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異常事態発生!……の筈が

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

思えば、世界初の軌道上でのドッキングをした機体はジェミニ8号である。

その時、世界初のドッキングと同時に事故が発生した。

アメリカは日本が買った「ジェミニ改」の使用権の一部を持っている為、訓練用に宇宙飛行士を乗せられる。

今回、訓練目的で敢えてジェミニ8号と同じような事故をシミュレート出来るプログラムが組み込まれていた。

この事はアメリカの担当官小野から日本の秋山までは知らされていたが、同乗する谷元飛行士には教えらていない。

秋山は、谷元が無事船長として訓練生を導いてくれる事を祈る。


アメリカの宇宙飛行士の人数は、日本人飛行士に比べて桁が一個違う。

昔は豪傑タイプが多かった。

違ったのは、そのジェミニ8号船長で、後にアポロ11号の船長も務めた男で、彼はテストパイロットでもあり、エンジニアとしての視点も持っていた。

やがてアメリカの飛行士たちは一般人寄りとなり、淡々と任務をこなすタイプが増える。

今回、空軍としてはしっかりした冷静なタイプを育てたい。

それがわざと事故を装うプログラムを仕込んだ理由であった。


空軍の思惑は外れる。

鬼教官タイプでは無いが、後輩を教育する時は極めてねちっこい谷元飛行士は、打ち上げ直後からプログラムチェックを繰り返させる。

これは旅客機でも離陸前に、一回マニュアルを見ながらリハーサルを行うように、普通の事である。

谷元飛行士は、ドッキング実行30分前と10分前にもリハーサルをした。

自分が操縦する場合と、補助をする場合とで役割を入れ替えての訓練である。

(もう10分前なんだから、後はリラックスして本番に備えれば良いのに)

と訓練生のジェニングス中尉は思っていたが、谷元飛行士は警戒アラートを出す。

「これ、何だ?

 何でドッキング直後に姿勢制御エンジンが5秒自動噴射するプログラムが入ってるんだ?」

それはドッキング20分前にヒューストンから送信されたプログラムであった。

アメリカの管制センターとデータリンクさせていたのだが、その時に入ったのか?


「ハッキングされている!

 このままドッキングは危険だ!」

谷元が出した判断がそれで、ジェニングス中尉も話を聞いて青ざめる。


「ヒューストン、こちらジェミニ改。

 管制センターがハッキングされ、異常なプログラムが送られた可能性がある。

 任務ミッションを緊急中止し、地球帰還を提案する。

 地球帰還プログラムにもウィルスがインストールされた可能性が有る為、地上からも調査して欲しい」


聞いた地上スタッフは頭を抱えた。

(なんで気づいたんだよ!!)

谷元飛行士は、NASAのメインフレームにコンピューターウィルスが入り、それが軌道上の宇宙船を狂わそうとしていると考えている。

実際はわざとやった事だから、ハッキングなんかされていない。

それを伝えるのもどうかと思うので、NASAは凄く強引ながら

「こちらのセキュリティは万全だ。

 スケジュール通り任務ミッション遂行せよ。

 該当異常プログラムは、そちらの判断で削除せよ」

と司令した。


(おかしい、何か有るな?)

この辺空気を読まない谷元飛行士は

「データリンク切断、コンピュータリセット」

を命じる。

「待ってくれ、それをやると再起動からドッキングまで間が無い。

 ドッキング軌道から外れるには、プログラムは起動させたままでないとならない。

 リセットするならせめて軌道を外れてからにしよう」

とジェニングス中尉が言うが、谷元はドッキングは行うと言う。

「コンピュータリセットだけでなく、データリンクを切ったら、位置情報にズレが出る」

「だから目が有るんでしょ」

「まさか、マニュアルでドッキングするのか?」

「ダメか?

 どの道、ドッキングは5回する予定で、マニュアルでのドッキングも計画に入ってるから、やる事になるぞ」

「そうだが……」

「自信が無いなら私がやる」

「いや、訓練を受けるのは自分だ。

 船長にはサポートをお願いしたい」

この辺、空軍パイロットの誇りがあった。


そしてジェミニ改はデータリンクを切断し、不穏なプログラムを削除した後にコンピュータをリセットして、マニュアル操縦に切り替えてドッキングを行った。


地上スタッフはもう、全部打ち明ける事にした。

データリンクを切られた以上、計器に誤数字を表示させて燃料漏れを錯覚させる事も出来ない。


「ジェミニ改、こちらヒューストン。

 音声だけで良いから、こちらの言う事を聞いて欲しい。

 その上で納得出来たら、データリンクを再開して欲しい」

そう呼び掛けた。

「こちらジェミニ改。

 了解した」

独自に最善の行動に出たジェミニ改だけに、地上の指令を無視する可能性もあった。

返事があり、スタッフは肩を撫で下ろす。


「不審なプログラムを仕込んだのは我々だ。

 ドッキングと同時に作動し、自己デリートされるものだった。

 つまり、君たちにわざと非常事態を経験させるプログラムだったのだ」


シナリオでは、ドッキング直後に姿勢制御エンジンが異常噴射っぽい挙動をする。

不審な回転に計器チェックを行う。

すると燃料計が徐々に減っているように見える。

燃料漏れと判断出来る。

原因を究明したなら、回転を止めるようにマニュアルに切り替えて、逆噴射を行う。

そして(偽の)燃料残量から、地球帰還に必要な量が有るかを計算し、そこで任務中断を判断したなら合格、訓練用プログラムだった事をバラす予定だった。


「まさか、発動前に異常を察知されるとは計算外だった」

そして質問される。

「どうして強引にドッキングしに行ったんだい?」

谷元の答えは

「地上からの指示が不可解だった。

 強引に任務続行を言ってきた。

 だから何かが有ると思い、データリンクを切り、マニュアル操縦だけのセーフティモードでコンピュータリセットしたら、『のすり』にドッキングして乗り移り、そちらのコンピュータで『ジェミニ改』を調べるつもりだった」

である。


NASAと空軍の関係者は降参だ、と言う。

そして谷元飛行士には「危機事前回避者フラグブレイカー」のニックネームが付けられた。

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