第二次長期隊招集
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
コア2打ち上げの最終準備の頃、第二次長期滞在チーム6人が招集された。
二次隊は男性4人女性2人の構成となった。
ジェミニ改2を2機使い、3人ずつ宇宙ステーションに移動する。
故に宇宙船の船長(操縦資格のある宇宙飛行士)は2人になる。
彼等が宇宙ステーションでは船長と副船長となり、運行にほぼ専念する。
フェーズ2では、新しい実験モジュールも接続される為、短期滞在チームも加わる。
その船長も加わると、3交代での宇宙ステーション運行が出来るようになり、負担は減る。
それまでは、1日の3分の2を飛行士たちが船長席に座り、残り3分の1はミッションスペシャリストが交代で当直に就く。
女性のうち、1人はベルティエ料理長の後任として厨房モジュールを預かる。
元々は総菜屋とか大学生協の調理師をしていた女性で、無理に口説いて宇宙という難しい環境での調理を頼んだ。
故にスマホを使え、PCで家計簿つけたりウェブを閲覧したりする程度のスキルなので、料理以外の機械操作は任せられない。
彼女は「生活班長」として料理の他、ミッションスペシャリストの体調管理や清掃等をして貰う。
「生活班長」という言葉に反応した一部職員が
「特注で、黄色に黒矢印の入った、タイトな船内着発注しますか」
と言ったが、女性職員から
「半分くらいセクハラ入ってますよね」
「着せてどうするんですか?
恥ずかしがるのを楽しむのですか?」
等と非難込みの発言をされて、頭を掻きながら撤回した。
もう一人の女性は、農業系の研究員である。
しかし農場ユニットの担当ではない。
後で打ち上げられる水耕と水産系のユニット担当となる。
彼女は某企業の「室内栽培野菜」「土壌が無い場所でも食料生産」を研究する部門の研究職で、農業というよりはバイオサイエンス系の研究者であった。
葉物系野菜を専門とするが、丸っきり専門外の貝類・水草の育成、水槽の管理もして貰う。
土壌を使う農場ユニット専任は男性学生となった。
最後の1人は化学系の研究生である。
この6人がチームとなる。
今回招集されたのは、打ち上げに際し再訓練をする為であった。
その他に早めに隔離して病気感染を防ぐ目的もある。
もう狭い空間でのストレス訓練はしない。
彼等はそれをクリアしたのだから。
今からする訓練は、脱出訓練、船外活動の訓練、ロボットアームの操作訓練等である。
半年くらい休んだ為、忘れている部分を体に思い出させるものだ。
特に脱出訓練は念入りに行う。
以前の訓練時はジェミニ改(2人乗り)を使用した。
今回からジェミニ改(最大4人乗り、宇宙ステーション移動時は3人乗り)に代わる為、勝手が違うのだ。
やはり補助席になった者は
「きつい」
とボヤく。
操縦席に座る2人は、手動脱出訓練時、大きなハッチを観音開きし、椅子の射出レバーを引く。
すると、宇宙船のシステムとは別の座席射出用火薬が点火され、射出される。
補助席の方は、側面の脱出用ハッチを外に押し出し、シートベルトを外し、狭い脱出用ハッチから飛び降りる。
コクピットのメインハッチは、バネが効いていて割と軽い力で開ける事が出来る。
補助席のハッチは、増設されたものであり、元々開閉を前提としていない。
閉じているのが通常状態なのだ。
軽く開け閉めが出来るようだと、打ち上げ時、大気圏再突入時に怖い。
よって、この脱出用ハッチは開ける手順も多いし、重い。
今回のメンバーは男性4人、女性2人で3人乗り宇宙船2回使用する。
1機には男性2人、女性1人のメンバー割りとなった。
ドッキングを含む宇宙船の操縦は、専門の飛行士(男性)がする他ない。
補助席横の脱出用ハッチの開閉には力が要る。
つまり、男性ミッションスペシャリストが必然的に補助席に座る事になる。
「仕方無いとは言え、なんか腑に落ちないとこが有るなあ」
文句も出て来る。
脱出訓練は往復の宇宙船だけでは無い。
宇宙ステーションからの脱出訓練も有る。
この場合、与圧室から真空の宇宙空間への脱出となる。
訓練機に6人が入り、そこで「姿勢制御不能、地球に向けて落下中、加えて酸素流出中、至急脱出」という警報を出す。
訓練1:ドッキング中のジェミニ改に移乗し、緊急発進する
これは急いで宇宙船に乗り込み、往復時の対G宇宙服に着替える訓練である。
パニックを起こさず、落ち着いて移動する事だ。
訓練2:ジェミニ改も使用不能、軌道上で待機
この場合は、飛行士たちは船外活動服を急ぎ装着する。
そして球状の脱出装置の中に、1人用のサバイバルパックを持って入る。
船長、副船長はミッションスペシャリストたちの脱出装置を手動で船外に出す。
そして自分たちも装置に入って脱出する。
サバイバルパックは、通信機、位置発信機、LED照明、4食分の非常食、48時間分の酸素タンクと二酸化炭素吸着装置がセットとなっていてかなり大きい。
無重力だから重いという感覚は無いが、質量は有る訳だから動かすと慣性が強く効き扱いにくい。
電力を使う暖房は備わっていない。
冷えるが、それは船外作業着で耐えて貰う。
という事で、この訓練では如何に速く船外活動着を装着し、大きなサバイバルパックを持って脱出装置に入り、内から閉めるかが大事となる。
こういった訓練を繰り返し、次第に彼等は勘を取り戻していく。
恐らく使う事は無い、使わせないよう細心の注意をする行動であるが、自分の命は最終的に自分で守れる人間でなければ、宇宙に送る事は出来ない。
一週間の訓練で、彼等は宇宙に行くに足るスキルの持ち主に復帰した。
彼等はこれから相次いで宇宙に打ち上げられる。