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夜勤

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

イビキというのは、気道が塞がれて、無理して呼吸する為に音が鳴る。

横になると起こる。

太っていると気道は狭まりやすい。

だが、太っていなく、横にならずともイビキをする場合がある。

酒を飲んだ後に、イビキをかきやすい。

座りながら寝ていても、酔っ払いはイビキをかく。



本日、夜間の船長席担当は、22時から3時までが山崎飛行士、3時から8時までが鈴木飛行士、その後は8時から21時まで北川船長が勤め、夕食後に21時から日付跨いで3時までベルティエ料理長が飛行士として勤める。

ローテーションは、船務主体の船長が長く、料理時間以外は特にする事が無いベルティエ飛行士が6時間程度、ミッションスペシャリスト2人は短く設定される。

微妙に時間はずらしているが、基本的に日本時間で22時から翌6時は、夜番以外は眠るようにシフトを組む。

この辺は、夜バイトや夜警よりも、病院の看護士に近い考えで、生活は不規則にはなるが、誰かが必ず夜だけ担当で昼時間を削られる不公平を無くしている。

もっとも、今後6人以上となり、船長と副船長2人(技術と船務)という体制になれば、ミッションスペシャリストの負担は一気に減る事になる。


今日、北川船長がビールを飲み、イビキをかいて寝ているのは、久々に夜勤が全く無い日だったのもあった。

でなければ、夜勤の事を考えて、あそこまで痛飲は出来ない。


久々に飲んで、ただのオッサンと化した北川が、「艦長室」で寝ている。

「艦長室」と勝手に名付けたのは、元「こうのとり改」であり、実験パネルや不要な装備を外したら、住環境として、そこそこの広さとなった。

2人居住するのが適切だが、寝場所はコアモジュールに4基、ジェミニ改が2機でそこの操縦席が2×2で、さらに輸送機やその他のパーツ、実験モジュールの仮眠設備まで入れたら全部で16床のベッドが在る。

一室を贅沢に使うのも、特に問題な訳ではない。


その艦長室から、イビキが聞こえて来る。

よく聞けば、というレベルではあるが、珍しい事だ。

余程久々のアルコールが咽頭部を麻痺させているようだ。

山崎飛行士は、船長室に座り、読書灯だけの照明でPC作業をしている。

宇宙ステーションは90分で地球一周し、昼と夜を繰り返すのだが、人間の生活リズムの為に日本時間の深夜に当たる時間帯は消灯となっていた。

地上管制センターも、夜勤スタッフが居るだけで、ほとんどは帰宅するか、隣接する宿泊所で待機という名の休養を取っているかである。

警報でも鳴らない限り、軌道上も地上も暇である。

定時交信をする、警報装置の動作を確認する、以外は基本的に「寝てさえいなければ良し」。

山崎飛行士は、PCで研究データのまとめを書いたり、うとうとしてると自覚したらインターネットに接続し、娯楽サイトを視聴したりしていた。

ちょっと何か飲みたい気分になったので、「船長席の特権」を使う。

それは、熱々のコーヒーパックが常備されていて、所定の場所から取り出せばすぐに飲める事だ。

飲んだ分だけ、後で自分で作って補充しておくのだが、一晩で備蓄分20パックを飲み切る馬鹿もいない。

……交代要員の迷惑になるし、利尿作用で大変な事になる。


(暇だなぁ)

音楽でも掛けたかったが、それは禁止だ。

他は寝てるから。

インターネットの動画視聴も、もしも警報が鳴った時に気づかなかったなんて事無いように、イヤホン禁止で、常識的な範囲内での音量となる。

地上管制センターの方も、トイレ以外は席から離れないだけで、2人の内1人はソファーで仮眠していたり、ニュースサイトを閲覧していたりする。

昔は張り切って

「しりとりでもしようか!」

なんて言って、軌道上の通信相手からウザがられたりもしたが、今は淡々としてしまった。


「お疲れ〜」

交代の鈴木飛行士が起きて来た。

彼の寝場所は、仕事場所に近いドッキングポート増設の旧輸送機部分である。

「艦長室」からは近い。

「今日、凄いね」

イビキの事だ。

「色々疲れてたんじゃないスか?」

「だろうね。

 今まで隙とか見せなかったしね」


これまた船長席の特権、蒸しタオルで顔を拭いて本格的に目を覚まし、鈴木飛行士が交代する。

「こちら『こうのす』、指令席山崎から鈴木に交代しました、どうぞ」

「こちら『つくば』、交代したのを承認しました。

 5時間よろしく」


山崎飛行士は自室に戻る。

コアモジュール内に在る為、1.1メートル四方のハッチを潜る必要は無い。

鈴木飛行士なんかは、寝ぼけている時、このハッチに頭をぶつけたりする。

自室に戻った山崎は、アイマスクをかけて目を休める。

夜勤の者は、勤務後6時間の睡眠と、入眠・覚醒の為の1時間を認められているが、冷めてない朝飯は7時から9時までだ。

すぐに寝て、5時間半寝たら、焼き立てのパンと玉子にあり着かないと!

軽く興奮状態にあって眠れなかったり、宇宙線が瞼の裏で光って見えるのとか、気にするな。

早く寝るのだ!


だが彼はしばらくし、自室を出るとトイレに向かった。

そして言った

「失敗だ、コーヒー三杯も飲むんじゃなかった……」

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