将来の組織統合について
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
秋山はJAXAの上の方に呼び出された。
これから宇宙ステーション「こうのす」の第1フェーズ長期滞在に向けて調整をすべき時であるのに。
忙しいのに何事か、と会議室に入った秋山は、議題を聞いて一瞬背筋が凍った。
<<有人宇宙飛行部門の統廃合について>>
「今すぐとか、来年の話じゃないよ」
と言われ、安心するやら、(まだ肩の荷は下せないのか)と思うやら。
この有人宇宙飛行計画は、そもそもが「日本が貿易黒字だから、アメリカでしか作れないようなものを買って、少しでもアメリカとの貿易不均衡をどうにかしよう」という、科学とは関係無い動機で始まった。
総理案件で、かなり自由に出来たのは、科学的な必要性でやっていた仕事じゃなかったからだ。
ある意味、安全飛行さえ出来れば、議員を乗せて遊覧飛行させても良かったのだ。
貿易黒字を減らす為なのだから。
それ故に、真面目に日本独自の有人宇宙飛行を考えていた人たちは去った。
有人宇宙飛行と言っても、アメリカから宇宙船や、場合によってはロケットまで買うのが前提だったからだ。
さらに総理がセールスして回り、他国にも使わせてやろう、という政治的過ぎる計画を、科学者・技術者・評論家が嫌った。
ところが、ここから日本人の貧乏性で「ついでだから」が始まる。
どうせ宇宙に行くのだから、追試で良いから科学実験をしよう。
科学実験をするには、そもそも訓練船でしかない宇宙船は小さ過ぎる。
ならば、ISS輸送機「こうのとり」があるのだから、改造して小型宇宙ステーションにしよう。
宇宙ステーション作るのなら、どうせだから快適にしよう。
快適な宇宙ステーションなら長期滞在が可能だ。
長期滞在可能な宇宙ステーションなら、自給自足実験してみない?
こんな感じで今に至る。
この長期滞在と自給自足実験は、火星有人探査や月長期滞在を考えるアメリカも注目している。
最初は単なる宇宙飛行士の訓練部門で、低軌道を数周回って帰って来れば良かったのに、面白い実験を始めたものだ。
ところで、NASAとJAXAはもう一個有人宇宙飛行部門を持っている。
こちらが元祖である、国際宇宙ステーションISS運用部門である。
こちらには正規の宇宙飛行士、スペースシャトルやソユーズの操縦が出来る飛行士が居る。
科学的な実験は、ISSの日本モジュール「きぼう」で行い、秋山たちの宇宙ステーションでの実験は、大学院生に公募して決めたレベルのものだ。
しかし、秋山たちの部門も大分注目に値する実験を行うようになって来たし、ISSの補完も出来る。
そのISSも、設計上の使用年数は過ぎていて、予算が無いから延命しているに過ぎない。
秋山たちの部門は、総理案件で貿易黒字額を減らせるだけの予算を、外貨準備から出している(故に、アメリカから買った方がドル建てなので効率が良い)が、日本的には「湯水の如く」でも、アメリカ基準では「それは一ヶ月分の予算か?」と言われるくらい少ない。
そんな中で安上がりに「スカイラブ」級の大きさの宇宙ステーションを作っている。
コストパフォーマンスの良さに、NASAも注目した。
そう、秋山らの評価はアメリカでは高いのだ。
故に統廃合の話が出た。
どうせなら、本格的に有人宇宙飛行やらないか?と。
複数同時に動いているというのも都合が悪い。
正規の部門は、日本の自動車メーカーT社に、月面車の開発を持ちかけている。
ところが、秋山たちの部門から安上がりの、バイクメーカーH社のチートスクーターが月面仕様として提案された。
正規部門は管理していなかった為、有効なのを認めつつ保留。
訓練機である「ジェミニ改」が手狭だから「ジェミニ改2」として最大4人乗りに、無理のある改修をしたようだが、アメリカとしてはオ〇オンとか、クルード〇ゴンとかシグ〇スという4~最大11人乗りの宇宙船を使って貰った方が、それらの単価も下がって助かる。
なので「これだけ技術力がある組織なら、一本化して、国際宇宙ステーション計画、火星探査計画、月定点観測計画に加わって下さいよ」という理由だった。
見返りとして
「日本独自の有人宇宙船を開発しても良いです。
アメリカ製部品をどれだけ使うように、という制限もつけません」
という提示もされたという。
距離を置いた、日本独自宇宙船を夢見た学者連中も戻って来るだろう。
(でも、アメリカはそんなに甘くない)
秋山はそう考える。
確かにアメリカ製製品を何パーセント使えなんて指示は無い。
しかし、散々規格審査で悩まされた彼等からしたら、日本で作っていない部品もあるし、コスト面や実績からアメリカ製を使った方が良いものも多数ある。
そういう部品を作る素材とかは、日本の東京都大田区の町工場で作られているから、もうどっちの国のをどう使うとか、あまり意味のある話でも無い。
「それで、長期滞在計画はどんな感じなのかね?」
統廃合の時期が何時になるか、重要な問題である。
秋山は、現在構築中の「こうのす」計画について、長期滞在と自給自足について、そういう環境下での長期滞在宇宙飛行士たちの体調・メンタルについて予想出来る事、等をお偉方たちに説明する事になった。
まだ終わらす気は無いです。
ですが、いつかは切り上げるので、終わる時はどうやって終わるか、提示しました。
現実先生と相談しながら書いてる部分もありまして、JAXAが実際のT社に月ローバー開発持ちかけてるCMが流れてますし、日本が有人計画に大きく関わるなら、部門2つ有るのは不合理だと考えました。
てなわけで、予算打ち切られるとか、政権交代して無駄遣いの象徴として吊し上げられるとか、ネタ切れでエタるとか、そんな形でなく発展解消で終わらせます。
まあ、これから本命の長期滞在・宇宙での自給自足実験・リラックス可能な宇宙での生活空間について話が始まりますので、当分終わらないです。
ポイント低いの気にはしてますが、それでも書きたいテーマまでは書き切ります。




