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ジェミニ改2

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

コアモジュール2には、コアモジュール1の運用経験から、一つ機能が追加されている。

ドッキングポートの予備というか、駐機ポートが設けられた。

ドッキングポートは与圧室同士結合する他、電気、空気、データをやり取り出来る。

一方駐機ポートは、単に宇宙船を結合させるだけの穴だ。

大量にモジュール案が出ているのだからドッキングポートを増やせば良いという考えも有るが、コアモジュールからブランチモジュールに融通出来る電気や空気には限度があるから、この増設は難しい。

そこで、単なる結合場所である駐機ポートを増設してみた。

これは、2人乗りのジェミニ改が3機「こうのす」に結合しなければならなかった時、一機モジュールを外してロボットアームで持って対応したが、やはり別の結合場所が有った方が扱いやすいという結論に達した。

ドッキングポート自体を増やせないのと、滅多に起こらない事から、ロボットアームで外したモジュールを持つやり方で十分だと考え、確かに十分ではあったが、運用の方が変わった。


もしも宇宙ステーションを放棄しなければならない時、地球帰還可能な宇宙船は人数分必要である。

タイタニック号ではないが、脱出ボード全部出しても乗り切れない人数が出る事は許されない。

現在4人が長期滞在中だが、有人機ジェミニ改は2機結合されている。

ジェミニ改は2人乗りだから、2機有れば全員脱出出来る。

フェーズ2からは6人が地球滞在するが、ジェミニ改2は最大4人乗りなので十分だ。

だが、短期滞在3人か4人乗り込む。

この間、ジェミニ改2は3機ドッキングする事になるが、余る1機をどうするか。

以前は日米協力宇宙ステーションと日露協力宇宙ステーションの2機体制だったが、それが日本主体での1機体制になり、2機体制時の実験計画が残った。

大分削減したが、総理から

「国際協力案件もあるから、これは残してね」

という横槍が入り、他にも「これは残して」等の要望が多数有って、結局フェーズ2以降は二週間の短期滞在が中数日で何度も繰り返される事になった。

こうなると、非常時用のロボットアーム法は不便である。

短期滞在メンバーが居る間、ロボットアームが使用出来なくなるのだから。

そこで、3機目は駐機ポートに結合し、使用しない間はハッチを閉めて電源オフにしておけば良い。

そういう仕様となった。



そのフェーズ2以降の運用の要、ジェミニ改2が納品された。

ジェミニ改2は、1960年代に使用されたジェミニ宇宙船を拡張し、内装を大幅に変えて、共通ドッキング規格(CBM)を使えて与圧室同士の往復を可能としたものである。

(オリジナルのジェミニ宇宙船は、ドッキング機能は有るが、内部通路は無く、移動時は船外服を着て宇宙遊泳して乗り移る)

操縦席の他に、非常に狭いが生活空間が有り、そこからドッキング時は通路を使用する。

その生活空間に、無理矢理座席を増設したのが最大4人乗りにしたのがジェミニ改2なのだ。

「ゼロ戦に後部座席を追加して練習機にしたようなもの」

と秋山は評したが、アメリカは

「無理な改造しなくても、6人乗り、最大11人乗りの宇宙船有るから、それ買ってよ」

と要求している。

だが、宇宙ステーションは運用を想定している人数で生命維持出来るように、電池も酸素供給も二酸化炭素処理も水循環も計算される。

ジェミニ改2をベースに考えた以上、短期間はともかく、長期使用では運用出来ない。

11人乗り宇宙船が3機ドッキングして33人が乗り込んでも、1、2時間はともかく、1日居たら生活インフラが飽和してしまう。

「だから、11人乗りを満員で使うのではなく、3〜4人乗りで使えば良いだろ」

とも言われるが、日本はそのタイプの宇宙船を打ち上げるロケットを持っていない。

ジェミニ改2までが身の丈に合った有人機なのだ。


そのジェミニ改2の、日本打ち上げ分がコンテナ輸送されて来た。

数機が関東入りする。

つくばの宇宙センターで、展示用とシミュレーション用と予備機である。


展示機は、イベント等で実際に、小学生等を乗せて体感して貰う使い方をする。

シミュレーション用は、そのままの意味で、各種ケーブルやパイプが機体から各設備に繋がり、様々なシチュエーションを再現出来る。

例えば火災が起きた想定で煙を充満させるとか、酸素漏れを再現して減圧させるとか。

予備機は、シミュレーション機のような状況再現用のケーブル等は無いが、事故再現に利用したりする。

イメージとして、アポロ13号の事故時、予備の宇宙飛行士が制限の有る中で機体再起動の手順を探ったのだが、その際に使われた「実際に宇宙に行ったものと寸分変わらない機体」のようなものだ。


秋山は運ばれて来たジェミニ改2に入ってみた。

コクピットはまだ良い。

船長席と操縦士席は変わらず、間隔が狭まったくらいだ。

問題は生活空間に増設された席である。

アメリカ航空運輸局の規定で、非常時脱出機能付きの椅子である。

それを狭い生活空間に収まるように作ったのだ。

座ってみた感覚が

「狭っ!」

だった。

これで宇宙船を着て座ったなら、

「ほとんど動けないな……」

と感じた。

元々バラスト代わりに生活物資を積んでいた空間である。

操縦に関わらない飛行士は、本当に荷物代わりに積まれるだけ。

秋山は改めて、訓練機としてのジェミニ改のバランスの良さと、無理して増員したジェミニ改2の悪化した生活環境を思い知った。

本当に、椅子2つ増やせばいい、ではないのだ。

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