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宿泊業のプロ

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「日本人は初期の軍事教育が完成している」

そう評される事がある。

小学校の教育で、整列、行進、給食の当番、掃除当番、水泳をするからだ。

そういう教育以外でも、必要とあれば最低限の機能しか無いカプセルホテルに泊まる。

裸足でも平気、災害慣れして滅多に混乱を起こさず、規律がある。

軍はまずそういう所から鍛え始める。

つまり訓練を受けていない外国人は、この辺が苦手だったりする。


日本人はサイレントクレーマーだと言われる。

後で文句を言うからそう評される。

つまり、その場では我慢して、そのまま過ごしてしまう。

逆に外国人は不満な部分を率直にクレームとして報告する。

故にどこをどうしたら改善出来るか分かりやすい。


宇宙での増設宿泊モジュール開発に当たり、日本人基準で設計された「空飛ぶカプセルホテル改」なものを見て、タイアップしたホテル業界の人間は零した。

「海軍の、潜水艦の兵員用の寝床か?

 もう少しちゃんと考えて貰いたい」

一方日本側にも言うべき事はある。

容積に限りがあるのだ。

無闇に大きく出来ない。

それに、今回のは実験用な部分もあり、それ程予算をかけたくない。


ホテル業界の者は、PC画面の向こう、ネットワークのあちら側で溜息をつく。

「もっと周囲の個室を広く、使い心地良くしよう。

 横は良いが正面が圧迫され過ぎている。

 入り口とキスしそうだな。

 モバイルを操作するのもきつそうだ。

 それと、窓が足りない。

 だから言ったんだ、潜水艦の寝床なのか?と」


どうも通じていないと考えたホテル業界の者は、しばらく休憩を求めた。

自分で絵を描いて説明したい。

その時間が欲しい、と。

そして描き上がったラフ画に日本側が衝撃を覚えた。

日本側は、中央に通路があって、そこから外側に個室を設置した。

横幅は有る程度広くなるが、奥行きが無い。

棺桶とか日焼けサロンのカプセルのようだと言われる所以である。

一方ホテル業界の人間のアイディアは全然違った。

モジュールは円筒形をしている。

断面ではそれを3等分する。

3等分の内に2が個室となる。

残り1が通路になる。

その通路の壁は全面窓とする。

円筒形のモジュールを縦に3等分。

2室ずつで6室。

そしてドアを開けると、大パノラマの宇宙空間なり、月なり、地球が見られる。

スペースビューという発想である。


「強度的な問題が発生しませんか?」

「そこは君たち技術陣が解決すれば良い。

 私のはラフデザインで、そのまま使えるとは思っていない。

 だが君たちに任せていたら、ずっとマカロニの生地部分を個室にするアイディアしか出なかっただろう」

それはその通りだ。

円筒に物を配置する時、理系の人間はバランス、対称性を重んじて、どうしても中央に空間を、壁際に機器は個室を置いてしまう。

全く違う発想というのも重要だ。


更にホテル業界の者は言う。

「最初のアイディアでは、このモジュールで飲食も出来るように考えているようだ。

 確か『KOUNOSU』には専属のシェフが居るのだろ?

 そちらで食べれば良い。

 トイレとバスは共同のものを使わせるのだから、レストラン……いやビストロよりもっと小さいかもしれないが、そこに行くのに苦は無いよ。

 むしろ、ホテルの個室で食事をするのは、ホステルに長期滞在する学生のような連中さ。

 宇宙にフードマーケットが無いから自炊は出来ない。

 だったら個室での食事やホテルフロアでの飲料供給は無しで良いだろう。

 それよりももっと快適さを」

「モニターやライトはもっと大きく、ただし遠くに。

 ベッドは大きく。

 ドアは開けやすく」


色々と要求されまくって、ネットでの打ち合わせが終わった。

日本のスタッフは秋山の言った

「本当にいいんですね?

 外国人、押しが強いし、会議とか辛くなるかもしれませんよ」

の意味を実感した。

だが、それでも将来を見越せば貴重な意見とも思える。

自分たちだけでは何時も変わり映えのしないアイディアしか出ないのは確かだ。

彼等、非宇宙技術系のデザインも取り入れ、どれだけ斬新的な設計に出来るか。


ネックはやはり窓だろう。

金属に比べて強度が無い。

宇宙では大丈夫だと思われるが、打ち上げ時の衝撃で割れる可能性がある。

そこで、金属フレームと強化ガラスを素材とし、さらに打ち上げ時は補強用に金属蓋を開閉式にする。

また個室の備品をどうするか?

巨大な液晶ディスプレイ(多目的)にライト、エアコン。

そして通信機器も宇宙ステーションの実験系とは独立系統とする。

「モジュールは2回で使い捨て。

 それで十分な安いものを付けましょう」

となるも、日本製は割と高い。

「台湾製にしましょう。

 大型で安いのはあっちの方が良いかと」

そうして選定していると、次の難問が舞い込んで来た。


「私、台湾の〇〇公司のものです。

 アメリカの宇宙局から色々問い合わせ来ました。

 私たちの製品をお使い下さりありがとございます。

 是非お打ち合わせに加えて下さい。

 どういうものが必要なのか、私たちも知りたいです。

 余計な事言いませんので、是非お願いします」


この参加はやぶさかでないが、問題は他からであった。

「どうして私たちを選んでくれなかたんですか?

 私ども製品にも良いものありますし、パンフレット送ります」

「私たちも計画に参加させて欲しいですね。

 あそこの企業だけとかフェアじゃないです」

(一体どこから漏れた!!!!????)


技官たちは、秋山が常に意図せずして話が国際的になり、悩まされる姿を思い出した。

(ああ、こんな感じで隙あればガンガン入り込んでくるのか)

色々分かったような気がした。


秋山は言う。

「ギリギリまで私は出ないからね!

 君たちが言ったんだし、君たちで責任持ちなさいね」

まあ、彼には彼の仕事があるので仕方無かった。

後で図つけた方が良い感じです(今はちょっと時間ないので)。

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