第四次長期隊計画承認
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
秋山と上長は総理秘書から連絡を受ける。
連絡の内容は何となく予想がついていた。
「第四次長期隊打ち上げが承認されそうです」
三次隊までの約1年で成果を確認しながら第四次隊以降の予算がつけられる。
宇宙になるべく日常生活を送るという事、
宇宙で長期生活をする為に地産地消が出来るか、
その上で有意義な研究となっているか、
こういうのを評価した結果、三次隊以降も続ける価値があると判断されたようだ。
「それでですね、正式に承認する為、四次隊以降の研究計画を提出して欲しい、との総理からの伝言です」
「あの、ちょっと良いですか?」
「何でしょう?」
「それって、四次隊以降の予算をつけるかどうか、判断する前に聞く事じゃないんですか?」
「はあ……。
秋山さん、分かっているのに無用なツッコミやめましょうよ。
結果が先にあって、それを正当化する為に後付けで理由を求めるのはいつもの事でしょうに」
「それの是非はともかく、理由を考えろと今更言われても困りまして……」
「今更じゃなくて、前もって言ったんですがね」
「え??」
「計画が承認されるのは通常国会の終わり頃で5月頭です。
それまでに計画出して下さいって事です」
「ですが、予算は通過したんですよね?」
「予算委員会で承認されましたよ」
要は予算は先に抑えたけど、計画承認はまた後になるから、計画としてもっともらしいものを作れという事である。
なお、継続案件であっても「前回と同じ」は許されないそうだ。
やらないかもしれないが、衆議院・参議院の宇宙開発委員会への説明も含め、新しい案件が欲しいそうだ。
「以前みたいなワープ航法開発は駄目ですからね」
「えーと、理由を教えていただいていただけますか?」
要は、開始前なら好き勝手な事言ってもある程度大目に見られるが、継続案件だと
・現在までの結果報告
・以前提案した計画の進捗報告
・進捗が遅れている事の改善項目
・以上を踏まえた上で、新しい視点での計画
が欲しいそうだ。
「レベル、いきなり上がってませんか??」
「当たり前です。
今回チェックするのは与党の先生方ですから」
始める時に
「そんなのにお金をかけても無駄だ」
失敗した時に
「ほらみろ、責任問題だ!」
大成功した時に
「関係各位の努力に敬意を表します(政府の功績じゃなく、現場が頑張っただけだからな)」
こういう議員ならチョロい。
継続案件について
「成果出てないからやめよう」
というのは言い負かせるが、
「順調ならば、少し予算を減らせないか?
スタートアップに予算がかかるのは分かるが、継続なら合理化して予算減らせるだろう」
といった類の議論は厄介である。
「現在の額があるから出来るのだ」と「それは分かるが、少しは節約出来るだろう」の水掛け論になりがちである。
「予算は外貨準備から出ているから、大した審査にはならないのでは無かったのでは?」
「予算の大枠はそうですよ。
ただ、一般から人を選抜し、危険な宇宙に上げるのだから、政府が絡まないわけにはいきませんからね」
つまりは、有人宇宙飛行の予算は閣議決定でどうにでもなるが、宇宙飛行士が行う研究や任務は国も口出すぞ、という事だった。
「以前出した計画の進捗報告ですか?」
秋山から話を聞いた職員が頭を抱えた。
なにせ、最初は「これだけ無茶な計画を出せば、予算も通らないだろう」と、非常に大風呂敷を広げた計画を出したものだった。
「木星に行ってヘリウム3を採集し、エネルギー開発に役立てる」
「冥王星まで進出し、地球絶対防衛圏を確立する」
といった具合に。
しかし、
「将来の宇宙戦士訓練学校設立を目指し、宇宙飛行士を数多く養成する」
「地球環境の保全の為、宇宙ステーションを作って強制的に人類を移住させる」
「巨大宇宙船を建造し、数千年がかりで『他に人類の移住出来る惑星があるか』行って調査する」
という計画については
「進捗報告出来るんだよなぁ……」
となっている。
そう、アメリカ基準からすれば甘いが宇宙飛行士を多数育成し、宇宙での定住環境もしくは恒星間航行を見越した「宇宙での自給自足」の成果が上がっている。
それ自体は良い事なのだが
「改めて自分が出した頭悪い計画と照らし合わせると恥ずかしくなった……」
という事らしい。
他にも
「地球連邦軍設立の為、宇宙で軍艦の建造技術を培う」
「5ハンドと言われる強化手袋を使って作業する宇宙作業員を作る」
「新たな人類の進化を目指す」
というものも残っている。
「で、それらの成果は?」
秋山の意地悪な質問に
「ゼロではないです……」
投げっぱなしの計画だったが、改めて検証すれば意外な部分が達成されている。
「予定よりも大型の宇宙ステーションを運用した事で、大型船の船内レイアウトとか勉強になりました」
動線というやつである。
「人類の覚醒とか、空間認識能力の飛躍的向上とか、未来位置の予測とかは流石にないですが、
料理担当の無重力環境への適応と新調理法の開発など、素晴らしいものがあります」
「……それは単に、ベルティア氏と石田さんが凄いだけなのでは?」
とりあえず成果は出ているようだ。
秋山はそれを纏めて、もしも委員会で問われた時に答える事にする。
「で、第四次隊の選抜は、この計画を満たす人を選びますか?」
一瞬沈黙。
結局
「そういうのは第二十次隊くらいにしましょう」
と先送りにして、現実的な学者を選考する事としたのであった。




