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宇宙での動画作成

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

秋には大学祭が行われる、例年は……。

流行病のせいで、今年は大学祭は行われないか、オンライン開催となった。

鈴木飛行士の母校もオンライン開催をする。

だからだろう、学祭実行委員会から鈴木飛行士に依頼があった。

宇宙からのオンライン講義をして欲しい、と。


「出来ますかねえ?」

宇宙からの質問に秋山は

「お金かかるよ」

と答える。

宇宙ステーションは約90分で地球を一周する。

日本の反対側に行ったら、直接通信は出来ない。

直接出来ないならどうするか?

中継(リレー)衛星を使う。

また、近くに宇宙センターの大型アンテナを使わせて貰い、回線を日本に繋げる。

そうやって地球のどの場所に宇宙ステーションが居ても、日本に居ながら管制出来る。


使うのは無料ではない。


生配信を地球一周以上の2時間もするというのは、結構費用が掛かるのだ。

国家機関ならともかく、一大学では難しい。

しかも研究ではない、学祭なので上が許可出さないと、無償使用等出来るものじゃない。

「それは君の大学にも伝えましたよ」

「ですよねー」

鈴木飛行士はホッと一息吐いた。

2時間も何話せばいい?

話すは話すでも、講義というのは難しい。

ただ喋り続けるとか、実験を見せるとかなら良い。

だが大勢を相手に話すとなると、分からなくなる。

学会発表だって持ち時間は10分、質疑応答に5分くらいだ。

質疑応答の方が長くなり、次の講演者の時間を押す事も多々あるが、むしろ議論の方が話す方としては楽なのだ。


そして結局、講演は日本と直接更新が出来る時間帯に10分だけとなった。

残る110分は動画配信となった。

「まだマシだけど、110分も研究動画撮れ、と?」

鈴木飛行士にしたら、宇宙ステーション内でフワフワ浮いて、水を掬うと浮きながら球形に纏まり、宇宙食を浮かせながら食べる、等という映像は毎度の事だから不要と思っている。

大学なんだし、きちんと研究内容を話すべきだろう。

何故宇宙で農作物を育てるのか、その意義、問題点、何を調べたいのか、その成果は?

プレゼンテーション用資料を作り、アニメーションも入れたりした。

しかし、50分くらいにしかならない。

もっと水で薄めて限界状態の乳酸飲料水的なプレゼンテーションも出来るが、それは彼の趣味では無かった。

という訳で出来た分を編集し、大学に送る。

すると、やはりというか

「研究の事だけじゃなく、宇宙での生活の動画も下さい」

という要求をされた。

「いいの? どの時代の宇宙飛行の動画見ても、同じだよ!

 僕がフワフワ浮いてるの見て、楽しいの?」

「はい、むしろそう言うのが欲しいんです」

研究したくて宇宙まで来た人と、学祭実行委員とかで一般人ウケを考える人では、多少感性のズレがあるようだ。

仕方ないので、宇宙ステーション「こうのす」の内部映像を作成する。

自分の個室、研究棟、シェフとの会話、宇宙食、一日に一回ある船長席に座る事、筋トレ、風呂トイレ、如何にも無重力である事を見せる紙飛行機が落ちない様子や、船内を泳ぐ様子。

「こんなの面白いの?」

「あのですね、やってる事はどこかで見た事あるかもしれませんが、

 僕たちには先輩が映って、先輩がそこに居るって事が大事なんですから、それいいんです」

「そうなんだ……」




……というやり取りが有ったのは三週間程前であった。

その後、訓練機との交信が有ったり、山崎飛行士による地球外投票のボランティア(明らかに志願などしてはいないが)を務めたりした。

その後、また鈴木飛行士に大学祭実行委員と教員から連絡が来る。


「学祭の2日目もお願いします」

話によると、附属の小学校、中学校からも視聴希望が多数来ているが、以前の動画は一般向け、というより院生や研究者クラスが面白いと思うようなもので、別な意味でR-15なのだ。

「なので、もっととっつきやすい話にして貰えませんか?」

「無理!」

「と言うと思いました。

 船長さんにお願いしたいと思います。

 秋山プロジェクトマネージャーにも話は通しましたので」

「え? 何も聞いてませんよ」

鈴木飛行士がそう言っていると、「艦長室」から北川船長が難しい表情で出て来た。

「さっき来たメールはそういう事なのか……」

「さっき??」

「うん、秋山さんからは『出来る? 無理なら断るけど』ってなってたけど」

「もしかして、まだ許可下りてないのに言って来た?」

「いや、僕『許可下りた』とは言ってませんよ。

 『話通した』とは言いましたけど」

「……なし崩し的にOKに持ち込む気だったな……」

「いや、まあ、その……、お願いしますよ、先輩」

「私の方からもお願いします。

 教育学部とか附属学校の方からもお願いしますって言われてます」

「お願いします」


ここまで言われると、断れない。

断るようなキツい性格の人は、宇宙飛行士になりにくいという事情もある。

渋々だが、北川船長と鈴木飛行士は、15歳未満でも楽に観られる動画撮影を引き受けた。

案外北川船長はアイデアマンで、

「磁力靴のスイッチを切ったらどうなるか?」

(→コンピューターのタイプ時に反動で浮いたりする)

「もしも寝る時に、寝具を固定しなかったらどんな事になるのか?」

(→寝返りすると反動で飛ぶ)

「変化球を投げてみよう!」

(→落ちる変化球は縦回転のカーブやスライダーで、フォークボールやナックルの無回転系は落ちない)

「宇宙でマヨネーズはかけられるかな?」

(→重力関係なく、押し出すから大丈夫)

と言った「やってみよう」系の動画を撮影する。


「外出る?」

「外? 船外活動ですか?」

「そう。

 やっぱり、絵的に欲しいんじゃない、地球バックは」

そう言って、防御ネット内ではあるが、宇宙遊泳や地球を背負っての宇宙遊泳風景を撮影した。

色々な動画を撮ったが、まだ素材である。

「どうするんですか?

 編集し切れますか?」

「編集? しないよ。

 映像素材は送るから、そっちで編集しろって言ってやりまでょう。

 映像の尺とか、適切不適切とか判断して貰って、自分たちの気に入る映像にして貰いましょうよ。

 頼まれてやってるけど、これ以上は負担でしょ?」

鈴木飛行士は頷いた。

どうでも良い事で頭を悩ませている。

北川船長も面倒臭い事はしたくない。

なので、言って来た人にボールを投げ返してみる。

全部なんてやってやらない。

宇宙でしか出来ない事はするが、それ以上はしない。

いい意味で他人に丸投げ出来る。

この辺、流石は船長に抜擢された人間であった。

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