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「こうのす」最終調整

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

秋山は、第二次宇宙ステーション「こうのす」の始動を、ネットワークも使って日米仏加の関係者、職員たちと乾杯して祝った。

軌道上の飛行士4人もミニワインボトルで乾杯している。


乾杯が済むと、残ったモジュールの打ち上げについて話し合う。

1機は農業用モジュールである。

このモジュールは大型かつ重量級な為、H2Bロケットではサイズが合わず、打ち上げられない。

H3ロケットと専用ブースターが完成してから打ち上げようか?

だが、それだと時期的に遅くなり過ぎるから、アメリカのファルコン・ヘビーかアレスVを使おうか。


もう1機は科学実験用モジュールである。

単なるラック実験はコアモジュールでも可能であるが、このモジュールにはISSの「みらい」と同じ曝露部、先程実験したイプシロンロケットで打ち上げる小型輸送筒の受け入れ口、逆に成果物を地球に射出する帰還カプセル投下装置が搭載されている。


そして新しいアイデアも加わる。

エアロックから船外に出た時に、宇宙ステーションから投げ出されないよう、鳥籠バードケージと呼ばれる金網で宇宙ステーション外周を覆う案である。

外壁修理や何かの設置の際、安心して作業が出来る。

また、宇宙ステーションに向かう衝突物に対する障壁バリアとしても使える。

この金網の内側で、かねてH社に発注していた宇宙スクーター(1人乗り小型宇宙船)の試験を行う。

金網から外には、ドアを開ければ出られる。

もしも観光客を受け入れた場合、その人を比較的安心した気分で宇宙遊泳させられる。

ISSが受け入れに余る場合、こちらに(大金を出す)観光客が回って来る可能性もある。


金網は電波を妨害する。

周波数や出力にも依るが、それでもアンテナやレーダーは金網の外側に設置した方が良い。

ポールを立てて、そこにそういった電波機器を設置する。

更に、光学カメラや微粒子計等も設置する。


こうした船外活動による作業が残っている為、ミッションスペシャリストたちを乗り込ませる前に、今の飛行士たちに仕事をして貰う事になる。

諸々を纏めて、軌道上の飛行士たちにも連絡する。



宇宙ステーションは、研究職であるミッションスペシャリストたちに完成させてから渡す前だが、技術テクノ系宇宙飛行士である彼等も、この宇宙滞在地に既に研究される対象になっている。

心拍数や体温等、体調は逐次計測されているが、

「非常にリラックス出来てますね」

と医療関係者が評している。

船外活動も多く、気が抜けない任務がまだまだあるが、外周の金網が完成してからは、宇宙の迷子になる確率が激減した事もあり、船外活動中の数値も極度の緊張というものは無くなった。

2人から4人になり、完全休養時間が出来た事や、一人になりたい時に「こうのとり改」に入ってゲームしたりしてリラックス出来るし、日本人クルーには風呂の稼働も大きく、全体的に飛行士たちは中期滞在であるのにストレスが少ない。

誰もが分かってはいたが、広い空間、安全の確保、交代要員の多さは、飛行士の緊張を減らし、それは数値となって如実に現れた。


ドッキングした厨房モジュール「ビストロ・エール」もフル活用されている。

意外な事に、日本人宇宙飛行士3人全員が、料理についてやる気があったようだ。

自由時間にビストロ・エールに入り、袋に小麦粉と水を入れ(粉が飛び散らないよう)、捏ねて伸ばして、オーブンで焼き始めた。

ケチャップとチーズとハムとピーマンを乗せて焼くピザを作ったり、

そのまま焼いてカレー(これも砕いたスパイスを加えて煮込み直した、なんちゃってインド風)、それに合わせるナンとしたり、

深皿にレトルトシチューと、生のキノコをスライスしたものを混ぜて入れ、小麦粉を練ったもので蓋をし、それをオーブンで焼くロシアのキノコ壺焼き風を作ったり、

まあ様々である。

フランス人飛行士が

「うん、認めてあげるよ。

 でも、イースト菌の使い方覚えれば、もっと料理の幅が増えるね」

とプライドを覗かせながらも、日本人を認める。

イースト菌による発酵で、パンや饅頭を作りたくはあるが、無菌である事が必要である為、やるなら農業モジュール到着後になる。

イーストを使えない代わりに麺打ちも始め、次第に腕が上がっていく。

「うどん屋だとさ、足で踏んで腰を強くするんだけど、無重力では難しいな。

 検討項目として書き出しておこう」

「そうだな。

 ワインもブドウを足で踏む過程がある。

 私の方もCNESに開発項目に挙げておこう」

粉物を飛び散らないようにかき混ぜたり、無重力対応した煮込み鍋等を開発した、日本以上に食へのこだわりの強いCNESだったが、流石に

「そこまでは面倒見きれん」

と呆れたように言ったそうだ。

また、小麦粉と卵を混ぜたものに、更に刻みキャベツに天かすに豚肉を混ぜてから焼く大阪風か、下地と卵焼きの間に加熱した具材を挟む広島風かで、軌道上お好み焼き抗争(中立はフランス人、日本人一人はもんじゃ焼き派で真っ先に迫害されていた)が勃発した時は、流石のJAXAも

「本業に戻りなさい!

 どっちでも良い、というのが我々の結論だ!」

と突き放した。

(地上でも大阪対広島論争が起きて、こっちでも結論が出なかった事は議事録から抹消されている)


快適な宇宙生活の中、悪化した数字、それは地上に戻って来てから判明する。

肝機能(酒の飲み過ぎ)

体重(美味い物食べてる割に運動不足)

HbA1c(糖質・炭水化物の摂り過ぎ)

の悪化は、まだまだ健康を損ねるには余裕があるとは言え、JAXA、CNESスタッフの頭を痛めた。


そしてアメリカは思う。

(我が国はこのままメシマズで良いかな)


だが後にアメリカも、宇宙でピザを焼けるとなったら、それを間食に食べまくり、中性脂肪の値の悪化に頭を痛める事になる。

CNESにて

「中国宇宙局からメールが来てます。

『空飛ぶ厨房モジュールの仕様を教えて欲しい』

 との事です」

開発した調理器具の中には、特許ものが何点もある為、フランスは公開を渋る。

そして

「我々のモジュールは、大量に油を使う中華料理には未対応である為、要望には応えかねる。

 我が国に並ぶ料理大国が『オリジナルの』厨房モジュールを開発するのを期待している」

と返信した。

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