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倍の居住空間

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙ステーションの船長、実験・研究が無い運用専任は、機械に故障が無ければ暇なものである。

北川船長の普段はそうであった。

故に、搭乗員の健康管理やスケジュール調整、更には船内の清掃まで率先してする。

だが、モジュール結合や輸送機とのドッキング/離脱、オプションの組み立て等は専ら運用専任の役割で現在は代えはいない。

現在行っているのは、そのオプション組み立てであった。


まずは支柱を立てる。

続いて、太陽電池パネルを動かすモーターを電源兼操作ケーブルでステーション本体に繋げる。

続いてステーション本体外部に変圧器、蓄電器、蓄電器の放熱器、それらを本体アダプタに繋げる。

中でコンピュータにそれらから情報が来るか確認。

そして太陽電池パネルを設置。

折り畳まれていたパネルが展開された。


船外に長く伸びた支柱には、各種センサーや通信用アンテナも設置される。

また、表面積が増えた事で、放熱板も広く置けた。

こういう作業をするから、運用専任の飛行士は電気工事士の勉強をし、時に資格も取る。


やる事が多く、それでいて船外活動は1日2時間の制約が有った。

全ての作業が終了したのは4日後、8時間の作業となった。

その4日後、コア2は搭載されていた資材も無くなり、豊富な電力が供給される快適な空間となった。

だがその後、まだ使う人もいないコア2の風呂トイレの通水や排水、個室の酸素循環を確認する。

そして、軟式拡張与圧室を膨らませ、そこにも通風ホースを伸ばし、また照明用LEDを配置する。

外部にも補強用支柱を立て、強度も増す。


という一週間で、北川船長は働きづめであった。

他の搭乗員も遊んではいない、自分の研究や職務を行い、空き時間に船長代行として通信や軌道上の監視をしていた。

コア2用実験モジュールの打ち上げは中一週間空いて行われる。

流石に休ませようという配慮と、発射場の都合からであった。


「広くなりましたねえ」

4人に対し、容積は非常に大きくなった。

宇宙ステーションは機械のゴチャゴチャがあって、容積の割に広さを実感出来ないが、コア2には機材無し、コア1も帰還時に廃棄するものを拡張与圧室に移した為、断捨離で広くなった。

(ISSの日本実験棟「きぼう」も、サイズ的には宇宙ステーションで最大の棟で、実験パネルを入れる前の状態では搭乗員全員が集まって記念写真撮れるくらいだった)


しかし翌日には、コア1からコア2へ行くハッチは、施錠こそしないが閉じられ、コア2もコンピュータと生命維持機能の最低限だけ残し、照明と空調は落とされた。

人も居ない、使いもしない空間が奥に在っても何か妙に怖かった。

想像してみよう、大学の研究室とか病院とかのような無機質な場所で、片方の部屋には人が居て活気があるが、もう片方の部屋は照明だけ点いて、空調とコンピュータの作動音だけが耳をすませば聞こえるという状態。

別に何かが居るとか、そういうオカルトな感じではないのだが、だったら電気消してドアを閉じたくならないだろうか。

せめて調度品でも有れば、リビングみたいな感覚で、もう一部屋を楽しめるのだろうが、無機質のガランとした空間が微妙に人に不安感を与える。

広ければ広いで

(もう少し人が居た方が賑やかで良いかな)

と思ってしまうようだ。

密過ぎても窮屈だが、物も無しの広過ぎるパーソナルスペースもまた好まれないようだ。


一方で、精神状態が上向きな時、軽く躁状態の時は、だだっ広い空間で何かをしたくなる。

より広く、何もない場所でキャッチボール。

同じく何もない場所で紙飛行機飛ばし。

同じく、水泳(空気遊泳)。

なお遊泳は、スカイラブ、ISSでも試され、平泳ぎが一番マシという結果だった。

「バタフライやったら、逆に後ろにいきますね」

だが、手は平泳ぎ、足はドルフィンキックが一番推進力が出る。

フィンをつければなお良い。


また、昼寝に使う時もあった。

広い空間に浮かびながら何もせず、そのまま眠る。

夜の睡眠とは別に、10~20分程休みたい時にする行為である。

たまにだが、誰もいない場所に行って、好き勝手な姿勢で休みたい。

これをする時にはルールが決められた。

まず、ハッチは閉めない。

船内通信用機器を必ず携帯する。

夜間(日本時間)はしない。

何故か?

一つには、どこに居るか所在を明確にする為である。

ISSでも、荷物搬出を終えた日本の輸送機「こうのとり」の与圧室で昼寝をする飛行士が居て、どこに行ったか分からない時があった為、通信機は常時携帯する。

(「こうのとり」室内にはカメラは無い為、モニタチェックに引っ掛からない)

もう一つは、手足がつかず、反動を得られずに動けなくなる場合があるからだ。

冷静に考えると、身体を捻って態勢を変えれば、高さ2.1メートルの天井(2層構造になっている。1層だと本当に危険だから)に手が届くのだが、寝起きのボーっとした頭ではパニックになる。

その時に暴れてどこかにぶつかったり、物を壊してもいけないので、すぐに助けに行ける為である。


こうして広い与圧室を、持て余す部分と、特に有意義でもない使い方で遊びながら、実験モジュール到着と交代要員の到着を待つ。

一次隊はあと2週間で地球帰還と迫っていた。

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