まっていて、それに沿った人材が選抜される。

決まっていないのが「宇宙でも可能な限り日常生活を」の担当である調理主任であった。

フェーズ3までに接続される「物理・化学実験モジュール」「天文・測地モジュール」に担当のミッションスペシャリストがいない。

従って、短期滞在隊が使用する事になる。

天文・測地モジュール「ホルス」はアメリカの実験棟で、彼等の利用予定が既に入っていた。

物理・化学モジュール「おうる」も日本人以外の利用申請が入っている。


「長期隊は日本人主体だが、短期隊で多数の外国人が滞在する。

 日本人用の飽きない食事と、外国人用の食事も作れる料理人が欲しいですね」

「現在の石田さんにもう一回お願い出来ませんかね」

それには秋山が首を横に振る。

「今回だって無理を言って宇宙に行って貰ってるんです。

 彼女には家庭がありますから、これ以上無理は言えませんよ」

石田船務長は、宇宙飛行士になりたいと言って来たわけではない。

訓練生の推薦で、臨機応変な料理スキルを見込み、頼んで宇宙に行って貰ったのだ。


「知り合いの料理人が『また選考しないんですか?』って言っています」

「……総理の方からの話で、海外からも料理主任の自薦があるそうです。

 ベルティエ料理長の成功が、ヨーロッパでは大々的に報じられたそうでして」

「アメリカの小野さんからも、ニューヨークの料理人が売り込みかけて来たって聞きました」

「……アメリカ料理って美味かったか?」

「それはアメリカをナメてますよ。

 ニューヨークは世界各国の美食が集まっています」

「念の為に聞いておきますが、イギリスからの自薦は無いでしょうね?」

「流石に英国(メシマズ)は何も言っていませんよ」

「アメリカも英国(メシマズ)の一派だと思ってたんですが、流石に実力を見ないと断れませんか」

「きちんと審査しましょうよ」


こうして、唯一候補者が決まっていない調理主任についての選考会が行われる事に決まった。

そして、公募を掛けると最初の公募の時以上に履歴書が送られて来た。

南極越冬隊同様、不便で物資的に制約がかかる施設なのだが、それでも「やってみたい」という変わり者の根は尽きぬのである。

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