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年末じゃないが大掃除

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

次期日本独自宇宙ステーションへの運用切り替えの前に、「こうのとり改」のみを使うラストミッションがある。

通常の訓練に加えて、大掃除をする。

一部の機器はバージョンアップさせる。

まだ種子島宇宙センターは各種事情で使用不能な為、アメリカからの打ち上げとなる。


日本が「こうのとり改」を運用しない間、利用権を持つアメリカが使用して来た。

アメリカ及びソ連/ロシアは宇宙を軍事利用して来た。

ソ連時代の宇宙ステーション、同型機ではあるが科学利用の時はサリュートと言い、軍事利用の時はアルマースと称した。

アルマースには機関砲が搭載されたタイプも有った。

ソ連は有人軍事宇宙ステーションは不効率であるとして運用停止し、無人軍事衛星に切り替えた。

アメリカはスペースシャトルの運用時に、任務が公表されない軍利用のものが有った。

ISSは平和利用目的だし、他国の目も有り軍事利用は無い。

スペースシャトル退役後、この手の任務はどう行われて来たか不明である。

「こうのとり改」は滞在可能人数こそ少ないが、独占使用が出来るのと、船外露出フレームに取り付けられる機器は自由度が高い。

しばらくアメリカ空軍が借りて利用していた。

先日の小型モジュール投下実験において、ジェミニ改が「こうのとり改」と連絡したり、ランデブーしなかったのは、「こうのとり改」が軍事利用中だったからである。

この軍事利用は日本人には、公然の秘密であった。

「まあ、やってんだろうな」と分かってはいるが、はっきりさせると面倒臭いので曖昧になっている。


アメリカ利用中、軍事利用期間が明け、日本運用になった。

軍事利用中の装置は回収されているが、色々触られたと思うので、日本人の手で再設定する必要があるだろう。


アメリカから打ち上げられたジェミニ改は、L軌道、つまり訓練も行う為数日を掛けて「こうのとり改」に辿り着く軌道に乗った。

補給物資の他、掃除用具を積んだ「のすり」をターゲットに何度もドッキングや、ほぼ零距離ランデブー(彼我の距離が1メートル以内)を訓練した後、「こうのとり改」にドッキングした。


「思ったより綺麗ですね」

宇宙飛行士募集では2期生になる宮本飛行士が呟く。

「アメリカさん馬鹿にすんな。

 我々より半世紀も前に宇宙ステーション打ち上げてたんだぞ」

1期生、11人の最初のメンバーであった竹内船長が返す。

確かにそうだ。

一般にアメリカ人は散らかすイメージが有るが、それだけがアメリカ人では無い。

宇宙飛行士とか潜水艦乗りとかパイロットとかエンジニアとか、散らかすのがマイナスな世界ではきちんとしている。

それはロシア人も同じだ。


ただ、きちんとしたアメリカ人であっても避けられない事がある。

「個室、なんか獣臭いです」

「連中の普通の体臭だ、気にすんな」

「気になります。

 なんか臭くて眠れないですよ」

「慣れる!」

「慣れませんよ。

 ああ、ファブ○ーズとかリセッ○ュ持って来れば良かった……」

「持って来ても、宇宙ステーション内でミスト噴射するのは厳禁だからな!」

「竹さん、自分ジェミニのコクピットで寝ますわ」

いくら無重力とは言え、全身を伸ばせる個室の簡易ベッドと、計器が周りに設置され、基本的に夜行高速バスの3列シートと変わらないジェミニ改の座席シートでは、簡易ベッドの方がストレスは少ない。

それでも彼はジェミニのシートで休息を取る事を選んだ。


翌日から掃除に入る。

宮本飛行士は個室を徹底的に清掃し、除菌する。

「まだちょっと……」

「……お前、宇宙飛行士に向いてないんじゃね?」

潔癖なとこ以外は優秀な人材である。


今後は「こうのす」コアモジュールが担うとは言え、エアコンのフィルターも外して、地球から持ってきた物に取り換える。

吸着した中に臭いの原因物質が有るかもしれない。

宮本飛行士がパイプ、チューブもしっかり掃除する。


竹内船長は、船外活動で太陽電池パネルを交換する。

発電効率はそれ程落ちてはいないが、より効率が良いもの、かつコアモジュールとのドッキング時に邪魔にならないものに換える。

また、事前に地球で判明していた姿勢制御エンジンをモジュールごと取り換える。

こんなデカい交換品を積んでいたから、「のすり」の簡易ベッドは使えなかったし、宇宙塵デブリを増やさないよう交換したのを収容するから、これからも「のすり」は資材置き場、倉庫としての使用となる。


その晩も宮本飛行士は、感覚的にまだ臭かったベッドが気持ち悪いとかで、ジェミニ改で休養を取った。

宮本飛行士が個室から臭いが抜けて、もう気にならないと休むのは滞在3日目からであった。


便座の交換、水回りのパッキングの交換、LED照明の交換、掃除機も新しいのと交換、トイレには活性炭の臭い吸着剤を設置した。

モードを休眠に変更。

準備は整った。


ジェミニ改は切り離された。

やがて廃棄物を載せた「のすり」がジェミニ改から切り離され、焼却処分コースへ向かう。

燃え滓は、太平洋の到達不能極に落ちる。

そしてジェミニ改も大気圏再突入。

失敗せずに無事帰還。

問題無し。

これで次世代宇宙ステーション計画に移行する。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「せっかく地球重力から衛星軌道に乗せたモノを、ただ燃やすのは勿体無いのではないだろうか……」 「フライバイで内惑星へ行かせますか?」 「熱がなぁ」 「太陽風ヨットで外惑星なら――」 「デ…
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