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早くジャガイモが食べたい

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「ムッシュ・ベルティエ、訪問販売です!」

農場ユニットの責任者鈴木飛行士が、厨房ユニットの責任者ベルティエ飛行士に、冗談混じりで収穫した野菜を提供しに来る。

最初のひと月は、もやしやカイワレ大根、豆苗といった作物だった。

ひと月半を過ぎると、小松菜、ピーマン、そしてミニトマトが収穫されるようになった。

そしてふた月を終え、最後の月に入るとキュウリとレタスが使えるようになる。


「いつも有難う、メルシー。

 ところで、ポムはまだ先なのかい?

 実はもう小芋くらい出来てないかい?」

フランス人は、ドイツ人に負けないくらいジャガイモ好きである。

打ち上げ時に持ち込み、備蓄しているジャガイモは有るが、新ジャガが有るならそれを食べたいのは日仏変わらず。

ただ、小芋はまだソラニンが含まれているかも知れず、食べない方が無難であった。



宇宙での農業で、芋の研究はNASAでも行われている。

火星や月等、土壌を作れる天体で長期滞在する際に、一番栽培に適していると考えられるからだ。

アンデス山脈という寒冷な高地でも、ハワイという火山列島の栄養が少ない山岳部でも自生する。

炭水化物に富み、穀物程栽培面積を必要としない。


芋にはジャガイモ、サツマイモ、タロイモ、ヤムイモ、里芋、山芋、長芋、菊芋、蒟蒻芋等がある。

里芋はタロイモに含まれ、山芋や長芋はヤムイモに含まれる。

菊芋や蒟蒻芋は、ちょっと特殊なのでわざわざ宇宙では栽培しない。

……食べる、面倒臭い加工をするのは日本人くらいなものだ。

蒟蒻芋はあの何でも食いな中国で「魔芋」等と呼び、少数民族しか食べないくらいだ。

菊芋はトゥピナンプルというフランス料理の食材であるが、割と古めかしいレシピ、最近の好みでは無いそうだ。

その他の芋は研究対象に入っている。

芋と一概に呼んでも、ナス科のジャガイモ、ヒルガオ科のサツマイモ、タロイモ科のタロイモと違い、同じアプローチで研究出来ない。

それぞれの研究家が必要だ。

ある程度集約すると、利用人数が先進国で多いジャガイモかサツマイモに絞られ、更にその中ではジャガイモが優勢である。


サツマイモは栄養価で負けず劣らず、水耕が可能、耕作面積もジャガイモの半分という優良作物だ。

だが、収穫までに5ヶ月掛かるのが欠点である。

ジャガイモは約3ヶ月であり、回転率が良い。

ただ、ジャガイモは連作障害を起こしやすい。

ナス科のナスとジャガイモは同じ性質を持っていて、鈴木飛行士はそのナス科の連作障害の研究をしている。

連作障害の原因の一つ、病原菌やウィルスの異常繁殖は宇宙では起こらない。

完全滅菌された土壌を一から作ったからだ。

肥料も無機肥料を使っているし、定期的に土を調べ、病原菌の確認をしている。

だからこそ、万が一の時の為にバイオハザード設備にしている。

同様の理由で、害虫の繁殖も無い。

発見されたら即実験中止となる。

それくらい対生物は徹底している。

連作障害の最大の原因、それは土壌の成分バランス崩壊。

連作で特定の成分を吸収し過ぎる事で、成長に必要な微量ミネラルが不足し青枯れを起こしたりする。


対策はある。

連作しなければ良いのだ。

ナス、ジャガイモの次はネギを植え、一回か二回違う作物を植えた後に再度ナスやジャガイモを植える。

これだけで良い。

だが、鈴木飛行士は生物がいない、かつ無重力ゆえに茎や葉を強くするカルシウム消費も少なくなる状況で、栄養補充だけで連作障害を防げるかを研究する。

まあ、実験サンプルを食べさせる訳にはいかず、宇宙ステーションの食材には、きちんとネギやニラと輪作したものを出す。

……完全に土壌細菌を除外し、代替成分を使ったものだし、無重力で育った茎や葉から光合成して作られた栄養を使っているから、美味しいかどうか保証は出来ない。


これまでジャガイモと言って来たが、品種としては男爵イモと「インカのめざめ」が使われる。

男爵イモは扱い慣れている為、「インカのめざめ」はアンデス山脈原産の改良種な為、宇宙でも期待出来たからだ。

……決して選定時に、とある漫画でΩケンタウリ星団からやって来た強豪超人相手に善戦する古代インカ帝国の超人を見て、「インカのめざめ」という品種を知ったからではない!

基本的に、栽培しやすさと味で決めたのだが、それは日本人基準である。

フランス人であるベルティエ料理長が慣れている御嬢様方ポム・ドゥ・テールではない。

フランスの馬鈴薯ポム・ドゥ・テールは身が締まったシャルロットやポンパドールといった品種があり、男爵イモのように割と煮崩れしやすいのはモナ・リザという品種だろう。

だが、フレンチの星付きシェフたるベルティエ料理長は、品種の違いを乗り越えて美味い料理を作らねばならない!

宇宙では何事も臨機応変である!!




「……と、休憩時間ずっと考えていたら、ジャガイモ料理を作りたくなって、こうなったのですね」

「まあ、そういう事です。

 美味しいので召し上がれ(シル・ヴ・プレ)


今日の夕食ディナーはアリオリソースのポテトサラダ、リヨネーズ(日本人的にはジャーマンポテトのベーコン抜きと言うが、フランス人に言ってはならない)、アッシパルマンチエ(ジャガイモと牛挽肉の交互挟みパイ)、ビシソワーズ(ジャガイモスープ)だった……。

おまけ:

ベルティエ「オウ!

 馬鈴薯ポムの備蓄よりビシソワーズで使った生クリームの方があと数回分しか有りマセン!

 カフェの生クリーム減らし、備蓄がまだ有る粉末ミルク使って貰いましょう!」

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり宇宙で栽培ならジャガイモですな
[一言] サツマイモは収穫後に月単位で追熟しないと全然甘くなかったりしますから、その点でもジャガイモ有利になりますね!…宇宙だとそのあたりどうなるんだろうか?
感想一覧
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