問い合わせが来た
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
JAXAとCNESに招待状が来ていた。
とはいえこのご時世、フランスから招待も困難。
それはとある中華料理店に、JAXAの秋山とCNESからJAXAに派遣された職員を招待するものであった。
「なんか危険な感じがする」
秋山は警戒した。
アメリカに話を通してみる。
この慎重な態度と、一々アメリカに確認を取る態度が「日本は独立してない」とか言われる元だが。
だが、秋山にしたら「つまらん事で失脚したくない」のだ。
「あ、それはNASAにも来た問合せだし、招待受けてご馳走になって来ていいよ」
アメリカからは意外な返事であった。
中国は独自に宇宙開発をしている。
旧ソ連、ロシアの技術を自分のものとして使っている。
路線としてISSに加入しない独立したものだから、自前で宇宙ステーションも作っている。
宇宙開発は意外なもので、競争でもあるし、助け合いでもある。
地球全体で見て数の少ない宇宙飛行士が生命の危機に晒されたら、国籍超えて救おうとする。
宇宙での活動について、可能なら協力は惜しまない。
政治的な理由で対立していても、「宇宙では協力しようか」という意識がある。
中国は、かつて「軌道上の衛星破壊実験」を勝手に行い、軌道上に大量の宇宙塵を盛大にばら撒いた事がある。
この経緯から、アメリカを中心とした宇宙開発界隈からは距離を置かれてもいる。
そういう事もあって「敵対していても、宇宙では協力する」より「あまり関わり合いになりたくない」という心理が秋山には有った。
だが、NASAの技官の話を聞くと、教えて欲しいのは「厨房ユニット」の事で、アメリカ自体が
「それはうちじゃやっていないから、日本とフランスに聞け」
と話を振ったそうだ。
中国も月や火星への一番乗りを目指している。
長期宇宙滞在についても地道に実験をしている。
動機が国威発揚で、学者肌の人間にはちょっと合わない部分も有るが、一方で基礎研究、追試の類でもしっかり予算を付けて貰えるのは羨ましくある。
日本だと、非軍事目的で科学的に意味があるものに限られ、他国で出来ている技術に関しては「そこのを使わせて貰えば良いだろ」と予算に渋いところがある。
中国はそういう長期滞在の為の地道な実験をしていて、彼等の方にもアメリカ主体の宇宙開発に組み込まれていなくて良かったと思う部分がある。
発酵について、あれこれ言われなくて良い。
宇宙に微生物を持ち込む事を、アメリカは極度に嫌う。
だが、中華料理の味付けには発酵調味料は欠かせない。
むしろ発酵による長期保存に、将来の宇宙計画を見ている部分もある。
うまくいけば、年単位でビタミンを補充できる野菜を保管し続ける事が出来るのだ。
中国というのは、食に関しては超大国中の超大国である。
彼等にとって世界三大料理(中華、フレンチ、トルコ料理)というのは存在しない。
世界四大料理であり、それは北京料理、上海料理、広東料理、四川料理である。
それぞれが全く違った味付けになる程、国内で多様多彩、かつ奥が深い。
彼等は自分の「食」に自信を持っている。
一方で認めるものは認める。
フランス料理の技法や味は認めているし、隣国で(自国に比べて国土的に)小国の日本料理が「どうしてあそこまで世界に通用したのか」を追及して止まない。
今回の問い合わせも、自分たちが同じ事をするにあたって、まず先駆者のフランスと日本に頭を下げてでもノウハウを教わる必要があると判断したものである。
この辺、頭が高いだけのどっかの国より余程柔軟だ。
とは言え
「うちがオリジナルだと言わないから」
はやや信用出来ない。
最初だとは言わないだろうが、我が国独自の技術で……とは言いかねない。
その辺色々モヤモヤと考えながら、秋山と部下1人、CNESからの派遣職員2人が横浜の中華料理店に向かった。
(去年は結構こうやって接待で料理店に呼ばれたが、
今年はまあ、情勢的に無理だからなあ……)
そう回想しつつ、料理店に入る。
「いやいや、先生方、よくいらしゃいました。
まずは料理楽しんで下さい」
3人の男性が待っていた。
1人は空気的に党の監視員のように思える。
こちらが2人ずつで来たように、交渉をチェックし、買収や機密漏洩が無いか見る役回りだろう。
意外にも女性が居ない。
局長らしい官僚タイプの人と、痩せぎすで如何にも秀才な人であった。
金やハニートラップで情報を手に入れようと言う訳ではなく、普通の技術的な話、機密漏洩とかにはならない話になるだろう。
中国人は侮れない。
そういう空気を読んだのか、先に切り出した。
「今日は挨拶だけですよ。
我々が聞きたいのは軌道厨房や滞在厨師についてです。
技術の細かい話は資料見ないと無理です。
今日は大まかな話と、彼、董技官を知てもらう事が目的です。
作るのは我々でしますが、それに当たての注意が有たらどうか教えて下さいね」
モジュールの製作に当たり設計図が参考に欲しいとか、そういう話で無いので、多少安堵した。
「わざわざ料理店に呼んだのは、接待も有りますが、どんな料理か見ながら話をしたいからです。
実物見て教えて下さいね」
腹一杯の夜になりそうである。
最近、本物のJAXAが研究レポートYouTubeでアップしまくっていて、小説的には中々大変になってきました。
だって、同じような内容なら、小説よりも事実の方が凄い訳ですから。
なるべく重ならないテーマで遊んでたら、月面自動車のコンセプト発表とか、もう少し先かな?ってのが今出て来てますし。
幾つか、まだ当分NASAもJAXAもやらないだろう、ってネタは用意してますが、現実の方が先に進まないか、ヒヤヒヤしとります。
(科学の発展の為には、現実が進むのは良い事だし、
中々進まなかったからこの小説で妄想書き散らしてた訳ですが)