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4人→7人

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

ジェミニ改2は打ち上げ後24時間経たない内に宇宙ステーション「こうのす」とランデブーに入った。

「案外小さいですね」

松本飛行士が前方に接続された万能輸送機「のすり」の窓から、個人所有のカメラを構えながらそう言う。

比較物が無いと、ISSのように巨大なトラス構造を持たない「こうのす」は頼りなく見える。

今回ジェミニ改は、「こうのす」に追いつく形でドッキングするのでも、追いつかれる形でドッキングするのでもない。

進行方向で見て前後の軸線上ドッキングポートは既に使用されている。

故に、追いつく形で「こうのす」の下(地球側・低軌道)を進み、コア2のモジュール接続用ドッキングポート(進行方向に対し垂直)下で相対速度をゼロにしながら接近し、垂直にドッキングする。

この機動がある為、早ければ半日で宇宙ステーションに入れる短期軌道を使いながら、約1日を要するドッキング作業となる。

この間、川名・松本両ミッションスペシャリストは特にする事が無い。

比較的広い「のすり」内で、荷物の隙間に体を入れ、窓から迫る「こうのす」を見ているだけだ。

軽く振動が来る。

ジェミニ改と「こうのす」のドッキング部同士が接触した。

ロックされて機体が固定される。

ジェミニ改のコンピュータに「こうのす」からのデータが導通する。

ドッキング作業は完了した。


ハッチが開く。

中に入ると、第一次隊に拍手で迎えられた。

軸線上のドッキングポートだと、入ったら真っすぐ進入すれば良いが、側面のドッキングポートを使っている為、ハッチを抜けたら、垂直に曲がって中央与圧室に入る。

(大きいなあ)

今まで2人乗りを無理に4人乗りに拡張したジェミニ改2、旧ISS輸送機「こうのとり」の与圧室(全体の3分の1程度の大きさ)を流用した「のすり」に居た2人のミッションスペシャリストはそう感じた。


とりあえず、個人用の荷物を持って来て、自分用の個室を決めて、そこに詰め込む。

ミッションスペシャリストはまだお客さん的な部分がある。

自分の荷物以外では、研究用の荷物を運ぶだけだ。

北川船長と井之頭船長が、食糧や衣服や各種フィルター等の貨物パックを「のすり」壁面から結び紐を解いて、宇宙ステーション内の所定の場所に運ぶ。

荷物を運び終えると、内部2.1メートル立法の「のすり」はそれなりの広さになる。

ここが暫定的に井之頭飛行士の個室となる。

先任の北川船長が居る為、井之頭飛行士は宇宙ステーションにおいては副船長となった。

「井之頭君、コーヒーでも飲まないか?」

「いいっすね」

荷運びが一段落し、運用専任者2人はコア1の飲食スペースに移動する。

ベルティエ料理長がカフェオレを作って、パックを手渡す(料理人たるもの、無重力空間でも投げて渡すという不作法は絶対にしないのだ)。

「地上はどう?」

「あ、病気の方っすか?」

「うん。

 一応通信では聞いてたけど、第二波、第三波来てるんだって?」

「まあ…………そうですけど、北川さんが打ち上げられる前と大して変わってないですよ。

 感染人数は増えてますが、夏場と町の感じは変わってないです。

 マスクとアルコール消毒は相変わらずです」

「外国はどんな感じ?」

「自分も外国には行ってないので、ここと知識は大して変わりませんよ」

「そうだね。

 日本の町は自分で直接見てるから分かるけど、行ってない所だとやっぱり聞いた話以上は分からない」

「はい」

「軌道上で4人だけの空間に3ヶ月も居ると、何となく浮世離れしちゃってねえ」

「宇宙ステーションの方が『浮いた世界』ですけどね」

「上手い事言わない」


この時、川名・松本両ミッションスペシャリストは個室に入って眠っていた。

打ち上げからドッキングまで、興奮状態にあって一睡もしていなかった。

男性と女性だから、パーティションで分けられ、直接見たり行ったり出来ないよう気を使った設計となっている。

「オリエンテーションは明日からにしようか」

「そうっすね、酔いが来なければ。

 あの2人、結構はしゃいでましたからね」

「結構うるさい子?」

「いえ、うるさくはないですが、写真撮りまくってましたし、絶えず船内を移動してました」

「君は今日から大丈夫だよね?」

「いけますよ。

 僕が打ち上げられた理由の一つが、運用専任者の負担を減らす事ですから。

 準備は出来てます」

「じゃあ、今晩から頼むので、交代まで休んでいて。

 君もドッキングで目と神経疲れたと思うから」

「では、お言葉に甘えて」


それから約半日後、7人揃って(1人は船長席だが)食事を摂る。

この日は補給物資に入っていた海産物を使ったメニューである。

「肉かと思いました」

「肉は熟成させてからにしますヨ。

 シーフードの方が腐りやすいので、先に使います」

「ベルティエさんって、魚介得意なんですか?」

「私、ニースのレストランにもいました。

 日本人のお客様にも食べて貰いましたヨ」

乗員が4人から7人に増え、環境が変わってお互い興味深々であり、会話が弾む。

一過性のものかもしれないが、マンネリ化していた生活が刺激を受け、賑やかになっていた。

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