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生命散って

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

3日連続投下実験成功は、好天で日本上空の気流が安定していた事が、ある程度保証されたのかもしれない。

4日目は一転し、低気圧が日本上空を覆ってしまった。

まるで「見たかった降下作戦ごっこが終わったから、もうしなくて良いよ」なんて言われているように、翌5日目も低気圧が日本上空に居座った。

今回の飛行は、14日間の日程の内、アメリカ人飛行士の訓練に7日が充てられていた為、日本側が実験用に管制するのは7日間のみ。

既に5日過ぎ、本来の投下実験スケジュールは終了、予備日に入っていた。

だが、天気予報は6日目も危うく、7日目は西日本の鳥取砂丘か桂浜は何とかなりそう、というものだった。


軌道上の谷元飛行士らは、投下実験中止の日も、別のスケジュールに従い、他国から預かったミニ衛星の放出や、噴火で面積拡大中の島の測量支援(低軌道を回る為、各種搭載カメラでデータを取ったり、GPSの4点目以降となり都市上空でない島の位置計測の補正に役立つ)等もこなしていた。

何度も言うが、いくら総理案件で湯水のように予算を使えても、投下実験しか予定が無い、というような贅沢な飛行計画は立てられない。

宇宙に行くからには、可能な限り実験や訓練計画を詰め込む。

貧乏性でないアメリカとて、折角宇宙に行くならと、一回の有人飛行時にやれる計画は複数入れる。

限られた人材が、限られた機会に、限られた日数だけ宇宙に居るのだから、各国で宇宙に行く船に仕事を頼む。


大気の状態が悪いと地球に下ろせないのは、実験用カプセルだけでは無い。

当の有人機の帰還モジュールすら危ないので、着陸/着水予定地点の天候次第で帰還を延期する。

今回の飛行計画にも帰還時の予備日は設けられている。

その日は、荷物は帰還モジュールに詰め込んで帰るだけにしているので、実験も訓練も無く、宇宙飛行士たちはリラックスした日を過ごす。

という訳で、投下実験に使える日程は1日のみ、それでいて投下カプセルは2機、それと有翼型回収機が残されていた。



JAXAでは、本来の投下スケジュールが終わる5日目に、会議が開かれて残モジュールの投下について話し合われていた。

この時、6日目も雨だけでなく、乱気流が予報されていた為、7日目に何をするかが検討課題であった。

もしも7日目もダメなら、仕方ないから廃棄するか、次の飛行用に軌道上に「のすり」のみ残し、別のジェミニ改で実験再開するか、となる。

7日目で投下可能なら、何をどうするか?

軌道の関係で西日本がダメな場合は投下機会は1回、東日本がダメな場合は投下機会は2回となる。

どれを優先して投下するか。

必要な計測機器を搭載した実験は、既に終わっている。

残り3機は、「こんな感じに宇宙から物を持ち帰れますよ」というプレゼンテーション用に過ぎない。

その内、最も注目を浴びた投下物は既に着陸成功し、オタク界隈では大いに盛り上がった。

プレゼンテーションも成功した以上、残り2機とエクストラステージの有翼型は、不用と言えば不用である。

だが、折角宇宙に居るのだ、使える機会は全部使おう。


「カプセルはもう十分でしょう。

 エクストラステージの方をやりませんか?

 有翼機部門も関係してますし」

その意見が通り、最初のチャンスは有翼機を投下する事に決まる。

残り1回は、本来別々に投下する予定だった「宇宙で煎れたコーヒーポット」と「鬼っ娘のフィギュア」を一緒に入れて投下、ひっそり回収する事になった。

使わなかったカプセルは

「船内容積や許容重量で計算しましたが、1機でも2機でも大丈夫ですね」

という事でジェミニ改で持ち帰る事に決まった。


かくして最終日の予定が宇宙船に伝えられる。

「自分が苦労して作ったこのマシーンは、無駄にはならないのだな!」

デカール貼りに苦戦しまくったジェニングス中尉が、宇宙に居ながら天を仰いだ。

なお、機体の回転的に、その時彼の頭上方向には地球があったのだが。


ジェニングス中尉が不器用な手で組み立て、デカールを貼ったパーフェクトグレードのプラモデルは、有翼機の中に積み込まれ、封印された。

そして専用のハッチから船外に移動し、切り離しタイミングを待つ。


「俺の生命をかけたマシーンが、地球に向かう」

一々大袈裟である。


7日目、投下機会は2回と判明。

最初の機会で有翼型が投下される。


「Go!

 Lift off!」

中尉が煩い。


宇宙船は90分で地球を一周する。

次の投下タイミングは大体90分後に訪れる。

宇宙船より速度が遅いと、物体は地球に引かれて落ちていく。

あまり急速に落ちると、角度が深くなり、大気圏で燃え尽きるという事になる。

有翼型はじっくりと降りていく。


悲報がもたらされたのは、最後の投下機会でカプセル型が無事切り離され、さらに地球を一周した後だった。

大気圏突入までは確認されていた有翼型からの信号が途絶えた、という一報である。

そして、予定時刻になってもチェックポイントを通過していないという報告。

レーダーは、チェックポイント通過時刻に、かなり離れた位置を曲がりながら高速飛行する物体を捕捉。

やがて、減速しないまま海面に近づいた為、地上に被害を与えないよう自身が危険と判断した際に発動される装置、自爆装置が作動したと見られる。

航空管制上の意味のUFO(定義されていない飛行体)は消滅した。


数日をかけて生命を注いで作った機体が失われたと聞いたジェニングス中尉は、アメリカ白人なのに、某ボクシング漫画の日本人のように、真っ白に燃え尽きていた……。

ゼータガ◯ダム第49話と同じサブタイトルですが、わざとです。

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