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第二次長期隊本格的に生活し始める

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

川名、松本両飛行士は宇宙の洗礼を受ける。

宇宙酔いである。

打ち上げその日は興奮状態だった。

到着した日は、約1日の旅に疲れ、眠っていた。

疲れはまだ残るが、宇宙に来て何となく無重力に馴染んで来た頃に具合が悪くなる。

重度の乗り物酔いが続く感じ。

頭が痛く、食欲が無く、吐き気がする。

第一次長期隊の山崎、鈴木両飛行士は

(なんか懐かしいな)

と思う。

彼等も来てすぐは酷い宇宙酔いに悩まされた。

こういう時、無理して食べても吐き戻してしまうが、それでもスポーツ飲料は常備されているし、食事もコンソメやポタージュを作って貰えるから困らない。


大体の人が通る道を一日程で通り抜ける。

本格的な宇宙生活が始まった。

まずは公共設備の使い方。

設備としては地球の訓練機に同型のものが設置されているが、ここでは無重力ならではのルールのようなものが話される。


トレーニング機材は、汗が出るまで使うと案外処理に困る。

だから汗は小まめに拭く。

汗を飛び散らせないようにする。

簡易換気装置を自作したから、使用する。

使用後は除菌液を浸した布で清掃する。


タオル、シャツ、下着類は洗濯機があるから、使用後は自分の名前の書いたネットに入れておく。

当番が洗濯し、機械乾燥させた後に持って来るから、アイロンかけや更なる乾燥させたい場合は自分で工夫する。

空き与圧室に干して良いが、早い者勝ちである。

自分が洗濯当番になった時は、水は貴重だから、余程の汚れで無い場合水の量「少」で行う。

酷い汚れの場合、船長に報告し、水の量を見て判断して貰う。

この場合、洗濯不能として廃棄も有り得る。


現在、当直の任務がある。

これは交代で船長席に座り、地上スタッフとの定時連絡(1時間に一度、2分程度)、非常連絡、船外異常監視(主にレーダーで進行方向や接近して来る高速の宇宙塵(デブリ)を探知する)、船外異常監視(酸素漏れ、二酸化炭素の濃度上昇、漏電、火災等を計器で監視)、太陽異常監視(増設装置で新たに加わった機能で、太陽フレアや太陽風の異常を検知する)を担当する。

マニュアルがあるから、時間通りにそれを行えば良いが、ローカルルールとして夜勤の際の飲み物補充がある。

消灯時間帯、船長席傍の保温庫もしくは冷蔵庫にある飲み物は自由に飲んで良い。

飲んだ分は自分で補充しておく。

コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等があるが、それらは昼時間帯に用意しておく事。

基本、粉を溶かして作るが、使った人間は使用ノートに日付と名前と使った品を書いておく。

(他にクエン酸飲料、脱脂粉乳、スープ、葛根湯の粉末あり。

 スティック状アイスクリームも当直時は食べて良い)


当直の役目は、もう入って貰って慣れて貰う。

操縦も地上シミュレーション機で訓練しただろうが、非常時には船長起こして良いとも伝達。

それ以外は、基本休養も仕事の内だから、寝ている乗組員は起こさないようにする。

読書灯やイヤホンを使用する、まあつまりは夜行バスや旅客機の消灯時間帯に準ずる気の使い方をしていれば十分。


公共娯楽スペースのプレイヤーは、DVD、音楽CD、ブルーレイ等を挿しっぱなしにしない。

公共スペースにある棚やロッカーは、大体のパーソナルスペース割りしたので、一応自分に割り当てられた場所での物品管理をしっかりする。

他人の場所に越境して物を置かない。

「洗濯の時も話したけど、空き与圧室は案外あるから、私物はそちらに置くのもあり」


等等。

続いて農場モジュールの責任者となる松本飛行士に、現在のミッションスペシャリストである鈴木飛行士が説明をする。

バイオハザード設備に入る時の防護服の扱い。

在庫種子や出番が無いが一応用意した農薬、樹木用栄養剤、化学肥料、検査薬等の消耗品をチェック。

また、研究と共に重要なのが出荷であり、隣の厨房モジュールに生鮮野菜を届けるのも仕事の内。

しかし土壌細菌に汚染されている野菜を、クリーンルームである宇宙ステーションに入れるのだから、そこの洗浄と殺菌処理は重要になる。

そして殺菌した野菜を入れるパックも確認。


こんな感じで引継ぎを行っているのを、船長と副船長の運用専任飛行士は眺めていた。

「宇宙酔いと引継ぎ期間、これ見越して早く打ち上げた、なんて」

「無いです」

北川船長も分かっている。

地上の本音は

「軍事衛星打ち上げ予定が無くなったから、代わりに打ち上げちゃうね」

だったという事を。

生真面目にツッコミ入れた井之頭副船長に、つい聞いてみたくなった。

「井之頭君、理想の艦長って誰?」

「は?」

「『何もかも、みな懐かしい』って言って力尽きた艦長とか、

 バルカン人に『貴方の行動は非論理的です』って言われる艦長とか、

 『なんてこった』が口癖で銀河系中心に殴り込みをかけた艦長とか」

「リーダーシップっていうなら、架空の人物じゃなくて実在の人物ですが……」

「うん」

「アポロ13号の船長ですね。

 危機にあっても無事に帰って来られる、ああいう人がいいですね」

(いやあ、生真面目な回答だなぁ……)

北川船長は、若い井之頭副船長についてそう思った。


「そういえば北川さんの個室ですけど」

「うん、言いたい事は分かるよ。

 『艦長室』の札も、『糖分』の扁額もジョークだからね。

 帰る時に外して持って帰りますんで」

「あ……ありがとうございます。

 その件でしたんで」


ただ、井之頭副船長は若く、第二次長期隊も次に来るジェミニ改2で船長が来る。

彼は副船長のままである。

新任の船長、予定通りなら知人だから、

(彼くらい緩い方が、長期滞在には向いている。

 真面目な副長と昼行燈の船長、まあ良い組み合わせかな)

北川はそう思った。

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― 新着の感想 ―
[一言]  理想の艦長。  巨大パワード・スーツを積んだ巨大潜水艦の美少女艦長が理想でつ。  無重力ならばつまずきコケる事も無し。  あ゛っ、でも何も無い所でつまずいていたから、無重力でつまずくと言う…
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