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更なる原因追及へ

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

日本独自宇宙ステーションから地球に成果物を送る回収モジュールの投下実験。

カプセル型よりも、有翼で所定の場所まで誘導可能な方が何かと便利である。

次世代を見据えて有翼機投下実験をしたが、失敗して自爆墜落した。

原因として、主翼両端の上に折れ曲がっているウィングレットの破損と、それによる異常傾斜が通信機器を損傷して制御不能になった、ここまではフライトレコーダー、ボイスレコーダーの記録から推測された。

次の原因追及は、何故ウィングレットが破損したか、である。

設計部門では、この部分に応力が掛かる事は想定していて、耐えるように作ったという。


壊れる原因については、以下のような意見が出された。

1.傷があって、そこから破損した

2.最初から進入時に傾斜があり、右側に余分な力が加わった

3.製造時にミスが有った

4.そもそも、その設計でも足りなかった


「根本的な設計ミスかどうかは、検証可能だろう」

事故調査委員会の議長も任された秋山がそう言うと、一同同意する。

こういう実験の時、予備の機体も含めて5機くらいは作っておく。

地上実験用、実際の試験機、試験機が不調だった場合の予備機、地上検証機、保存機、こんな感じである。

地上実験機と地上検証機の違いは、実験機の方は打ち上げ前に不具合を洗い出すもので、現在はもうくたびれてしまっているが、実証機は事故が起こった後で状況を追試するものであり、こういう「1回でも使用したら次のデータは大きく違いが出る」場合に使用するものだ。

打ち上げの際に選ばれなかった予備機と保存機も合わせて3機で追試を行う。

代わりに資料としての展示保存機には、地上実験機を再塗装や破損箇所の補修をして回す事になった。


4の実験を最初に行う。

高熱と加速度をかけて、それで耐えられるかどうかを調べる。

設計者の言った通り、これはクリアした。

3については、例え同じロットで作られた5機中4機が正常でも、たった1機悪いのに当たったとなれば、ここにある予備機からは調べられない。

ならば2の実験となる。

これは4の実験と同じで、熱と加速度をかけるものだが、その際に機体をやや傾斜させる。

ズレた位置からの逆算で、3度の右傾斜と算出、その値で加速度をかけてみる。

しかし、本来のウィングレットの機能が働いて、水平に機体が戻ってしまう。

また、これくらいの傾斜ではプラズマが通信機器を破壊する程機体後方に回り込まない事も判明。

残る可能性は1である。


1と3は、ともに「設計は問題無いが、強度を弱らせる要因が他に存在する」という説である。

検証するには主翼を回収する必要がある。

この辺、海洋研は一度ロケットの残骸回収を請け負っていた為、知識があった。

ブラックボックスの他にも、見つけた残骸は可能な限り海底より引き上げていた。

発見されていないのは、両翼のウィングレットに、右補助翼、着陸用の脚左側、前部のノーズコーンくらいである。

(あと、搭載されていたパーフェクト・グレードもどこかに消えていた)

左側のウィングレットも、自爆と海に叩きつけられた時の衝撃で失われたのが惜しい。

だが、残骸の主翼、というか胴体そのものでもあるが、そこから気付けたものもあった。

右側がウィングレットよりも内側で折れていたのだ。


「1だな」

「妥当なとこですね」

「設計と工程には問題無かったって事ですな」

ヒューマンエラーでは無さそうで、一安心ではある。

だが、まだヒューマンエラーの可能性が有るとしたら、「のすり」の発進口に設置する際に、宇宙飛行士がどこにぶつけたとか、設置前に傷つけたとか、射出装置に設計ミスがあって傷をつけたとかである。

宇宙飛行士の件は、作業VTRが動画配信用に残っていて、何度も見返したが、傷が出来るような事はしていない。

念の為にアメリカにいる2人の飛行士に聞き取りもしたが、ぶつけても擦ってもいないと言う。

射出装置も、事故時の検証用に同じ物が残っている為、それでテストをしてみた。

ゆっくり押し出し、機体に余計な力をかけていない事が証明された。

残るは外的要因であろう。


一方で音声解析チームがコンピュータに取り込んだデータの中から、奇妙な音を見つけた。

ボイスレコーダーは、本来はコクピットにおけるパイロットや管制官の会話を録音するものだが、今回の使い方は機体に起きた現象を音声で記録するというアナログなものである。

それでも大気圏再突入後46秒での破損が、機体振動から与圧室に音となって伝わっていて、その時間に破損が起きた事の証明を出来た。

それ以前、「のすり」から射出されるマイナス5秒から音声は記録されていて、発信時のコツッという音を最後に1時間以上沈黙が続く。

人間の耳では気付かないような音が、その沈黙の時間にあった。

ノイズかとも思ったが、2機のボイスレコーダーが共に記録していた為、それは否定される。

まだ宇宙空間を地球に向けて下降中だった為、外の音の筈は無い。

つまりは機体に何かが起きて、それが伝わって音となったものだろう。


その音声を分析してみる。

弱くではあるが、机を軽く爪を立てて擦ったような音だった。

宇宙塵(デブリ)か」

おそらくレーダーで分からないくらいの宇宙塵が、主翼を擦ったのだろう。

その塵は尖っていたかもしれない。

機体が衝撃でズレてしまわないくらいの力で、主翼に切れ目を入れた。

そして、ウィングレットよりも内側から主翼が折れてしまい、それが事故に繋がったものと見た。


ビデオ参加していたオブザーバーのアメリカ航空運輸局員も

「妥当な判断だと思う。

 我々もこのデータからはこの結果に辿り着くだろう」

と同意をした。


それでは追試である。

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