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ちょこっと御馳走(ベルティエ料理長目線)

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

料理において、サラダとは必要不可欠なものではない。

栄養を摂るなら、必ずしも生野菜である必要は無い。

むしろ植物の繊維が固い生野菜は、消化効率が良いとは限らない。

それでも人はサラダを求める。

新鮮な野菜は心に良いのだ。


宇宙厨房はやっと、本物の「新鮮」を手に入れられる。


宇宙厨房モジュール「ビストロ・エール」真向かいには農場モジュールがある。

だが、今回の新鮮な野菜はそこからではない。

90度の位置にある暫定接続の「のすり」(その奥には船長室)での水耕プラントからであった。


大豆モヤシ、カイワレ大根、サラダ菜といった水耕野菜。

シェフ・キュイズィーヌとして幾つかレシピを頭の中で構築する。

近日中に、この採れたての野菜を提供するのに相応しい日がある。

その日の料理を組み立てよう。


翌日、まずは船外活動で配線工事を始めた。

本番は次の日の船外活動になるだろう。

預かっている各国の小型衛星放出も含めて、この日はちょっとした作業日となる。

ベルティエ料理長は、この日の作業時間は休憩時間となっている。

スケジュールからそうなってはいるが、スケジュールを組んだ管制チームの意図は、いざという時に日本語でコミュニケーションを取れるペアにしたいのと、作業者への御馳走に専念して欲しいというものだったろう。

何となく分かっているベルティエは、コアモジュール内の個室で、ただ休憩してなく、色々とシミュレートしていた。


作業終了。

船長から

「御馳走を頼む」

と依頼される。


厨房モジュールのバッテリーを確認。

フルチャージ状態。

耐熱素材、放熱機能を確認。


一品目にサラダ。

適当なサイズに切った野菜を、軽くオリーブオイルで揉んで容器に入れる。

一緒に塩と若干のヴィネガー、香料を混ぜたドレッシングを入れる。

そして容器内の気圧を下げ、霧状になったドレッシングを作り、オイル塗しの野菜に纏わり付かせる。

無重力ならではの調理法である。

野菜の新鮮さ、歯応えを極力残したいと考えた。


二品目は保存していた食材を使った、野菜とエビとサーモンのテリーヌ。

それ自体は前日に仕込んでいた。

料理人としての腕の見せ所は、ソースの味だ。

疲労度を見て、次の肉料理への繋ぎとして必要なら酸味を足し、汗とかかいたようなら塩味を足す。

どうやら疲労はしているが、胃腸に支障が出ているわけではないので、空豆のソースは軽い塩味だけにし、食材の味が分かるように仕上げる。


三品目と一緒に出すのはスープである。

量を減らし、代わりに温度を上げる。

胡椒の味が残る、濃い目の野菜スープ。

ここまで野菜の味で来てから、本命の肉料理。


三品目、メインディッシュとして肉料理を出す。

宇宙では予め料理済みの肉料理を温め直して出すのが普通だが、専門の料理人とプロ仕様の厨房がある「こうのす」ではステーキとして焼く。

野菜は歯応え重視にしたが、肉は柔らかくする。

和食の寿司、イカに隠し包丁を入れるように、ベルティエは肉の筋を切り、肉汁が出やすいように肉に切れ目を入れる。

その肉を網脂クレピーヌで包み、オーブンで焼く。

これが宇宙ならではだが、細い鉄串で位置固定し、宙空に浮かせて上下同時に焼く。

皿に落ちるとか、ひっくり返したりする必要は無い。

融けた脂も垂れない。

スモークになってしまう脂は、しっかり換気する。

漏れ出して宇宙ステーションに充満させるような事はしない。


この三品目が焼き上がる前に、一品目と二品目は提供する。

プロは、一品作るのに1時間かけて食べ終わる迄に客が飽きてしまうような無様な真似はしない。

野菜料理を食べて貰っている内に、肉が焼き上がる。

だが、これをそのままは出さない。

少し落ち着かせる。

オーブンから出した状態は、芯の部分はまだ料理途中である。

火を止めて(電気だが)、肉自身の余熱で芯まで熱を通し、中はミディアムレアな状態にする。

周囲はミディアムだが、隠し包丁で筋を寸断しているのと、肉汁は出やすいのに無重力ゆえに皿に落ちる事無く肉内に留まった状態で提供される。


付け合わせはモヤシである。

シャキッとした状態になるよう茹でる。

ドライガーリックと合わせ、醤油ベースのステーキソースと和える。

ソースをかける、漬けるという作業が面倒な宇宙で、ステーキソース塗れのモヤシと合わせて食べる事でアクセントとなる。

粘度のあるバターとレモンスライスは添えてある。

この辺は好きに肉にナイフフォークで塗り込んで食べて貰う。


炭水化物は予め希望を聞いていた。

北川船長と山崎飛行士はパン。

鈴木飛行士は米の希望だったのでリゾット。

ベルティエ本人はマッシュポテト。

サラダとテリーヌはパックに入れての提供サービスだが、主食メインはオープンプレートでの提供、米とジャガイモは粘着力がある形でプレートに添えた。


最後はデザート。

赤ワインのゼリーとアイスクリーム。

両方とも宇宙ステーション内で昨日から仕込んってあった。

採れたものでは無いが、ミントの葉を添えてアクセントとする。

最後はミルク多めの温いカフェ・オ・レ。

カフェインの眠気覚ましの効果はともかく、利尿作用は侮れない。

牛乳の落ち着く効果も見込み、食後のドリンクはこうなった。



パックは小さく歯応え重視、味付け。

肉は大きめ、やわらかに。

総カロリーを低めに。

こうして、水耕栽培で収穫された野菜を使った、ちょっとだけ御馳走の日は終わった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宇宙料理のノウハウが日ごとにどんどん蓄積されていきますね。今後の宇宙開発や宇宙船内での食事においては当然ながら料理長が後進を育てるでしょうから、彼の流派が主流になってゆくでしょう。
[良い点] 美味しそう(語彙消滅)
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