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書類作業

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

宇宙飛行士たちが訓練メニューを提示され、チーム別に訓練スケジュールを調整している頃、秋山もまた様々な調整や書類業務を行なっていた。

まずはアメリカにコアモジュール1号機を運ぶ業務がある。

コンテナ船の手配、内容を示す書類の提出等船便に関する作業を行う。

行うと言っても、役職が上になった秋山の下で職員が、pdfをダウンロードし、印鑑や署名をしたものを再度電子化し、メール送信するのを見守っているだけだが。

アメリカの方は案外話が早い。

放牧している職員が居るし、打ち上げは早い方には前倒ししてくれて良い。

無人機を軌道上に置いておけば良いのだから。

順番が一番先のアメリカに対しては、打ち上げるコアモジュールを余裕を持って送っておけば、遅延はまず無いだろう。


カナダも大丈夫だ。

既にロボットアームの実機が出来ている。

アメリカの全審査も終え、打ち上げスタンバイに入っている。

予備機まである為、計画に遅延は無さそうだ。


問題はフランスである。

スケジュールを合わせての打ち上げは経験が無い。

アメリカの方に合わせて計画を前倒しにすると、アリアンロケットまたはモジュールがその日に間に合わない可能性がある。

ルーズなのではなく、フランスも受注生産と、海外領ギアナまで空輸の手間が発生するからだ。

フランスの打ち上げは、アメリカ&カナダ、日本、日本(2回目)と終わってからのラストである。

日本側都合での打ち上げ延期も有り得る。

アメリカで打ち上げるコアモジュールが失敗したなら、直ぐに計画中止にすれば被害は少ない。

だが、軌道上のトラブルで、当分ドッキング出来ないとなったら?

日本のジェミニ改の二番機が打ち上げられたら、フランスは打ち上げ態勢に入る。

この時点でアクシデントなら、フランスに中止を伝える事が出来るが、打ち上げ態勢にまで入っていたら無償では済まない。

ここまでの経費を伝えて貰い、どの段階で幾らという支払い料を決め、それを保険会社に伝えて見積もりを作って貰う。


ここまでは秋山の部下が動く。

秋山の仕事は、見積もりなり覚書なり批准書なりが出来たら、総理及び文部科学大臣に持っていき、説明をするところからである。

メールで報告すれば良い?

困った事に、彼等は何故か会って説明を聞きたがる。

呼びつけたがるのだ。

ただ、時間を決めてまとまった報告で良しとするのはまともな社会人だと言える。

別な政治家(与党非主流派)が担当の部会に居た時、1時間おき、酷い時は電話切った直後に「言い忘れてたわ、あのね」と電話掛けまくり、秋山を悩ませた事があった。

総理に頼んで止めさせたら、かなり逆恨みしていたが、その後選挙で落選したから、もう害は無いだろう。

まあ、程度の差こそあれ、メール一通で済ますのが嫌で、話したがる、人を呼びつけたがる、それが新幹線のぞみをこだまの速度に落とす行為である事に気づかない「上の立場」の人間は存在するのだ。

秋山はその手の人種対応で、職員に害が及ばないようにするのも仕事の内と思っている。

職員が、電話や呼び出しのウザさに閉口してしまったら、作業効率が落ちるのだから。


説明し、書類を渡したら、後は向こうの秘書なり政務官が処理してくれる。

今回は4ヶ国合同だから、政治家レベルでの署名が必要な項目もある。

秋山はアメリカのカウンターパートに、大統領やNASA長官はどんな感じか聞いてみた。

「長官はメール報告で問題無いが、大統領は普通に人に会ってるよ」

との事。

大統領は「下らん奴とはメールのやり取りだけで良いんじゃないか?」という考えのようだが、疫病蔓延下でも「大統領が国民に会うのを拒否とは一体どういう事か!?」と言う連中が多いのだそうだ。

フランス、カナダもアメリカと似ていて、政治家が国民からの面会要求を拒む事は許さないそうだ。


政治家レベルの担当者は、デジタルデータをアナログ化もする。

印刷し、日米仏で全く同じものが出来たかを確認すると、仰々しい皮のファイル入れに入れて提出する。

そして、先日事故調査報告会をした、宇宙政策と科学教育の部会で説明を行う。

質疑応答し、記者会見も必要に応じて行う。

今回は、失敗に対する時より関心が無いようで、要旨をメールで送れば良いようだった。

それでも、計画開始時に記者会見すると、報道各社にメールを入れて、国内での書類仕事は終わり。


後は、アメリカに送ったコアモジュール及び仕様書が、アメリカの検査を通過したという証明書の写しを貰う事になる。

余裕を持って実機を送ったのはその為。

何度も検疫、航空安全委員会、NASAの基準での審査は経験して来たから、多分大丈夫だと思うが、今回は既にクリアしている宇宙ステーション補給機「こうのとり」改造型ではない、新規設計のモジュールである為、一抹の不安は存在する。


中々連絡が来ないから、不合格、差し戻しの可能性も考える。

この場合、日本にコンテナ船で持ち帰るより、ジェミニ改を作ったB社に常駐している小野職員から話を通して、B社の工場で修正工事をする事になるだろう。

その準備も始めた頃、アメリカの各種機関からオールOKの返事が来た。

これでコアモジュールはアメリカ一任となり、手を離れた。

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