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民間企業としては宇宙ホテルの雛形が出来るのなら見てみたいものだ

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカの民間宇宙企業から返事が来た。

3週に1回の打ち上げは「無理」との事だった。

要は「そういう事は1年前に言え」と、いう事である。

「まあ、そうだよなあ」

と思い、返事を読み進める。

「6週おきの2回打ち上げも本来は引き受けない。

 だが、もしこちらの依頼も聞いてもらえるなら、引き受ける」

その内容が、相手企業に送った「拡張宿泊用モジュールに一枚噛ませろ」というものだった。


アメリカの企業に宇宙船の発注を出した当初は、まだ「お客様用個室拡大モジュール」の件は煮詰まっていなく、HTV-Xで必要物資を運んだ後に、空いたスペースを客室代わりに使う「可能性」を書いたくらいである。

余力はあるとは言え、想定運用人数8人の宇宙ステーションに7人打ち上げ、しかも6人が長期滞在中なら「そもそも無理がある」と言われる可能性があった為、拡張してもっと多数でも対応可能だという事を報告したものだ。

だが、民間企業として興味を惹かれたのがそこだった。


民間宇宙企業の究極の目的は宇宙ホテルである。

それが軌道上なのか、月表面か、火星なのかはともかく、上客が宇宙で快適に過ごせる宿泊環境を建造したい。

その想定宿泊期間も数日から最大で1ヶ月程でJAXAの居住モジュールと近い。

そういうものを実際に使用するのであれば、そのデータが欲しい。

自分のアイデアも出して、洗い出しをしてみたい。

それを自分の責任外、他者のプロジェクトに便乗して出来るなら、一丁噛みしたい。

有人宇宙船の6週での再打ち上げを断るのは、労働者の負担を増やさない為で、技術的な問題ではない。

だが、将来への投資だと思えばボーナスを出して、この間無理を言って働いて貰うのはアリだ。

労働者は場合によっては増やせば良い。

終身雇用でないアメリカでは、比較的楽に一時工員を雇い、終了後にリリース出来る。



「……という返答だったけど、これを受けますか?」

年明け早々の会議で秋山は皆に聞いた。

受け入れないなら、全てジェミニ改でやり繰りせざるを得ず、気象条件や都合により乗り切れないミッションスペシャリストも出て来る。

受け入れる場合、その企業とタイアップという形になり、それはそれで面倒臭い。

もしも無茶ブリ気質の企業なら、こちらが振り回される可能性もある。


「手を組んだ方が良いと思います」

その意見が多かった。

アメリカからの打ち上げで、負荷分散も出来る。

宇宙ホテルの構想はこちらにも有り、他人の意見を聞く事も良い事だ。

そして

「もう一社くらいタイアップ組みませんか」

という提案も出た。

「どこと?

 余り宇宙企業増やすと、船頭多くて船何とやらになりますよ」

「宇宙企業じゃありません。

 どっかのホテルですよ」

世界には様々なホテルグループが在る。

宿泊施設の事はプロに聞こう。

「そこまで話を進めずに。

 まず、アメリカ企業の提案を受けて、打ち上げを頼む代わりに、こちらのモジュール開発への関与を認める、それでいいですね」

「異議なし」

「本当にいいんですね?

 外国人、押しが強いし、会議とか辛くなるかもしれませんよ」

「秋山さんは政治家っていう、アクの強い人たちと付き合ってるからですよ。

 技術者とか企業家は、そこまで我に執着しませんよ」

「言った言葉は忘れないようにね。

 分かりました。

 では、受けましょう。

 まず総理に報告してOKを貰います。

 大方問題無いでしょう。

 ホテル業界とのタイアップの件は、こちらはやりたい、で良いのですか?」

「望むところです」

「どこに頼むか、アテは有りますか?」

「実は」

「実は?」

「もっと前から考えてリストアップはしていました。

 なんせ我々には至高の計画『星空温泉郷』開発が有りますので」

(まだこいつらは、宇宙に巨大浴場作るの諦めてなかったのか……)

「リゾート会社に行った高校とかの同級生に声かけたりしてます」

「分かりました。

 そっちの選定は任せます。

 余り時間は無いので、最終仕様確定までに決めて下さい」

「分かりました」

「アメリカにも言っておきますね。

 向こうも知っておくべき事項ですから」

「当然ですね」


この日の会議はこれで、30分足らずで終わった。

さっさと終えて、連絡や承諾取りに動く。

総理への報告は、

「今、かなり忙しい」

との事でメール連絡となったが、案外早く「その方向で進めて下さい」という返事が送られて来た。

(忙しいのは分かったけど、斜め読みして適当にOK出して、後から

「やはりこうした方が……」とか言って来ないだろうな?)

そう心配した秋山だったが、こちらは杞憂に終わった。


外国企業はやはり押しが強かった。

まず拡張個室モジュール共同開発を承知したという返信をする。

もう一つ、ホテル業界とのタイアップを提案という形でメールした。

朝一の会議が終わったのが日本時間で9時50分、メールは10時15分までに送信した。

そして日本時間15時、アメリカは西海岸の時間で22時過ぎに返信が届く。

「そのアイデアは素晴らしい。

 私の知り合いに早速打診してみた。

 Hグループが希望して来たので、ここに決めて欲しい」


選定の必要は無くなった。

(あっちペースで色々決まりそうだなあ)

秋山は部下の苦労を思いやった。

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