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ちょこっと作物確保(鈴木飛行士目線)

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

農場ユニットでは芽が出て、成長を始めた。

その内、直接触れての間引きも必要となるだろう。

間引いたものも、ただ捨てられる事はなく、成長過程や成分を分析する資料になる。


農場ユニットではなく、旧「こうのとり改」と共に流用した「のすり」を使った水耕栽培の方が先に結果が出る。

カイワレ大根やらレタスやらベビーリーフやらは、ISSでも実験している。

そして食べても特に問題無いという結果が出ている。

これからの長期宇宙滞在用の研究をする農場ユニットの作物と違い、「のすり」で育てている水耕栽培作物は、単に回転が速い、食用のものである。


この水耕栽培、面白い機材は1メートル級遠心培養機であろう。

ハッチサイズギリギリのサイズのこの船内機械は、水耕プラントを嵌めて閉めると、遠心分離機の要領で高速回転をする。

回転軸側にはLEDがあり、光を発している。

擬似的に、上に太陽、下向きに重力としているのだ。

円形だとちょっと不便なので、プラント設置面は八角形になっている。

このオクタ・インキュベーター、誰が言ったか「八兵衛」(インキュベーターがきゅうべぇなので)では水耕栽培作物の他に、モヤシも栽培している。

これらがそろそろ食べ頃になる。

育てている内に情が移って、刈り取りを拒否しても、やがて腐るだけだし。


ベルティエ料理長に話したら、非常に喜んでいた。

新鮮な緑は料理の華やぎに必要なんだと。

瑞々しさは生命の象徴、ビタミンという栄養面以外でも、人を活性化させる心理的な効果が有るそうだ。

是非に使わせて欲しいと言って来た。


農作物の回転の為、収穫期の野菜は全て収穫する。

中から任意にサンプルを取り、変な細菌の繁殖や毒素の発生が無いかをチェック。

根が残っていればまた生えてくるから、栄養を適度に調整する。

モヤシは新しい大豆の種を、洗って水に浸し、もう一回水を切って光を当てないようにする。

作物は一部を真空パックにし、一部はそのままシェフに渡す。

保存出来る分は保存し、細く長く使うそうだ。

時間が経てば、このように収穫して料理に使われる物も増えるだろう。



さて、船長が船外活動をする日が来た。

山崎飛行士の依頼の装置設置な為、彼がパックアップを務める。

船長の椅子には鈴木飛行士が座る。

その前に、本日の作業を行う。

自分の担当ユニットの土壌のチェック、作物のチェック。

船長が宇宙ステーションの自転を止めて、役目を引き継ぐ。

宇宙ステーションの自転、バーベキュー航法は太陽光を均等に当てる為のものである。

それを止めている事で、もしかしたら異常に温度が上がる場所が発生するかもしれない。

宇宙ステーションの放熱処理は出来ているが、それでも万が一危険な数値を出し始めたら、急ぎ船外活動中の船長を収容し、バーベキュー航法を再開させる。

レーダー監視も強化する。

衝突コースのものは滅多には無いが、軌道は宇宙塵デブリで溢れている。

レーダーで数センチサイズから監視し、ベクトルを調べ、衝突コースに有れば警告音ビープで知らせる。

今回は船外の、更に10メートル外に張られた防御ネットの更に外側で作業する為、衝突コリジョンだけでなく近接ニアミスも対象とし、確実だけでなく可能性(角度変更があった場合)でも警報アラートを出す。

こういう監視は宇宙ステーションだけでなく、地上でも複数箇所で行なっている為、管制室との交信も欠かせない。


船外活動は一度につき最大2時間。

この2時間、船長席の鈴木飛行士は緊張を解けない。

だが、逆に考えれば2時間頑張れば良いのだ。

それに、事前に太陽と宇宙ステーションの向き合う角度、宇宙塵デブリの軌道要素等を計算し、万が一が起こらないような態勢で引き継いでいるのだ。

十中九以上問題は無い。

しかし、その1未満の事に備えるのが船長席に座る当番の役割である。

ローテーションで、船長が一番長く船長席に座っているのも当然だ。

(他の飛行士は一日4時間、2時間ずつ2回担当するが、船長はそれ以外の半日は船長席に座り続ける)


結局問題は一切起こらず、船外活動は終わった。

船長席を山崎飛行士に引き継ぐ。

料理長が休養時間を終えて個室から出て来た。

彼の個室は本体、コアモジュール内にあるので、いざとなったら直ぐに駆けつけられた。

故に、余り休養になっていなかったかもしれない。


船長席を交代した鈴木飛行士は、船長と一緒に次の任務に入る。

外国の大学の小型衛星を、使い捨てエンジンの中というか上に結合し、発射管に装填するのだ。

これは与圧室内で行える。

まるで潜水艦の魚雷装填みたいだ。

予備室に送り込み、ハッチを閉めると、エンジン付衛星は発射管に送り込まれる。

衛星が装填された発射管は、宇宙ステーション外壁から外に張り出す。

そして時間が来たら自動でロケットエンジンが点火され、所定の位置に向けて動き出す。

ロケットのバックファイアを受けないよう、この発射シークエンスは全て宇宙ステーション外壁から少し離れた所で行われる。


この任務も完了した所で、船長から握手を求められた。

今日の緊張を伴う作業は全部終わったのだ。


「御馳走を頼む」

と言う船長の依頼に、シェフがニヤリとした。

きっと新鮮野菜がふんだんに使われた「御馳走」になるだろう。

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