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「こうのす」での避難訓練

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

山口船長は地上から送られて来たメールを読んでいる。

最近はろくでもない内容のメールが来ていたが、これは意味がある内容だった。

山口船長は井之頭副船長と相談をする。


夕食時に皆に報告をした。

「地上から避難訓練の指示が来た」

まあ、有り得る話だ。

「皆の仕事が多忙な時期は避けるが、大体3時間使うから、そのつもりでいて欲しい」

船長の言に皆が首を傾げる。

「脱出訓練、消火訓練、破損場所の補修訓練と、大体1時間ってとこじゃないですか?」

「そうですよ。

 打ち上げ前、地上での訓練時に5分以内でのジェミニへの乗り込みや、

 10分以内での船外活動着を着ての脱出、あるいは非常脱出ボールを使用。

 それらを出来るようになってここに来た以上、また長々と訓練する必要ありますかね」

船長と副船長は顔を見合わせる。

「もっともな意見だ。

 ここにいる皆の為の訓練なら30分もかからず終わるし、負担も無い。

 一から説明します。

 フェーズ3の事は知ってますね?」

「はい、当然」

「フェーズ3から短期滞在のミッションスペシャリストも受け入れるでしょ」

「そう言ってましたね」

「全部で13人同時滞在になるわけで、彼等を受け入れる前に、チェックが必要とのことでした」

「チェックとは何ですか?」

「『こうのす』も打ち上げ後半年経ったので、備品のチェックをします。

 これは僕と井之頭君でするので、ミッションスペシャリストには迷惑かけません。

 皆さんにやってもらうのは、動線が正しく機能しているか、とか……」

「動線?」

「避難経路ですけど、意図せず荷物置いたりして、邪魔になってないか、とかです」

「副船長、フォローありがとう。

 あと、地上では出来なかったモジュール離脱の訓練もします」

「えーーーっと、個々に宇宙に避難、ではなくて無事なモジュールに全員避難し、

 そのモジュールを脱出ボートとして切り離す、でしたよね?」

「そうです。

 そのボートには僕が使っている船長室、旧『こうのとり改』を使います。

 安心して下さい、ちゃんと掃除しておきますので」

「フェーズ3では短期滞在メンバー用の大型宿泊モジュールを使用するそうです。

 だから地上が知りたいのは、他のモジュールに分散している状態から、脱出完了までの時間です」

「どこがどんな損傷をするかは、我々も知らされていません。

 酸素漏れとか有毒ガス発生は想定出来るので、自分の持ち場の酸素マスクは確認しておいて下さい」

「分かって来ました。

 自分たちの訓練っていうより、フェーズ3用の予行練習って事っすね」

「いや、そこまででも無いぞ。

 実際、避難経路がちゃんと無駄なく通れるかは確認しておくべき事だからね」

「というわけで、仕事少ない時期に調整するので、皆さん協力よろしく」


ミッションスペシャリストの3人も無意味な行事とは思わなかったようで、避難訓練に納得した。

石田船務長も同様である。

自分でも受け持ちモジュールの消火器や酸素マスク、非常用電源切断(ブレーカー)を確認し、私物で塞いでいないかを確認する。

また、船長や副船長の立ち合いもあり、消火器の状態確認、熱探知機、煙探知機、ガス探知機、放水装置(スプリンクラー)の物理的な動作確認も行う。

船長と副船長は、避難訓練をするまでのチェックこそが仕事であった。



そうして迎えた避難訓練の日。

訓練用の事故内容は、言われてみればなるほどと思うが、その時まで想定は出来なかったものだった。


緊急用アナウンスが全モジュールのスピーカーから告げられる。

『これより避難訓練を開始します。

 非常事態発生、非常事態発生。

 太陽観測衛星が太陽の想定外(イレギュラー)大規模フレアを観測。

 大量の放射線や電磁波の嵐が到達すると予測される。

 3分以内にコア1の避難スペースに移動するように。

 繰り返す、非常事態発生(以下略)』


「太陽フレアか」

「隕石衝突か宇宙塵(デブリ)衝突かと思った」

「3分なら簡易船外着を着れるね。

 あれは僅かだけど放射線対策しているから」

「……太陽フレアは防げないけどね」

多少おしゃべりしながらではあったが、鉛の壁(X線、ガンマ線用の遮蔽)と水を入れたポリタンクの壁(中性子線対策)、荷物の壁(無いよりは有った方がちょっとはマシくらい)で防護された区画に全員が避難した。

「狭いですね」

「でもまあ、数分しかいないし」

「我慢我慢」


地上からのアナウンスが入る。

『太陽風到達まであと5秒……2、1、到達』

特に何も起こらない。

訓練だからだが、恐らく実際の太陽フレアからの微粒子直撃でも、その瞬間には何も目立った事は起こらないだろう。


『太陽風通過。

 避難区画から出て、船内の各部をチェックせよ』

そして

『管制センターより「こうのす」に連絡。

 先ほどの太陽フレアにより、位置制御システムに異常発生。

 軌道から外れている。

 船長は修復作業を行い、その他乗員は副船長の指示で安全なモジュールに避難し、

 「こうのす」より分離して一時避難せよ』


「よし、聞いた通りだ。

 井之頭副船長、全員の避難指示を頼む」

「了解しました。

 酸素タンクを持ち、全員旧『こうのとり改』に避難せよ。

 5分後にハッチ閉鎖、臨時切り離しに入る。

 急げ」


そしてモジュール分離まで含めた大がかりな訓練が行われる。

このケースでの訓練が終了後、再度旧「こうのとり改」をドッキングさせて全員が戻って来た。

「お疲れ様。

 総評は後でするけど、皆、スムースに避難してくれたと思う」

船長の言葉に、ふうっと息を吐く一同。


「山口さん、それは?」

「皆が避難している間に指示が入った。

 次は1時間後、フェーズ3の13人とは言わないまでも、もっと多い人数想定で、実験用人形を用意した。

 次は怪我人が出たとの想定で、連れて避難し、避難先で応急手当をするという訓練になります」


訓練は続く。

大規模太陽フレアの話はどこかでしたかったのですが、実際起こってないので、この回使いました。

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