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宇宙からの質疑応答

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「あのお……なんで僕もビデオ撮影されてるんですか?」

山崎飛行士の問いに

「役に立つと思うよ」

と北川船長。

「言っときますけど、うちの大学の学祭でしたら、春ですからね。

 今年は中止だったんで」

「まあまあ」

確かに、渦中の鈴木飛行士だけ単独で撮影するより、2人一緒とか、一人が宇宙遊泳しているのをもう一人が撮影するなら、その逆もついでに撮影した方が効率が良い。




鈴木飛行士は日曜の学生・一般向け出演と、月曜(学祭期間だが小・中学校は平日)の生徒向け出演の2つを行う。

10~15分間、質疑応答の時間にあてる。

多少の時差は有るが、リアルタイに近い応答をする為に、鈴木飛行士は船長席後ろの中継席に座る。

ここはよく「宇宙ステーションからの中継です」とかいう時に使われる、ジンバル付き高性能カメラ複数スイッチ切り替えアリや、集音マイクとか照明器具とかがあり、さらに背景に宇宙ステーションのバナーが在ったりして、こういう時に使われる空間である。

他の場所は、物が置いてあったり、実験用パネルやコンピュータが動いていたりする。

船長席には地上管制センターとの通信機があり、船の運用に関わる情報をやり取りする。

大量のデータを高速で通信するのはここの席からになる。

また、地上からの音声を船内スピーカーに流すとか、先日の訓練機との通信をセッティングするとか、カメラや照明のスイッチングをしたりと、放送室でもあり、放送局でもある。

趣味用ではないので、DJ機能は無いが。

(故に放送は出来るが、字幕とかBGMを入れたりする事は出来ない)

中継日は、船長がディレクター役を務める。


軌道と生活時間の関係で、日曜は19時から、月曜は13時からになった。


日曜:

地上では、鈴木飛行士編集の映像が流れているだろう。

正直、面白くはない。

見る人が見ると興味深いのだが、基本的に宇宙での生活を登録者の少ないユーチューバーのようにボソボソと説明したり、宇宙遊泳しながら地球や月を映したものに字幕をつけたり、本業の農場ユニットでの研究について、紹介用映像・資料映像・学会発表用のグラフ資料を纏めたものだ。

淡々と進む為、見たい人しか見ない、質疑応答の辺りまで視聴を切っている者もいるだろう。

オンライン学祭の目玉の一つとはいえ、きっと予想以上につまらなく、実行委員も呆れている事だろう。

「そろそろなので、準備しますね」

北川船長が中継を繋ぎ、中継スペース対面のモニターに地上からの映像を繋ぎ、またカメラを操作して鈴木飛行士が映り、地上の大学に映っているかを問う。

双方向で通信が確立されてから、生中継に入る。

『はい、では鈴木さんっす!

 なーんと、宇宙と繋がってます、拍手~~』

「皆さん、こんばんは、『こうのす』の鈴木です」

『先輩~、固いです、固い』

イベント系の人間と研究系院生ではノリが余りに違い、結構シュールであった。

実行委員の方は何とか多くに訴えるように、大げさな反応したり、ラジオパーソナリティのように寄せられた質問を読み上げる。

淡々と答える鈴木飛行士。

時間が来て終了。

ふーっと一息吐いた鈴木だったが、すかさず船長が言う。

「飯食いながら反省会だね」


研究時間抜け出して見ていた山崎飛行士に、料理の途中で見に来たベルティエ料理長からも

「顔が引きつってる」

「『あー』とか『そのー』とかが多過ぎる」

「冗談言えとは言わないけど、少しは分かりやすいものに例えるとかしよう」

駄目出し連発に表情が暗くなる鈴木飛行士。

だが、彼は明日の中継があるのだ。

駄目出しを参考にし、改善した方が良いだろう。


月曜日:

地上では宇宙での映像が流されている筈だが、どんな映像かは鈴木自身知らなかった。

宇宙ステーションからは映像の素材だけを大量に送り、地上の教育学部の人間が編集したのだ。

急遽決まったイベントだけに、出来た映像が宇宙ステーションに送られて来たのは当日となった。

なので、地上でイベントが始まった時間に、宇宙ステーションでもVTRに映し出す。

堅物の鈴木飛行士が個人用PCで編集したものに比べ、生徒への授業のプロが編集したものは面白い。

(今後、同じような依頼が来たら、素材だけ送って編集は地上の得意な人にやって貰おう。

 そうするよう、全飛行士の共有情報としとこう)

船長は密かにそう思った。

そうして、出席して視聴覚教室や体育館に集まっている学校と中継を繋げる。

「あーあー、こちら『こうのす』、見えてますか?」

モニターの向こうからオオーとか児童のはしゃぐ声が聞こえる。

附属小学校、附属中学校、大学の講義室、借りた某公民館からの映像が四分割されてモニターに映る。

「では質問は……」

『はいはいはいはいはいはいはいはいはい!!!!』

小学校が騒がしい。

中学生は苦笑いしている。

『鈴木さんの宇宙で困った事は何ですか?』

『今、ジャガイモは食べられるくらいに育ちましたか?』

かわいい質問が飛ぶ。

大学教授が

『付属小のみんな、ご免ね、中学校の方にも質問の機会を頂戴ね』

と言って、中学校に回す。

中学生はやや出足が悪かったが、一人挙手すると周囲がどよめく。

『宇宙で農業をするのは長期宇宙滞在を想定しての事でしょうが、

 日本には具体的に長期宇宙滞在をしなければならない計画は有るのですか?

 例えばNASAは火星探査計画を打ち出してますが、日本はそれに加わるのか、独自で行くのか?

 その辺どうなってるのでしょうか?』

中学生ともなれば、こういう面倒臭い事聞いて来る奴もいる。

(それは僕じゃなくて、地上の秋山さんに聞いてよ)

と思いつつ、基礎研究の必要と、現状はまだ計画は無く、逆に研究成果を見てどれくらいの人を何時まで自給自足でやっていけるかを判断し、それに合った計画を立てる、と説明した。


この日の宇宙中継は大成功だったようで、大層好評である。


鈴木飛行士の苦労の日は終わった。




鈴木飛行士の小学校・中学校への中継成功は、教育界で広まったようである。

山崎飛行士がメールを読んで、船長に語った。

「船長があの時、一緒に撮影させたの正解でした」

「どうしました?」

「母校の高校から、学祭とか何でもないけど、折角だから宇宙との通信の機会が欲しいって言って来ましたよ。

 地球に戻ってからの帰朝報告で良かった筈なのに……」

「よし、素材送ってあっちで編集して貰いましょう!

 君の中継は10分くらいで、それでなければ断りましょう」


繰り返しになるが、中継は費用が掛かる上に、飛行士の本来の任務では無いのである。

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