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宇宙ステーションと訓練機との通信

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

現在訓練中の飛行士3人は、宇宙ステーション「こうのす」の構造は知らない。

地上ではジェミニ改の訓練機や、訓練機すらも使わず飛行機からのパラシュート降下、擬似無重力の水中での船外活動訓練、専用室での消火訓練・空気漏れ補修・システムダウンからの回復・完全電源喪失状態からのサバイバル等をしていた。

宇宙ステーション訓練は、既に宇宙経験がある飛行士対象であった。


一方、宇宙ステーション滞在中のミッションスペシャリストは過酷な訓練は免除されている。

閉鎖環境での生活や、サバイバルについてある程度訓練はされている。

指示さえあればパニックに陥らず、確実に生き残れるよう動けるようになっている。

しかし、生存率0%でもどうにかしろという無理難題の解決や、マイナス20℃で一週間生活した状態から船の復旧活動をしろとか、そこまではしていない。

宇宙ステーションに、脱出用宇宙船まである中、彼等は避難さえ出来れば良く、基本は研究してくれ、というものだった。

この辺がISS搭乗のミッションスペシャリストより温い。

温い分だけハードルが低いのも売りである。

5年から10年訓練しても「順番待ち」なISSの渋滞状態を何とかするのも狙いである。




ジェミニ改は訓練日程を終え、帰還フェーズに入った。

「のすり」から分離し、徐々に高度を下げる。

高度が下がると角速度が上がる。

その結果、たまたま宇宙ステーションを、低い軌道にいるジェミニ改が追いかけ、追い抜く時間帯が出来た。

宇宙に居る日本人8人、謂わば同志である。

どうせなら話してみたらどうだ、と地上からの提案であった。

まあ、中継衛星を使えば、軌道上の何処に居ようと通信は可能だったが、訓練機はあくまでも訓練が目的だったから、日程終了まで私的交信は無かった。


ジェミニ改のコクピットからは、進行方向に「こうのす」が見えて来た。

太陽電池パネルが眩しく太陽光を反射している。

双眼鏡で見ると、本体も見える。

……増設座席の飛行士は観望用の窓は無く、コクピットで騒いでいるのを聞いているだけだった。


『こちら「こうのす」艦長の北川、『ジェミニ改』応答されよ』

(艦長??)

ツッコミは多数あるが、取り敢えず返答する。

「こちら『ジェミニ改2』船長橋田、『こうのす』の音声良く聞こえています」

通信機越しに盛り上がる声が聞こえる。


そしてスピーカーを通して会話が始まった。


『お疲れ様でした。

 訓練は如何でしたか?』

「訓練ですか?

 それ自体は地上でやっていた事の復習だから問題有りませんでした。

 宇宙酔いの不調の中でやっていた時がキツかったですね」

『お?

 皆さんもそうでしたか?

 僕たちも宇宙酔い酷かったんですよ。

 中には3日くらい迷惑かけた人もいて……』

「宇宙酔い自体はそれくらい長引いたのも居ますね。

 ただ、任務が有ると、そうも言ってられませんから」

『ですよね!

 こちらも3日休んだのは当時自分の仕事が無かった奴でして。

 仕事有れば、気を張りますよね!』

(いや、仕事のハードさで雲泥の差が有るから!)

両船長が内心ツッコミを入れる。


『大体一週間くらいで、宇宙生活にも馴染んで来ましたけど、皆さんそれくらいで帰還ですよね?

 名残惜しく無いですか?』

「そうですねえ、確かに5日目くらいから寝るのにも慣れ始め、体の方を適用させられたので、もう少し居たい気分は有ります」

『ああ〜、やっぱりそうですか。

 どうにも寝る時違和感有って、慣れるのそれくらいッスよね。

 トイレも最初の方はほとんど行かなくて』

「同感です。

 トイレは極少でって意識ですよね」

『我々もう2ヶ月暮らしてるので、慣れて来たんですけど、最初はねえ……』

「そうなんですね。

 まあ2ヶ月も居たら、出す物出さない訳には行かないし、体の環境に馴染んで来ますからね」

(いやいや、食ってる物も、トイレの快適さも違うから、訓練機で2ヶ月過ごしても最低限にしかならないぞ)


『「のすり」って風呂とか有るんですか?』

「今回の機体には無いですよ。

 以前のには有ったんですけど、4人乗りだと機能的に余力が無いみたいで」

『じゃあ、汗かいた時どうするんですか?』

「拭くくらいです、タオルは大量に有りますので。

 それに、そんなに汗はかきませんので」

『あれ? 筋トレ器具積んで無いんですか?』

「有りますけど、我々短期滞在なのか軽いメニューでした」

『なる程。

 我々はあと1ヶ月居ますし、割とカチッとしたメニュー組まれてまして、汗かきまくりです』

「はあぁ〜、長期組はそれはそれで大変なんですねぇ……」

(実は同じくらいのメニューなんだが……)

(研究員と正規の飛行士じゃ、基礎体力が違うから、飛行士の言う軽いは研究員のハードなんだよ)

(同じ運動量でも正規の飛行士は軽々こなすから、汗はそんなにかかないんだよ)

もう両船長の心中は、ツッコミが渋滞している。


「『こうのす』の宇宙食は美味いって聞いてます」

『こっちの宇宙食は凄いですよ。

 リヨンの星持ちシェフが作ってくれてます』

「良いですねえ。

 私もステーションハイヤー(※宇宙ステーションに研究員を送る宇宙船のあだ名)のドライバーになれるようキャリア積みたいですね」


ステーションハイヤーは今後、短期滞在隊員輸送も含め数多く出る。

その中に、今回訓練を終えた飛行士も入る。

その時彼は思った。

「訓練機に比べりゃ、宇宙ステーションは高級ホテルのスイートルームじゃないか!!!!」

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