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色々試してみよう

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「こうのす」は長期滞在チームと前提とした仕様である。

長期滞在は補給と自家生産、研究員が軌道上に滞在したままでの成果物の地球送付が欠かせない。

それを見越して、先日はイプシロンロケットを使った輸送試験計画立案、軌道上からの投下試験を行った。

前回までのは実験であり、次回からは本番機を使っての実用となる。

今回は、本番機を使った最終試験という事になる。


現在、輸送機であるHTV-X先行試験機がドッキングしている。

この機体には軌道上からのカプセル投下機、自身が大気圏突入前に切り離す回収カプセルが搭載されている。

それと、船外モジュールとして厨房モジュール「ビストロ・エール」の外側に取り付けられる醗酵室が運ばれた。

パン生地を発酵させる、ザワークラウトやピクルスを漬ける、この程度の事ならこのモジュールで出来る。

無論大がかりなのはバイオハザード施設でもある農業モジュールで行うが、ちょっとした調理用のドライイーストを使う程度のは、ここで出来る。

無論マスク手袋をし、船内の空気に直接触れさせないような仕組みになっている。

フランス人飛行士がホームベーカリーを使えるから喜んでいるが、実験のメインは食事ではない。

あくまでも補給の受け渡しが出来るかが大事なのだ。


宇宙飛行士4人の血液検査、尿検査を行い、その検体をカプセルにしまう。

そしてカプセルを投下装置にセットする。

データ集めとパフォーマンス的な部分が大きかった試験投下と異なり、今回はカプセルを投下装置にセットしたら、気象衛星や地上からの情報を元にコンピュータが、最適な位置で最適な角度に投下する。

順調に起動したなら、宇宙飛行士には特にする事は無い。

だが、カメラを何個もぶら下げて、船外に出る飛行士もいる。

折角だから、投下の瞬間を撮影したい。

船外カメラも有るから、船内からカメラをコントロールすれば十分見られるのだが、それでもやはり直接見たい、自分の思うフレームで写真や動画を撮りたいという希望が有った。

カメラ自体は、メーカーから「使ってみてくれませんか」と試験依頼されたものだ。

動画配信者に対し、レビュー依頼するようなものだ。

三面六臂の超人じゃないし、同時に何個ものカメラのシャッターは切れない。

そこで役に立ったのが、鳥籠(バードケージ)と呼ばれる外周防御金網である。

網目にアダプター経由でカメラを取り付け、ある機種は動画撮影のボタンを押し、ある機種はタイマーにしたり、タイムラプス撮影をセットする。

金網は機材の簡単なプラットホームにもなり、思った以上に便利だった。


撮影は地球投下カプセルだけでは無い。

輸送機では天体望遠鏡を運んで来た。

これをバードケージより外に出ている多目的ポールの姿勢制動(スタビライザー)台座に設置する。

宇宙空間では空気の対流による揺らぎが無い。

小口径のものでも、遠くの物をくっきりと見られる。

何基か設置し、それぞれに取り付けたCMOSセンサーからの画像を集め、合成する。

その撮影時、宇宙ステーションも移動しているので、ブレが出ないようにするスタビライザーの機能もチェックする。

あと、撮影後の画像処理は宇宙ステーションのコンピュータでは行わない。

処理としては重いので、確かに一般用とは異なる高性能なコンピュータではあるが、「こうのとり改」の時よりも圧倒的に広く、複雑な船内管理と、重く、形態によってバランスが変わる宇宙ステーションの姿勢制御に専念させる。

実験結果解析用コンピュータも別立てであるが、とりあえず画像処理、画像合成コンポジット、ダーク演算とかは個人のPCでして貰う。


任務と私事の中間的なものに、運動がある。

バイク運動、ルームランナー、ゴムチューブで負荷を掛けて乗ってジャンピングもする。

データは取っているから任務の内ではある。

運動時間、メニューは決められているが、時間帯は自由に決められる。

これで汗をかいたら、風呂だ!

……となるのは日本人飛行士で、フランス人飛行士はISS慣れしてる事もあり、蒸しタオルで身体を拭いて終えてしまう。

「臭くなるから、風呂に入れ!」

と言われ、改良型宇宙風呂に無理矢理入れられるフランス人。

「なるほど、快適だ」

と評価した後、

「だが、どうしてくれる?

 こんな贅沢を覚えてしまったら、精々シャワー室しかないISSでの生活に耐えられなくなるだろう!」

と文句をつけた。

その割に、翌日からは必ず入浴するようになっていた。


「風呂では君たちの素晴らしさを認めざるを得なかったから、今度はフランスの素晴らしさを味わって貰おう」

稼働し始めたホームベーカリーで焼き上げ立てのパンは美味かった。

パン食も増え始める。

そんな中で、再度の健康診断用の検体が、帰路のHTV-X内帰還カプセルに積み込まれた。

試験期間中に2機のカプセルが地上に送られて、両機とも回収に成功する。

そしてデータは残酷だった。


「血糖値上がってるなあ。

 あと、脂質、中性脂肪もか。

 運動不足か、骨のカルシウムの溶け出しもある。

 料理作れると言っても、専門家じゃないし、つい炭水化物の摂り過ぎと、甘いものを食べ過ぎをしてしまう。

 甘いものに含まれているリンは、骨のカルシウム溶け出しに関わるからね。

 運動のメニューを変えて、負荷中心にし、食事も管理しないとなあ」


 栄養管理も出来る料理人はやはり必要かも、と地上スタッフであった。

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