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されど訓練機は変わらず

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

橋田船長が率いた訓練チームは無事地球に帰還した。

このチームが滞在した万能機「のすり」は、今後もあと2回再利用されてから、大気圏再突入で処分される。

3回しか使わないのは贅沢に見えるが、酸素・二酸化炭素吸着フィルター・水再処理・一次電池の電力が3週間分で切れる為、仕方が無い。

それでも不便だった点、改良した方が良い点は報告される。


……報告されたからと言って、対応するとは限らないが。


やはり、4人で滞在すると窮屈に感じる点が挙げられる。

3人なら丁度良いかもしれない。

だが、

「でも、住んで住めない事も無いでしょう?」

「訓練生の搭乗スケジュールも決まったし、変えられない」

「現実問題、今軌道上に在る機体をどうにか出来るものではないからね」

となった。

何かするとして、次回打ち上げの機体からになる。

増設用「のすり」を打ち上げ、2機連結体制にするにしても、1週間後の次の打ち上げには間に合わない。


一方、持ち込みで何とかなるものは対応する。

ジェミニ改2のコクピットや、空いた貨物庫も寝場所になる為、毛布が荷物に追加された。

今までのジェミニ改のコクピットで寝る人は居たが、レイアウトが4人乗り化に伴い変わった為、やや狭くなった。

そこで寝袋よりも毛布が良いという意見が出た。

毛布は寝袋よりも洗濯が面倒だ。

だが、訓練機はすぐに日程を終え、持ち帰るから問題にはならない。

船外の様子を映し出すモニタは、スペース的に邪魔になる為、機内イントラネットでカメラの映像を見られるようにタブレット端末を、画像が綺麗なものに変更する。


次回の訓練生、次次回の訓練生は打ち上げ済みの訓練機を使うから、大規模どころか小規模改良も無理。

次次回終了後に廃棄する為、増築してもコストパフォーマンス的に良くない。

現行「のすり」型は、その後用も一機、既に発注されて製作されている。

だが、こちらは小改造、というか用途に応じた装備変更が可能だ。

こちらにはベッドを一棟減らし、代わりに外部拡大せり出し与圧室を付けて貰う。

内径1.5メートル程だが、圧迫感は多少減るし、外を見渡す窓が付いているので閉所感も減るだろう。


その訓練機が運用終了した後の事が会議に上がった。

今の生産ラインを活かす為、現状維持の機体か、

次期宇宙ステーション補給機HTV-Xの改良型にするか。

持ち越し課題だったが、結論は出た。

現行の3倍近い容積を持つHTV-X改造機を使う。

宇宙ステーション担当部門は嫌な顔をするだろうが、話を通して融通して貰う。

工数もそれなりになるから、元々運用日数28日の「こうのとり」の与圧室だけ利用した「のすり」のように、約1ヶ月で使い捨てともいかない。

「大体10回訓練に使う。

 余裕を持って80日分の水、酸素、一次電池を用意したら良いでしょう」

それで大体の仕様はまとまった。

生命維持に必要な部分の大型化、し尿能力の改良、専用エアロック設置で、容積は従来の2倍程度にまで小さくなったが、訓練機としては十分だ。

同じモジュールを再利用しても、生命維持装置に風呂トイレにエアロックは本体モジュールのを使える、宇宙ステーション接続型は容積をそのまま使える。

単独飛行型はこの点、何でも自己完結させる為狭くなる。

「まあ、訓練機だから仕方ない」

有人宇宙船部門も、大分ブラック体質になって来たようだ。


「打ち上げ時の宇宙服は改良出来ませんかね」

その意見は採用された。

増設席は狭い。

そこに座る以上、宇宙服はスリムな方がよい。


打ち上げ時の宇宙服は、耐Gスーツである。

オリジナルのジェミニ宇宙船は、ICBMであったタイタンの改良型を使って打ち上げた為、打ち上げ時に掛かったGは6〜7Gだった。

気を失わない為の訓練が必要だ。

耐Gスーツは戦闘機パイロット用と同じくらいである。


一方、打ち上げ時の宇宙船は耐火服でもある。

アポロ1号打ち上げ前に船内火災が起きた。

この時、船内は三分の一気圧で、代わりに純酸素を使っていた為、火の回りが早く、マーキュリー宇宙船以来のベテラン飛行士を含む3人を失った。

その反省や、現在は技術向上から通常空気を使用する。

が、火災はやはり起こる可能性が有り、それどころか爆発からの座席射出ベイルアウトも想定した。


そして短時間、空気の薄い一万メートル以上の高空で投げ出されても生きていける性能が求められた。

船外活動服と似てはいるが、船外活動服が2時間程度、時に宇宙空間を推進して移動するが、打ち上げ時宇宙服は推進装置と2時間もの生命維持機能までは必要としない。


この仕様を満たす服をアメリカに発注していたが、国内生産したらどうか。

「言うのは簡単だけど、この仕様で作るの大変だよ」

それに対し発案者は

「条件は緩和しましょう。

 勿論アメリカには内緒で」

と言う。

ミサイル改造ではない、最初から宇宙ロケットとして作られたH-3は、そんな高いGを出す事は無い。

また、火災も純酸素準拠にする必要は無い。

(純酸素だと半端な不燃物なら燃え出す)

この辺、過去の経験から最悪を想定してアメリカは作っている。

秋山たちも「最悪を想定しても、現実は更に予想を上回って悪夢を見せる」と教わった。


秋山はしばし考えた後

「採用するが、あくまでも訓練機の増設席分だけにする。

 ジェミニ改の通常コクピットは従来通りの宇宙服でいきましょう。

 ただ、リスクが大きくなる宇宙服でも作って貰うのは、薄い素材開発をしていれば、いつかは条件を全て満たした上で薄く柔らかい素材の宇宙服が作れるかもしれないからだ。

 作らなければ、いきなり新型も生まれない」

将来を見越しての発注としよう。


「そうですね。

 薄くて感覚がダイレクトに伝わるゴムとか、

 日本は薄っっいの作るの得意ですからねえ。

 それも回数重ねないと生まれなかった訳ですから」

(避妊具と一緒にすんな!)

誰かが言った下品な例えで、会議は終わった。

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