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宇宙滞在の初期は中々慣れないものだ

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

第一次宇宙長期滞在は……病人連発で始まった。

宇宙酔いである。

4人の飛行士のうち、船長以外はつい最近まで一般人であった。

真っ先に、最近到着したばかりの山崎飛行士が宇宙酔いとなった。

彼は今すぐにすべき実験は無い。

モジュールがまだ到着していないからだ。

その任務の無さから来る緊張感の無さもあって、最初に倒れた。

コンピューターの数値を見て設定している内に、乗り物酔いに近い状態になり、次の日は嘔吐が激しくなり、食欲を失った。

それを見ていた農業モジュール担当の鈴木飛行士も宇宙酔いに近い状態になる。

彼は一足先に宇宙ステーション「こうのす」に到着していて、モジュールのセットアップで多忙な時期が終わり、ホッとした頃に同僚が酷い宇宙酔いになり、連鎖してしまった。

厨房モジュールの担当、ベルティエ飛行士は丈夫であった。

彼は、帰還する宇宙飛行士2人を見送るパーティで飲み過ぎた二日酔いがあったくらいだ。

「やはり無重力だと、普段より酔いが回っちゃうね」

と青い顔で笑っていた。

そのベルティエ飛行士は、日々の食事を作るので、宇宙酔いの2人用に特別食を作っている。

胃酸が上って来やすく、山崎飛行士が特に喉を痛めてガラガラ声になっていたから、刺激が強いものは作れない。


「こうのす」は嘔吐対策も施されている。

以前の「こうのとり改」では、トイレに吐き戻す際に「撒き散らかさないように、顔を密着させる事」→「殺されたいか?」と言うやり取りがあった。

広い「こうのす」でも、トイレは飛行機や夜行バスのものと同じくらいの狭さだが、それとは別に「洗面室」が用意されている。

今年初めの疫病騒動も踏まえ、病原体の持ち込みは無いと管理しているが、それでも土壌等を持ち込んだ為、病気を防ぐ為のウガイもこの洗面室でする。

そして、使い捨ての顔当てを付ければ、嘔吐したものも流せる。

撒き散らかさないよう、口に当てて吐く他、喉が荒れる為ウガイもする為こういう形になった。

病気の可能性を考え、吐瀉物に水分は多量に含まれているが、これは再利用しない。

顔当ても、使用後はビニールに入れ密封して持ち帰り用のコンテナに封印する。

そして、トイレと洗面室は花系の匂いをさせている。

ステーションの中の限られた空間で、脱臭剤と芳香剤を使い嫌な臭いが広がるのを防いでいる。

宇宙酔いは、体調次第では経験豊富な宇宙飛行士でもなるので、「こうのす」ではここまで対策したのだ。


北川船長は、軽く医学のレクチャーを受けて来た。

宇宙ステーションに医師はいない。

手術等は出来ないが、薬は渡せる。

その際に間違わないよう、医学的には診断を、薬学というか薬剤師の分野だが、薬の処方を地上で学んだ。

最終的な判断は地上のスタッフに委ねるが、そこから出た指示に対し

「この長細い、黄緑色のパッケージのこれですか?」

等と聞かなくても良いように、ある程度の知識は必要だ。


現在「こうのす」には4人しか居ない。

船長もシェフも、自分の仕事だけしている訳ではない。

2人とも、全員の役割を代行出来る。

また、24時間任務ではなく、休養の時間は確保される。

北川船長が農場ユニットのモニタリングし、その間ベルティエシェフが船長代行として地上交信やレーダーの確認をする。

ベルティエシェフが休みの時、北川船長が代わりに宇宙食を湯煎して提供したりする。

そうした2人の仕事っぷりを見てか、鈴木農場長は翌日に、山崎研究員もその翌日には快復し、任務に復帰した。

彼等はまず自分の寝ていた個室を消毒するよう、地上スタッフから指示される。


2人が快復した後、北川船長が目眩を訴えた。

ちょっとした過労だったが、コンディションを崩した事で宇宙酔い、というか脳に滞留しやすい血液による地上とは異なる状態に敏感になったようだ。

任務には支障無いが、地上スタッフは北川船長に2日の軽作業指令、ベルティエシェフにも用心の為1日の軽作業指令を出した。

軽作業指令は、自由時間と休養時間を増やし、本来業務以外の他者へのサポートは減らして、疲労を防ぐものである。

更に本来業務も軽減させる微作業指令と、筋力維持のトレーニング以外は休養時間とする休養指令、トレーニングもしなくて良い完全休養指令とレベルが上がる。

これ以上は、緊急帰還命令となる。


休んでいたミッションスペシャリスト2人に仕事を多く割り振り、休んだ分だけ船長業務や生活業務をさせて慣れさせる事になった。

軽作業指令の2人の大人も、負担減なだけで持ち場には居るので、教えて貰いながら習熟していく。

ミッションスペシャリストの大学院生、ポスドクにしても、半年程の密閉空間での訓練を経験していた為、無重力環境での身体の位置固定で困惑した以外は、訓練済みの作業の確認で良かった。

山崎研究員はディスプレイを見ていると、地上では感じなかった目のチカチカと疲れを覚えた為、青色を減らすタイプのフィルター眼鏡をかける事で対応出来た。


こうして10日程で「こうのす」は通常運用に戻る。

長期滞在は序盤のゴタゴタをクリアした。

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