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衣食住

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙ステーション「こうのす」は長期宇宙滞在の実験機である。

一番の目玉は、宇宙で食物を生産する、宇宙で食物を料理する、である。

フェーズ1ではお試し、フェーズ2から本格化するが、それでも2ヶ月が終わろうとしている現在、収穫される野菜も増えて来た。

土壌栽培は、収穫後に殺菌という過程が入るが、無菌栽培の水耕の場合は採れたての調理も有り得る。

調理するのもプロであり、最近は無重力料理にも幅が出て来た。

サラダのドレッシングは、軽いものと重いものがある。

サウザンドレッシングやマヨネーズ等は、野菜に絡みやすく、飛び散り難いのでそのまま使う。

青じそドレッシングや中華ドレッシングのようなものは、さらさらしていて飛び散りやすい。

そこでシェフは、軽いドレッシングの場合はパックに必要分、野菜と共に入れて揉む方法を使っている。

こうして使用料も減らせるし、味付けも「かける」より満遍なく出来る。

フランス料理の生命線ソース、これをどう使うかだが、シェフは新しいアイディアを考案し続ける。

料理にソースを塗る、これは基本だが、更に余った卵白も塗ってレンジ宙空加熱(無重力ならではの方法で、天板に置かず、ど真ん中に浮かせて焼く)で卵白を固めて飛び散らないようにする。

また、野菜も茹でて煮汁に旨味を逃すより、蒸し料理にする。

蒸すのも、対流が起こらない無重力故に、圧力を掛ける、具材を中央に浮かせる等して素材の味を残し、あとは粗塩だけにする。

研究員が乗り込む宇宙ステーションの食生活は快適だった。


一方、ジェミニ改と「のすり」のユニットは訓練一辺倒で、食事も軍用食に近い。

熱処理の関係で電子レンジすら搭載していない。

湯煎専用調理器が一機積んである。

レトルトパウチを入れ、温めたら、そのままパウチの中身をスプーンで掬って食べる。


食べたら、出るものは出る。

宇宙ステーションのトイレは、広くて快適、とは言えないが鉄道のトイレくらいの広さはある。

換気扇もあるし、芳香剤もある。

宇宙になるべく平常を持っていく試みの為、足の固定具や身体を固定させる取っ手以外変わったものはない。

固定具は、勢い良く「発射」した時に体が浮くのを防ぐものである。

無重力で働く「作用・反作用」は無視出来ないものなので、撒き散らかされる前に準備した。

こういう快適な空間ではないものなのだが、宇宙生活に慣れるに従って、トイレ時間が長くもなって来ている。

戦国時代の武田信玄は厠で長考したというが、トイレはそれなりに緊張から解き放つ効果があるのかもしれない。

これから打ち上げられるコアモジュール2は、女性用トイレもあり、よりプライバシーに気を使ったものになる。

プラスアルファで、飛行士に好きな装飾をして貰おうという意見が出た。

ポスター貼るとか、アクセサリー置くとか、それくらいは良いだろう。

実用一辺倒でなくて良い。


……一方、訓練機のトイレは鉄道用トイレどころか、高速バスのトイレより更に狭い、キャンピングカーのトイレ程度である。

トイレ自体簡易トイレ、災害時用の携帯トイレに近い。

食事自体が排泄物になり難いもので、かつ最低限の食事しかしないので、トイレの回数は少なくなる。

この程度で良いと言えば良い。


トイレと並び、風呂も拘りが出る。

宇宙ステーションの浴室には、「こうのとり改」で悪乗り気味に実験された成果が活かされている。

個人用サウナもあるし、タンク型浴槽もある。

汗を流す事、逆に流した汗を洗い流す事で大いにリフレッシュ出来る。


訓練機には浴室は無い。

無くなった。

2人用から4人用に変わった事で、生命維持装置の拡大や、搭載する生活物資の増加、生活スペースを広くする事を優先し、水処理に負担をかける簡易シャワー室も廃止された。

蒸しタオルが作れるので、それで体を拭く。

面倒な時はウェットティッシュだ。


汗はトレーニングでかく。

筋力の衰え、骨の密度維持の為に筋トレはノルマである。

そうして汗をかいた後のシャツだが、訓練機では「使用済み」の荷物に入れて、常に新しいシャツを下す。

宇宙ステーションでは、ドライ式洗濯機で再利用する。

これは人数と滞在日数の問題である。

4人が運用上最大2週間滞在の訓練機と、今は4人だが今後は6人常駐、短期滞在が3人程で三ヶ月程生活する宇宙ステーションでは、シャツを使い切りにするか、再利用にするか判断が変わる。

少人数短期間で、狭い船内ならば洗濯せず、長期旅行の感じで着替えを多数持って行く方式も合理的なのだ。


生活、最後は睡眠環境である。

訓練機では、壁の固定場所に紐を結んで、寝袋を固定させて眠る。

個室という概念は無い。

同じ部屋に寝るのだが、気分的な問題でジェミニ改で寝る飛行士も分けた。

なお、無重力では咽頭を塞いだりされず、いびきはかかない。

歯ぎしりはする者がいるが、マウスピースで対策出来る。

寝言だけはどうにもならない。


宇宙ステーションでは、半個室化されている。

棺桶と揶揄されるものだが、気にならなければ蓋を閉めればプライベート空間が出来る。

旧「こうのとり改」部分は通称「艦長室」という個室になっているので、住環境では雲泥の差がある。


だが、だからこそ研究員のような「お客様」でない飛行士の訓練になるとも言える。

彼等は、もしかしたら将来月や火星への探査命令が出るかもしれず、その時にはジェミニ改2以上の生活環境を準備出来るとは言い難いのだから。

ある意味、不便さが変な刺激となり、飛行士たちは宇宙に慣れていった。

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