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トレーニング装置の改良

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙長期滞在は3つの面に課題がある。

1つ目は消費されるエネルギーの生産

2つ目はやはり消費物質である食料、水、酸素の再生産

3つ目は人間の健康維持

である。


1つ目は割と早い時期に目途が立った。

太陽光発電と、どうしてもと言う時の原子電池。

少なくとも火星くらいまでなら、これで賄える。


2つ目の大がかりな実験はこれから行われる。

だが、ISSで相当実験は済んでいるものでもある。

水は既に再処理技術が確立している。

1つ目のエネルギーとも関わるが、相応のエネルギーがあれば酸素の再生産も可能だ。

触媒を使った、生物の排ガスたる二酸化炭素から酸素を取り出し、炭素をゴミとする方法も研究されている。

これがかなうと、二酸化炭素の処理という課題もクリアされる。

「こうのす」の植物プラントや水耕、水槽での海藻養殖も、二酸化炭素を処理し酸素に変える研究として考えられている。


3つ目は、割と新しく分かったものである。

ソ連のサリュート宇宙ステーションに200日以上滞在した後に帰還した飛行士は、筋肉が衰え、自力で立てずグラジオラスの花束すら持てなくなった事があった。

さらにスペースシャトルで宇宙に行く人数が増えると、飛行士の骨密度が低下している事が分かる。

宇宙放射線による被ばくも分かった。

そこで、長期滞在及び複数回数の宇宙滞在について研究されるようになる。


日本は有人宇宙飛行の歴史自体が短く、追試的なものとはいえ、一個ずつ自分でやってみては改めて問題を見つけて対応している。

先人の結果を知っているから、予期出来ない訳ではない。

予想はしていたし、対策もしているが、他の条件が加わる事で「想定よりも良くない」事が分かる、こんな感じである。


今回、宇宙での農業と宇宙での調理をメインにしている為、カルシウム不足が予想される。

小魚やニジマス等の養魚実験も後で行う予定ではあるが、それにしてもカルシウムは不足するだろう。

シェフにはそれを言って、料理には注意して貰うが、それでもカルシウム補充のサプリメントはISS以上に多く摂取する事になる。

そしてトレーニング機材も改造及び新型の設置となった。


基本的には負荷を増大させるようにする。

バネを増やし、回転装置にはトルクを大きくする。

自転車漕ぎ(エルゴメータ)、バイクについても改造された。

地球に居ても、ロードバイクは骨粗鬆症になりやすい。

同じ自転車競技でもクロスカントリーでは、逆に骨密度が上がる。

その違いは衝撃である。

上下のガツンガツンぶつかる衝撃が、骨に良い刺激を与える。

それを応用し、エルゴメータの下に新開発の振動台を置く。

その振動台とエルゴメータのペダルをゴムで繋げて動かすようにする。

ペダルが重くなり、太ももの筋肉をより使うようになるのと、ペダルを回す事で振動台の中の複雑なクランクが回され、上下にランダムに揺り動かされる。

さらにバイクを漕ぐスーツにも、床方向に引っ張られるバネが取り付けられ、ガクガクする衝撃を受ける。

これで舌を噛まないよう(クロカンだと山道が見えていて衝撃を予期出来るのに、この装置だといきなり下に引っ張られたりする)マウスピースも用意された。

このクロカン型バイク漕ぎ機は、効果について数値的な予測がまだ成り立たないまま、二週間の内に緊急開発されたものなので、効果についてもデータ収集していく事になる。


そして、やはり大◯ーグボール養成ギプスのような服が開発される。

これはもう遺伝子に刻み込まれたスポ根魂なのかもしれない。

しかし、そこは合理的思考な令和の宇宙開発、昭和の卓袱台返し(エンディングでしか実際はやっていないが)とは違う。

バネではなく、油圧装置を上手くつけてある。

例えば、膝を伸ばした状態では負荷は全くかからない。

膝の曲げた状態でも負荷はかからない。

曲げた状態から伸ばす時に、油圧装置による負荷がかかる。

弁をつける事で、曲げる時は力がかからず、伸ばす時は力が必要、というような事も出来る。

このギプス(?)には、広告で有名な電気振動式の筋肉刺激装置もついている。

血圧計を応用した空気圧での圧迫機能もあり、血流が上半身にばかり溜まり過ぎないようにも出来る。

ハイテクなので

「大◯ーグボール養成ギプスじゃなくて、メジャー◯ーガー養成ギプスだね!」

と言ったが、ウケは悪かった。

(NASA職員曰く「そんなもんでMLB入れるんなら苦労しねえよ」)


こうしたオリジナル機具から、各種スポーツセンター、体育大学、健康メーカー(主に老人や婦人の骨粗鬆症対策)から募ったトレーニング機材まで様々なものが持ち込まれ、

「こちらで決めたメニューと、機材を使ったトレーニングは1日2時間が義務。

 空き時間でも、それらエキスパンダーやトレーニングゴム、ダンベルを使ったトレーニングを合計1時間行うように。

 どうしても出来ない日は、1日休むのは良いが、2日休むと筋力は衰え、3日休むと様々な機能が衰えるから、毎日続けるように!

 かといって、2日休んでその分取り返そうとオーバーワークも禁物!」

とどこかの高校のような根性論まで出て来た。

これは「休み休みどこかでガツンと、ではなく運動を規則的にしなさい」という程度の意味しか無かったりする。


しかし、運動をあまりせずに大学院まで来た鈴木飛行士には過酷だったりする。

そしてジム通いが趣味なベルティエ飛行士と、半日以上訓練に明け暮れた自衛官上がりの飛行士には特に問題無かった。

宇宙に来て筋肉痛という、良いんだか悪いんだか、そのような日々がこれからミッションスペシャリストには訪れる。

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― 新着の感想 ―
[一言] そこは振動と映像をリンクさせたVRクロカンをですね でも振動でゴーグルズレるかな
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