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アメリカのトラブルテストはしつこい

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

NASAとアメリカ空軍関係者はやり難くて仕方がない。

谷元飛行士はジェミニ改とアメリカとのデータリンクを回復させる際に

「日本に管制が移管される5日後まで、またアメリカが管制回復する期間2日前には、また同じようなダミープログラムが転送されると考えて良いか?」

と聞いて来たのだ。

地上スタッフは苦笑いしながら

「サプライズが有るとバレてしまったら効果は半減するが、それでも疑似異常事態プレゼントは贈らざるを得ない。

 船長は生徒に出す宿題を手伝わないよう頼む」

と伝えた。

仮に「もうやらない」と言ったら、それでも疑似プログラムを仕込んだとバレた時、谷元船長はデータリンクを切断し、独自の判断で動くだろう。

それよりは信頼関係を維持し、「またやるから、ネタバラシしないでね」と頼んだ方が良い。


ジェニングス中尉にしたら、あまり嬉しくは無い。

サプライズではないが、確実に地上の上司はトラブルを仕込んで来るから気を抜けない。

そして船長は知った上で手伝ってくれない。

谷元飛行士はスパルタ教官ではないが、甘やかすタイプでも無い。

教えるなと言われたからには、徹底して何も教えてくれないだろう。

その上、彼が用意した訓練プログラムも変更する気は無いらしい。

早く日本が投下実験をする期間に入ってくれないだろうか。


早速電力低下の警報アラートが鳴る。

マニュアルを見ながら、各種チェックを行う。

万が一、本当の事故という可能性もある。

だが船長はどこから出したのか、ココアを飲んでやがる。

「万が一本物の事故で、君が処理出来ずに死に至るなら、仕方ないから付き合うよ。

 手伝うなって言われた以上、君に私の命は預けたから」

と言ってプラモデルを作り始めた。

何でもアレをカプセルに入れて投下するようだ。

何機か作るのだが、谷元飛行士はジェニングス中尉の為に一番面倒臭い奴を残すようだ。

「最初から着色されてるから良いよねえ。

 昔のだと、プラカラーがトルエン入ってて、ラリるんだよね。

 特にこんな密閉空間だとねえ」

船長キャプテン、手伝ってとは言いませんから、せめて黙っててくれません?」

 なお、谷元飛行士は先に裏技を見せた為、その方法は使用禁止となった。

 谷元はコンピュータをリセットかけて、立ち上がるリブート情報を見ながら、おかしなプログラムが有ったら見つけてしまうのだ。

「それ禁止。

 あの再起動の表示から見つけるのは超人技だが、最初から何のトラブル仕込んだか答え知ってからトラブルシューティングしても意味ないから」

地上スタッフは、裏技のリブートが掛けられていないかをチェックしている。

(谷元飛行士は目でリブート情報を追っているだけでなく、モバイル端末の動画録画機能をも使っている為、何度でも再確認出来る。

 訓練でなければ有用な方法ではある)

ジェニングス中尉は結局、テスターを使って実際には電圧が下がっていない事を確認し、メーターが壊れているという設定である事を報告し、そちらの回路を切って、予備のメーターに切り替えた。

 本来なら船長が下す、その対応で任務ミッション続行可能かの判断も求められた。


 ヘトヘトになりながら、トラブルシューティングが終わったと思ったら、谷元船長が聞く。

「1時間休む?

 それとも2時間にする?」

「何が有るんですか?」

「分離してランデブー飛行に移り、2時間50cmの距離を維持した飛行後、再ドッキング。

 本来の訓練スケジュール」

「……肉体的にはOKですが、精神的な休養に2時間下さい。

 やらなくて良い訓練追加のせいで、少々苛立っていますので」

「じゃ、それでいきましょう」


 中尉が苛立っていたのは初日だけだった。

 打ち上げ直後の興奮もあった。

 無重力で頭に血が上り易いのもあったかもしれない。

 2日目には「パイロットになる時のテストも、わざと不可能な試練出されたよな」と太々しいプロの軍人モードに入った。

 この辺、アメリカ人は切り替えも早いし、そうなると冷静で的確な判断も出来るようになる。

 

 任務を淡々とこなせるようになった中尉は、谷元船長に聞いてみたい事があった。

 どうして何度もリハーサルをしたのか。

 どうして疑似トラブルを事前に発見出来たのか。

 どうしてコンピュータリセットなんて怖い真似を落ち着いて出来たのか。


谷元飛行士は言う

「私は元々F-4ファントムに乗っていてね……」

中尉は驚く。

アメリカでは大分前に退役した戦闘機だ。

F-15イーグル戦闘機を200機以上持っている日本が、つい最近までF-4EJ改というファントム戦闘機を飛ばしていたのはどういう訳だ?

予算の関係、用途の関係だったのだが、そんな基礎設計の古い機体の電子戦装備を新しくした代物に乗っていただけに、機体の声を聞くのは当たり前になっていたという。

計器の不調やランプが切れている事に、飛ばす前にいち早く気付く。

何度もマニュアルを繰り返し読み、マニュアル通りの操作なのに異常がある場合、すぐに整備員を呼んで直す。

いくら慣れた操作でも、昨日動いていても、今日同じとは限らない。

そんな訳で、細心さ、疑り深さを身につけてしまったという。

そしてファントム退役で除隊し、宇宙飛行士へ。

(面白いキャリアの人とチームになったな)

中尉はこの訓練を面白く感じるようになった。

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