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事故原因特定

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

日本独自宇宙ステーションから、成果物を即座に地球に送り届けられるようにする投下カプセルの実験が行われた。

カプセル型はフルコンプリートした為、特に失敗とは位置付けられないが、追加実験した有翼型回収モジュールが大気圏再突入後すぐにコースを外れ、操縦不能となる事故が起きた。

エキストラステージと呼ばれる、おまけの実験だが、失敗を失敗ってだけにはしておかない。

『もしも人が乗っていた実用機だったら?』というレベルで事故調査委員会が設置された。


まずは事故原因の調査からである。

幸いな事に、全長1.5メートル程の、航空機としては玩具サイズの機体ながら、取り付けていたブラックボックスが回収された。

海没していた為、開封とデータ取り出しは製作メーカーの技術者を呼んで、慎重に行なって貰う。

これまた幸いな事に、事故発生から3日、海洋研究所が墜落現場に到着してから2日という短い時間で引き上げられたから、浸水被害は然程無かったようだ。

あとはフライトレコーダーとボイスレコーダーが無事かどうかだ。


どうやら無事だった。

異常だったとはいえ、滑空飛行して低高度まで来ていた事と、市街地対策用の自爆装置が作動した事で、ブラックボックスを最もダメージが残らないよう簡易エアバッグ展開で切り離した為、一般の墜落より遥かに状態が良かった。

話を聞いたオブザーバーのアメリカ運輸局の人間は

「イージーモードだな、いつもそうだと思うなよ」

なんて言っていた。


まずは機体状態をデータとして記録しているフライトレコーダーの解析からである。

予想通りのデータが有った。

機体は大気圏再突入で高熱に包まれる。

この時、地上との直接交信は不可能だが、プラズマに包まれていない上空方向へは電波発信、受信可能である。

レーダーと衛星経由での管制で位置測定をしていた。

それが、再突入後48秒後からコースをズレ始め、61秒後にはモジュールの応答が停止する。

フライトレコーダーのデータでは、46秒に大きな振動が記録されており、そこから傾斜が始まっていた。

そして傾斜した事で、本来熱が来ない筈の場所が高温になり、故障したようで、無事を知らせる報告が途絶えてしまう。

そのまま、予定コースから右の、陸地から遠ざかるように飛行した。

フライトレコーダーも、常に右に傾斜して飛行し続けたと記録していた。


続いてボイスレコーダーである。

本来、無人機にコクピットボイスレコーダーは不要である。

しかし、実際の航空機事故でも、音が原因解明の決め手となる事がある。

真空の宇宙空間では音はしないが、与圧ブロックは空気がある為機体の音を記録出来るし、対流圏に入れば機体外部も含め、様々な音を記録出来る。

切り離し10秒前から10時間連続記録される。

昔のテープ式は、壊れても、使える部分だけでも繋ぎ合わせて再生可能という長所があった。

しかし、やはり玩具サイズの機体に搭載するには大きくなり過ぎる為、ICレコーダー式とした。

これは、記録部分が破損したら全部のデータが消滅するデメリットを持っている。

しかし、何と言っても小型化が可能である為、バックアップ用にもう一系統搭載出来た。

今回、イージーモードなんて皮肉られたように、二系統のボイスレコーダーは無事だった。

再生して人間の耳で聞くのと、コンピュータで人間が聞き取れない音の解析と、二通りの調査をする。


人間の耳では、やはり46秒付近でパキッという音を感じ取った。

この時点で、フライトレコーダーの記録とも合わせ、主翼先端、ウィングレットが破損したものと特定出来る。


有翼回収モジュールは、形状から言えば某ロボットアニメのフライングアーマーと呼ばれるものに近い。

つまり、断熱材兼滑空時の主翼として使うシールドの上に、回収品を搭載する。

要は、デカい鉄板の上に荷物を乗せて、宇宙から地球に落とすものなのだ。

その為、垂直尾翼が無い。

それでは飛行が安定しない為、主翼両端を立ち上げたウィングレット方式を採っていて、これを垂直尾翼の代わりで機体横転防止に利用し、補助翼と合わせて操縦にも利用する。


だが、ここが強度的なネックになるという予想はされていた。

屈曲部こそ力が集中し、破損の原因となる。

スペースシャトル・コロンビアの事故も、主翼付け根部分の損傷が原因であった。

だからこそ

「十分に強度計算した。

 大気圏再突入程度で壊れる作りではない」

と開発した有翼機部門は主張する。

それは理解出来る。

最初から分かっているのに、対策しない筈が無い。

だが、事実として大気圏再突入中に右のウィングレットが破損して消滅し、機体のバランスが変わり、翼面積が大きい左翼が上がる右傾斜の状態となった。

そして本来回り込む筈が無いプラズマにより、通信アンテナを含む部分が破損し、外部からのコントロール不能となった。

あとは機体独立の姿勢安定機能が働き、補助翼を上手く使って低空まで墜落せずに飛行したが、衛星との交信手段を失い、位置までは測定出来なかったら。

それで所定の時間までに誘導情報が取得出来ず、現在位置不明のまま滑空を続け、仮に下に人間の居住地が在った場合に被害をもたらす可能性のある場合の自爆装置が一定高度になったから作動した。

これが墜落の原因であろう。


次の問題は、どうしてウィングレットが破損したか、である。

そのヒントは、ボイスレコーダーが沈黙している射出から大気圏再突入までの時間に潜んでいた。

コンピュータの解析が、人間の耳だと聞き逃す微かな音を見つけ出していた。

「メーデー 航空機事故の真実と真相」を見て、この章を思いついたと思った方、半分正解です。

見て思いついたのではなく、最初からいつかは事故調査委員会ネタはどこかで使おうと思ってました。

作品とは言え、人を殺さずに使えて良かったです。

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[一言] フィクションかよ騙された!
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