天から来るもの
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
JAXAは何も間違った事はしていない。
まず一発目はデータを取り、堅実な方法で実行する。
成功したおまけで、余事を行う。
なのに、JAXAには苦情が殺到した。
アレを投下するのは嘘だったのか?
デマを流したのか?
本当は何時やるのか?
Webサイトに説明は書いてあるのにこれだ。
まあ、電話かけて来る時点でWeb等見てないのだろう。
逆にメールやSNSにはパラシュート展開の瞬間とか、着地の瞬間とか、良い写真が貼られて送られて来る。
「秋山君、皆が期待してるしさ、何とかならない?」
総理までそう言ってくる。
「まあ、確かに最初で成功したので、次からの順番は弄れますけどね」
「じゃあ、やりましょうよ」
まさか実験の順番にまで口を出されるとは想定外だった。
上空のコンディションもあるから、何時出来るか分からないのに、メインイベントとして期待されてしまった。
会議室に関係スタッフを呼んで、実験順番について相談していたら、また電話がかかって来る。
「◯◯さん、知ってる?」
「総理の口からその名前出て来るとは驚きです。
知ってますよ。
声優さんですよね」
「僕ね、知り合いなんでね。
広報用の音声頼んだら、やってくれるってさ。
明日昼までに音声ファイル来るから使って下さい」
会議室が静かになる。
スタッフが言う。
「なんか、我々より積極的っすね」
「フィギュア落とすとか、プラモ落とすとか、サービスでしか無いのに」
「まあ、世の中サービスの方が人気あるからねえ」
「動画撮られるのは、高度1000くらいでパラシュートが見えてから、着陸して蓋を開けるまで10分程度。
その為の我々はこれから24時間くらいで準備する訳だね」
次の日、例の物は投下されない。
第二弾もデジカメデータといった、失敗して叩きつけられても大丈夫な物が詰められたもので実験する。
しかし、その前に動画サイトやSNSにアップされた告知は
「公式が病気!」
と大層拡散される。
本物のそのアニメ登場声優が
『アースノイドたちよ!
明日、我々の尖兵が降下する!
心せよ! そして目撃せよ!』
と煽動る。
地上は変な盛り上がりとなった。
同時に、どの作戦かのネタバレともなった。
そんな事を軌道上に居る2人の飛行士は知らない。
片方は、説明書通りに貼った筈なのに、余ったデカールに悩んでいる。
もう一方はカプセルにデジカメなりビデオなりを詰め込んでいる。
「船長、聞いていいかい?」
「何ですか?」
「角生えてる一機は何ですか?」
「隊長機だよ」
「ああ〜、成る程。
そいつだけ型が違いますね」
「中尉、このカートゥーンは観たこと無い?」
「無いですよ」
同じシリーズで、ずっと後の作品は見た事があるそうだ。
と言うより、アメリカではそっちがファーストで、日本でファーストと呼ばれるようになった作品の方が後発。
画のクオリティの低さから低視聴率だった。
16年の差である。
この日投下された第二弾の方は、注目する者はほとんど居ない、純粋に宇宙技術が好きな者だけが撮影となった。
翌日、ついに予告されたプラモ投下日を迎えた。
地上では……
「日本海側には筋状の雲が掛かっています、総帥」
「誰が総帥ですか?
では桂浜か、浜松になりますね。
そちらは?」
「両方晴れです、公王」
「やめなさい、そのネタ。
後は現地スタッフからのバルーン観測情報ですが」
「桂浜の現地スパイ107号からです」
「やめなさい」
「ちょっと海上で気流が悪いっぽいです、大佐」
「……浜松は?」
(秋山さん、大佐はOKなのか?)
(実は世代ですから)
(女性スタッフに「兄さん」て呼ばせましょうか?)
(ダメダメ、女性スタッフはイノベイターとかの世代だから、通じません)
「えー、浜松はどうなんですか?」
「あ、すみません。
東海沖は気流も安定してます、大佐」
「えー、恥ずかしいのでその辺で。
では浜松、中田島砂丘に」
「オタクさんたち喜びますね」
「なんで?」
「工場、そっちにあるんですよ」
「ほほお、それは偶然ですね。
じゃあ、軌道上の連中にも連絡して下さい」
そして、軌道上の谷元飛行士から、カプセルが無事発射されたと連絡が入る。
広報では預かっていた音声ファイルがアップされる。
『諸君! 鷲は舞い降りた!
浜松は間もなく勢力圏に入る』
何となく静岡になるのではないかという噂が飛んでいて、中々の人が押し寄せていた。
海側高空を狙う白レンズ、三脚に付けられたロングレンズ。
巨大双眼鏡で観測している者もいる。
「来た!」
シャッター音が響く。
やがてカプセルが着地する。
そして蓋開放。
「来た〜!!」
「3機一組、一機は隊長機だ!」
「一個小隊だ!」
この日、SNSやネット掲示板では話題沸騰していた。
何よりも
「公式が病気!」
「ここまでやるか!」
と広報が褒められまくっていた。
「やりますね!」
総理からのお褒めは一言だった。
「疲れたな……」
「ですね……」
「グライダー型の方は……情報漏れてませんよね?」
「あれこそ、日程次第じゃ実行しないものですから、エクストラステージは注目されてません」
「グライダーの中に、重り代わりでアイツを積んでるとか知られてませんからね」
「次は落ち着いて実験しような」
「悪ノリすると大変っすね」
公式が病気と称された運営スタッフは燃え尽きていた。
ゼータガ◯ダム第45話と同じサブタイトルですが、わざとです。