コアモジュール2セットアップ
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
「コアモジュール2」が打ち上げられ、「コアモジュール1」に接近している。
両モジュールが結合するポートには、現在の乗員が乗って来たジェミニ改がドッキングしている。
これを空ける必要がある。
北川船長が1人乗り込んで、ジェミニ改を離脱させた。
そして接近する「コアモジュール2」の結合と反対側ポートにドッキングした。
そのまま北川船長がコアモジュール2を操縦して、両モジュールをドッキングさせるのだ。
と言えば簡単だが、やる事は中々多い。
現在コアモジュール2には、折り畳んである太陽電池パネルや、それを設置する支柱、パネルを動かすモーター、操作ケーブルに送電ケーブル、変圧機等が満載されている。
これらはドッキング後に船外に運び出し、組み立てる。
その為、現在コアモジュール2は室内が真空になっていた。
ドッキングしたからといって、すぐに中には入れない。
故に、ドッキング後もジェミニ改から移乗せず、逆にコアモジュール2の全操作機能をジェミニ改に委譲させる。
コアモジュール両機のドッキング直前は無理だが、軸線に乗るまでは双眼鏡を使い、彼我の相対距離や速度を測る。
ドッキング用の軸線に乗ってしまうと。ジェミニ改よりコアモジュールは直径が大きい為、向こう側は見えなくなる。
そうなると、ドッキング側にあるカメラが画像で確認する。
しかしモニタ画像はレスポンス的に嫌う者も多い。
性能向上し、遅延等は無い筈だが、一旦電子変換される事無く直接見たいという気分的な問題はある。
この辺、一眼レフカメラのファインダーか、ミラーレスカメラの背面液晶か、というものに似ている。
そして、実際のところ、リアルタイムで距離を測り、速度を見ながらドッキングを手動で行う事も無い。
コンピュータ制御されているから、操縦席に座ったままで良いのだ、9割9分は。
残り1分の「万が一の為」に人が乗り移っているのだ。
オールコンピュータ制御も、完全ではない。
1997年3月6日、ロシア宇宙ステーション「ミール」との自動ドッキングに失敗したプログレス宇宙船は、そのまま投棄された。
この1997年には、手動ドッキングの訓練中にプログレス宇宙船が「ミール」に衝突し、空気漏れと50%の電力喪失という事故も起こしている。
更にドッキング解除に失敗し、プログレス宇宙船が離脱しなかった事故も起きた。
信用し過ぎは危険なのだ。
万が一に備えておくに如かず。
一方、4人乗りから3人乗りになったコアモジュール1の「こうのす」の方も負担が増えた。
特に何かする必要は無いが、ドッキングしてコアモジュール2の搭載物を外に出し、セットアップが終わって北川船長が戻るまで、4人ローテーションが3人ローテーションに変わる。
研究及び職務持ちだから、削られるのは自由時間となる。
ISSやミールだと最低常駐2人とかの時も有ったが、彼等は専門の宇宙飛行士で、連勤、半日ぶっ続け仕事は問題無かった。
ある意味、人数少なく、交代は下手したら1年後、一歩間違ったら命を失う、それで高度な知識を必要とする業務が続く宇宙飛行士はブラックな職務環境と言える。
今回は3日だけだから、我慢して貰おう。
ドッキング自体は翌日に成功した。
北川船長はやはり、操縦席でモニターを眺めていただけで、万が一の作業は起こらなかった。
だが、仕事は終わらない。
船外活動服に着替え、まだ空気が注入されていないコア2に入る。
そこからエアロックを開けて資材を宇宙に出す。
船外活動服の酸素は2時間程度しか持たないし、一日の船外での放射線被ばく線量も考え、資材を組み立てるより外に出す事を優先する。
資材を外に出し、ロープで宇宙ステーションに結えて仮置きする。
小さいものは、与圧後にエアロックから運び出せば良いから、現在大型ハッチを開けている内でないと運び出せない物を優先する。
約2時間の作業で運搬完了。
その後、空気を注入して与圧する。
某アニメではないが、与圧完了後、船外活動服のヘルメットを外し、息を吸う、この時が一番緊張し、一番ホッとする。
与圧完了したら、空気を循環させ、二酸化炭素吸着装置のスイッチを入れる。
増設でない通常装備の太陽電池パネルを展開する。
発電量と消費総量をメーターで見比べる。
コンピューターをセーフモードから通常モードに戻す。
操作権限を宇宙ステーションに戻し、コアモジュール1に回線を繋げた。
3日ぶりに、モニター越しに顔を合わせる4人。
ついにハッチが開く。
新幹線やSF映画のようには行かず、プシュという音で自動的には開かず、ガチャガチャレバーを動かし、ストッパーを外すと、ドアを開ける。
乾いた空気が風となって流れる。
三人が久々の船長を握手で出迎える。
「ムシュー・ベルティエ。
一人で作業して疲れたし、皆もローテーション崩して頑張ってくれたから、今日はボリューム有る食事を頼むよ」
「ウィー、ムシュー。
喜んで」
山崎飛行士、鈴木飛行士がハッチを通ってコア2に入ってみる。
狭いハッチの向こうには、また広い空間が在った。
ただ、工具や部品なんかが置かれていて、若干雑然としている。
北川船長は、第二フェーズ運用開始までに、これらを使って組み立てをする事になる。
立ち上げ作業はまだ終わっていないのだった。
全然関係ないですが、「はやぶさ2」成功万歳!
次は数十メートル級小惑星ですね。
遊星爆弾に使われる前に、小惑星の特性を調べ尽くしましょう!




