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ちょこっと進展(山崎飛行士目線)

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

地球から他の天体を眺める時、影響を与えるのは空気である。

水蒸気を含んだ空気の揺らぎ、微粒子による光害、光の減衰。

故に大型望遠鏡を持つ天文台は雲の上、大気が地表よりも薄く、影響の少ない高い山の上に建てられる。

それでも大型望遠鏡の心臓部、反射鏡が重力で歪む。

日本の天文台では、その歪みを計算し、アクチュエーターで鏡を支えて光軸を合わせたりする。

これらの問題は、空気が無く、無重力の宇宙では消滅する。

NASAは、だからこそハッブル宇宙望遠鏡をはじめ、ケプラー宇宙望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡等を使用した。

日本も「ひさき」や「あかり」等の観測機を打ち上げた。


さて、日本はデジタルカメラの国である。

イメージセンサーの画素数は1億画素を超えて来た。

人間の目が5億画素相当とされる。

商用でない研究用では、天文台に30億画素とかの素子が使われる。


「こうのす」での実験で応募があった天文、物理系のもので、この1億画素の市販のカメラと、比較的小型の望遠鏡を使った「安上がりの宇宙望遠鏡」を作るというのを山崎飛行士は代行していた。

焦点距離1000mm、口径250mmのニュートン式反射望遠鏡(ドブソニアン式)にデジカメを付ける。

分解度の高いイメージセンサーを使えれば、メートル級の反射鏡が無くても十分な精度を出せるのでは無いか、というものである。

ただし、芸の無い「望遠鏡にカメラ付けて、画像をパソコンで見る」というアマチュア天文家なら簡単に出来る仕様ではない。

その望遠鏡とカメラのセットを4機、赤・青・緑の光で撮影し、補正用の白黒画像を使用するという、ハイアマチュア仕様である。

例えば3000万画素を、フルカラーで使うなら、赤1000万、青1000万、緑1000万の足し合わせになる。

それを各色+白黒(明暗)で撮影して、後でコンピュータ上でデータ重ね合わせをすれば、画素数は全て活用出来る。

今回は4基の望遠鏡を使い、それを一個の望遠鏡として使う。

成功したら、……というか既に成功している手法だから成功は分かるが、精度と費用対効果等を算出し、有効ならより多数の望遠鏡を揃え、複数の機能を使用する事になる。


山崎飛行士は、この調整に勤しんでいた。

船内で完璧に仕上げる、乱視(焦点がズレる)や酔っ払いの二重見え(同一標的を見る角度が合っていない)にならないように、地球を見ながら微調整する。

打ち上げ時の振動で微妙にブレた可能性が有るからだ。

全て機械で調整出来る望遠鏡も作成出来るが、今回は費用対効果調査の為、出来るだけ市販のものを使っているから、人間の目チェックも必要なのだ。


あとは船外活動のリハーサルも行う。

船外への設置は船長が行う予定だが、担当者として必要時には彼も船外活動をする。

実験モジュールが到着していなかった10日余りの暇な頃が嘘みたいに、多忙な日々が続いている。


設置日、結局山崎飛行士は船外活動はしなくて済んだ。

ロボットアーム操作卓に着き、サポートと、カメラから設置場所の指示をする。

もっとも、山崎飛行士もこの計画を立てた人、残念ながら計画だけ採用されて宇宙には来られなかった人と交信し、意見を聞いて伝言役になったりもしていたが。

稼動を確認すると、今地球と接近している火星を観測する。

出来た画像は、山崎は驚くくらい美しかったが、詳しい人に言わせれば「フレーム数が多ければ地球からでもこれくらいは撮れる」との事だった。

それでも、口径、焦点距離、撮影フレーム数の割に良い、つまり効率が圧倒的に良いものだそうだ。

真価を発揮するのはディープスペースの観測時だそうだ。

「系外惑星とか探せるんですか?」

と山崎が聞くと、それは観測精度以上に記憶容量が物を言うそうで、

「そこに惑星が在るのが分かっていて、二週間程度の連続撮影をするなら、惑星の恒星面通過時の減光は捕らえられるかもしれないけど……」

と歯切れが悪い。

まず、目で見て分かるようなものじゃないし、ケプラー宇宙望遠鏡的な使い方をするにはもっと広域の撮影を長時間する必要がある。

それに、宇宙ステーションが地球の周りを回る為、定点観測が出来ないのが最大の問題らしい。

「系外惑星を探すとかでなく、イメージセンサーの解像度とコンピュータ合成で、どれだけの精度となるか調べるのが目的だから、予め分かっている天体ばかり観測して、既存データと比較する」


他人の実験用の設定をしていた週であったが、彼自身の研究も一週間程有れば進捗する。

磁性体について、サンプルの何個かに予想値と違った計測値が現れた。

ここでは本格的な研究はしない。

その前にしなければならない事がある。

計測装置の問題は無いか?

誤差の範囲では無いか?

試験に問題は無かったか?

を見た上で

特定の試験体にだけ当てはまる差は有るか?

有ったならそれは計測値として残っているか?

等等、試験から分析に回す前の「試験結果の評価」までを行う。

OKなら地上にデータを送る。

そしてそれで終わりでは無い。

途中段階なので、計測はまだ続ける。

条件を変えたもので追実験をする。

宇宙にある研究棟ラボを一人で任されているのだから、忙しいて当然であった。


そして山崎飛行士は、そっちの方が楽しく、変化が出始めた試験体を日々評価し続ける。

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