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「のすり」での訓練その2

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

軌道上の多目的宇宙船「のすり」は現在、酸素漏れに伴う主電源喪失、副電源状態不明で、低出力の太陽電池と、機体反対側にある別の酸素タンクでの運用中、そう新人飛行士2名は思っている。

それは「臨機応変さ」を求めるアメリカ式の緊急事態想定訓練エマージェンシープログラムで、実際にはどこも破損していない。

彼等は破損した機体の放棄を決断。

だがその前に、現在操縦訓練で離脱しているジェミニ改とのドッキングが必要で、その為の再起動、一日程度しか状態維持出来ないが、それを求めて来た。

訓練は続いているので、まだ真相を知らせない。

緊急事態の緊張感の中、再起動を間違う事無く行って貰う。


ジェミニ改で離れている2人も、これに付き合っている。

橋田船長は、真相は知らされていないが、ハプニングの訓練と察知していた。

航空機事故でもそうだが、限られた人員の中でのコミュニケーションは大事である。

操縦訓練をしている新人ルーキーと共に、地上と「のすり」との三角通信をし、情報を仕入れ、意見を交換していた。

新人には特に多く話させ、意見を出させていた。

船長であり、宇宙経験もある橋田は、新人に操縦訓練をさせていて、気づいた事がある。

酸素漏れと言ってるのに、「のすり」の機体を外部から見て、傷一つ無いし、噴出物が全く無いのだ。

アポロ13号が事故を起こした時、機械船のパネルは吹き飛び、窓からは酸素漏れが「ガスのようなものが吹き出ている」と視認出来た。

だが、今回全くそういったものが確認出来ない。

新人飛行士も、

「外は……綺麗なものですね……」

と何となく気づいたが、それでは訓練にならないので

「外からは分からない場合もある。

 引き続き『のすり』内の乗員クルーと連絡を取り続けるように」

と指示をした。


新人とはいえ、しっかり地上で訓練を積んでから宇宙で最終訓練に来た者たちである。

慌てず、急いで、正確に「のすり」を再起動させ、コンピュータが稼働、ジェミニ改とのデータリンク回復。

そしてドッキング成功、4人が合流した所で種明かしとなった。


余談であるが、某技師長の「こんな事もあろうかと」はエンジニアの心得として有名だが、それと同じくらいに技師長を守り抜いた空間騎兵隊長の「慌てず、急いで、正確に」も重要である。



さて、種明かしされ、緊張の糸が解れてから夕食となった。

訓練内容が厄介だっただけに、任務なら不平を言わない新人飛行士たちも、今日は口数が多かった。

やはり文句、不平の類は無かったが、他の対応策についてだったり、帰還不能の可能性についてとか、

「外から見たら綺麗なものだったよ」

「何で教えてくれなかった?」

「船長が、外から見ただけでは分からないと言ったから……」

「いや、教えても良かったよ。

 実は、『のすり』の方から、外側の様子について質問されたら、無傷だと言わざるを得なかったんだよ。

 どうして質問しなかった?」

「……実はいっぱいいっぱいでした」

「交信は全部記録されてるからね。

 質問しなかったのは減点だと思うよ」

といった話をしていた。


そして話題は橋田船長が以前に経験した緊急事態訓練エマージェンシープログラムについてに移る。

「僕の時は、大気圏突入用のシールドに破損って設定だったよ」

生還率0%想定であった。

「それはどう答えました?」

「まず船外活動して調査し、無傷ですと報告した。

 すると、訓練だから傷ついてる事にして、と返答。

 帰還を延期し、代えのジェミニが来るまで宇宙に居る、と回答。

 するとね、『準備に二週間掛かる』と言って来た。

 アメリカに、常に予備機を待機させてるから、すぐ迎えに来られる筈なのに、よっぽど僕たちを殺したかったんだねえ」

一同笑う。

「で、結局どうなりました?」

「どうしても地球に戻れって事で、考えたよ。

 耐熱シールドの内側には、通常の金属製の底面がある。

 それが耐えられる時間を計算。

 3分は大丈夫だったからそれで突入。

 熱はダイレクトに伝わるから、可燃物は破棄、船内空気も抜いて真空に船外活動服。

 これで耐えられる可能性上昇。

 耐熱シールド損傷で、熱が直にパラシュート展開装置に伝わり、開かない可能性が高いから、限界高度で手動で座席射出ベイルアウト

 これで0%から3%くらいに生存可能性が上がりましたよ、と」

「そうしたら、どうなりました?」

「一か八かの行動は認められない。

 大体、3%ってどこから出た数字か?とね。

 一か八か認められないなら、待ってるから替えの船さっさと打ち上げろ!

 いつまで待てば良いか分かれば、酸素もケチって使う。

 生還率0%の現状での大気圏突入を指令したのは地上つくばだろ!

 耐熱シールドじゃない普通の底面が持ち堪える可能性は高く、その上で高熱を真空にして伝播させないが、それでも我々が焼け死ぬ可能性が高い。

 それと射出装置が壊れてるかもしれない。

 諸々考慮し、耐熱じゃない底面で安全高度まで燃え尽きずに来られる可能性プラス1%、無事に壊れた宇宙船から脱出出来る可能性プラス1%、そしてパラシュートが開いて地上に降りられる可能性でプラス1%、合計3%だ!

 と、当時の船長が吠えてたねえ……」

無理難題、生還率0%の条件を突き付けた訳だし、代えのジェミニ改を出せという要求は理に叶っているし、その上での強引な、但し可能な限り生還を考えた回答だった為、地上はOKを出さざるを得なかった。


無論、実際はどこも故障していない為、普通に宇宙での滞在日程を消費して帰還したのであった。

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