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アメリカ空軍兵士にして宇宙飛行士訓練生最大の試練

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

ジェニングス中尉は目の前の光景に身震いした。

船長キャプテン、本当にこれを自分がしなければならないのですか?」

谷元船長は冷淡だった。

「私がやらせる訳じゃない。

 誤解しないように。

 空軍とNASAがプログラムに組み込んだのだ」

「Oh my GOD」

中尉は首を振る。

目の前にはパーツ数約1,000、完成後には完全変形もする、パーフェクトグレードと呼ばれるプラモデルである。

これを日本の実験、有翼シールドに乗せて地上投下する日迄に完成させねばならない。


「何故、自分がこんな作業をしなければならないのか!

 船長キャプテン、貴方は知ってますか?」

「知ってますよ」

「何故ですか?」

「君が不器用だから、だよ。

 克服しろ、だって。

 こういうのが上手かったら、上も面白がって任務に入れなかったろうね」

「なんてこった!」

「さあ、作ろうか。

 私は撮影しなければならないから、手伝えないよ」

「生配信はしませんよね?」

「出来ませんねえ。

 放送事故になってしまいます」

「ものは相談ですが、手伝ってくれませんか?

 代わりに動画編集付き合います」

「ははあ〜、編集で繋いで上手く作った体にしようと言うんですね。

 却下です。

 だって、私だって4機分作ってるんですよ」

そうは言うが、谷元飛行士が作っているのはリアル・グレードと言われるタイプで、パーツ数は約156、4機分でも624個程である。

ジェニングス中尉は、馬鹿では無いが、ランナーについてるパーツが3個以上だと「いっぱい」としか認識出来ず、自分の方がイジメに近い難易度のプラモデルを作らされているとは気づかない。

何となく、谷元飛行士の方が一体辺りのパーツ数が少ないのは分かるが、4機分だと言われると

(それは大変だ)

と納得してしまう。


かくして無趣味な軍人は、慣れない手でニッパーを持ちながら、説明書を読み、プラモデルを作り始めた。

無重力環境下で。


(目が疲れる。

 気持ち悪い。

 乗り物酔いしてる感覚だ……)


谷元船長は黙って撮影している。

「船長、気まずいので、何か喋ってくれません?」

「手伝ってとは言わない、せめて黙っててくれ、

 って言ってたよね?」

「……こんなプラモデル作ってる動画、人気有るんですか?」

「結構視聴数有るみたいですよ」

「マジですか?

 でも、私みたいなのが作っていても、詰まらないでしょう?」

『安心しろ。

 そうやってボヤいているのが、限りなく楽しいぞ』

ヒューストンの管制センターからツッコミが入る。

「管制官、聞いてるんですか?」

『だから、それを作るのも任務なんですよ、どうぞ』

「悪魔に食わせてしまえ!」

『いいよ、いいよ。

 そうやってドンドンボヤいていって! どうぞ』

「なんてこった!」


集中力が続くのは2〜3時間であろう。

中尉はプラモを作る事だけが任務ではない。

翌日の別の任務の障りとなってもいけない。

それにビデオテープの撮影時間にも限りがある。


「今日はここまでにしましょう」

「いいんですか?」

「明日もあるからね」

「……辛い」

「いや、私もまさか、プラモデル製作のマネジメントをさせられるとは思ってなかった」

「じゃあ、止めませんか?」

「貴方は任務から敵前逃亡するのですか?」

「しません」

「じゃあ、明日続きをしますから」

中尉はガックリと落ち込んでいた。



翌日、ロボットアームの操作や船外活動服の着用等の訓練を行う。

NASAから予告で

「船外活動で故障箇所を交換する予定だから。

 明日、宇宙塵スペースデブリが衝突し、破損する予定。

 何時に衝突するかは、サプライズだから教えられない。

 船長は引き続き手伝わないように」

と指令が来ている。


普通の訓練を終え、食事をし、これも任務でシャワーを浴びた後は自由時間になる。

しかし、自由時間とされる中の2時間は、プラモデル製作に当てられている。


この日も彼はぶつぶつ文句を言いながら作っていた。

こういうのは、編集でツッコミ文字を加えると、面白可笑しくなるのだ。

その次の日も、似たような感じだったが、1時間程すると反応が変わって来た。


こういうプラモデルは、説明書通りに作ると、最初は球状関節にゴムパッキングを着けたり、フレームを嵌め込んだりした後、完成パーツ外部にアーマーを嵌め込むような地道な作業となる。

ところが、一通りそれらが組み上がると、部品部品を合体させる。

そうなると、手や足が出来るのだ。

つまらない作業の結果、手足が形になると、途端に嬉しくなるのだ。

早く全部を嵌め込んで、形にしたくなる。


スケジュール管理で終わらせると、不満そうな表情になっていた。


(甘いな)

谷元飛行士はそう思う。

このモデルは完全変形タイプなのだ。

パーツが出来て、人型になっても、そこから飛行機型に変形しなければ作り直しである。

(まあ、大丈夫そうだな)

パッキングとか、似たパーツを間違って入れて、最終嵌め込みが上手くいかないとか、前後間違ってしまうとか、そんなのはやってないように見える。


(まあ、完成するだろう。

 そして変形するのを見たら、歓喜するだろうな)


その予想通り、翌日は全身が組み上がり、人型になった。

それだけでも大喜びしていたが、飛行機型に変形させてみたところ

「Oh My GOOOOOD!!!!」

数日前と同じテンションで歓喜大爆発していた。


だが、谷元船長は冷静に中尉の肩を叩き、こう言う。

「まだ終わりじゃない」


そこにはまだ貼られていないデカールが在った。

「Ohhhhh Myyyyyy Gooooooood!!!!」

絶叫が木霊した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 現代感がある。 [気になる点] どこに着地するのだろうか。。 [一言] 確かに不器用なアメリカ人がプラモを悪戦苦闘しながら作り完成したら歓喜して変形させて二度喜びデーカル張り忘れて落ち込む…
[気になる点] ジェニングス中尉がキリスト教徒だとするとGodsと複数形にはしないと思います。彼らの教義では神は唯一絶対ですから。(イスラムでもユダヤでも同様) ワザとこのように書かれていたら申し訳あ…
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