受け入れる側の話
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
宇宙からの投下物は、なるべく「着水」はさせたくない。
海に落とすと、沈む可能性が出る。
沈むと引き上げるのは大変だ。
それに折角内部が安定するように投下したのに、波に揺られると壊れる可能性がある。
なるべく「着陸」させるつもりだが、それでも問題はある。
都市の上空を通過させて着陸というコースは危険。
海からアプローチして人の居ない場所に着陸させる。
北海道は面積からいって良いように思えるが、原生林だと回収が面倒である。
そこで
・鳥取砂丘
・中田島砂丘(静岡)
・庄内砂丘(山形)
を候補地とした。
更に桂浜(高知)も候補地として、その4ヶ所のいずれか、危険な軌道だと直前の海に落として都市には到達させないようにする。
候補地を決めるだけでは終わらない。
次の仕事は県庁巡り、市役所巡りである。
歓迎される場合もあれば、「余計な仕事増やしやがって」と無言の圧迫を受ける場合もある。
観光に使っている場合もあり、その時は立ち入り禁止としなければならない。
一方で、パラシュートが降りて来るのを取材して貰ったりもする。
答え切れない質問もある。
「うちは何番目の順位なのですか?」
宇宙船は東向きに打ち上げ、西から東に移動する。
従って一番西で最大面積の鳥取砂丘が第一候補となる。
そういう風に西から順では有るのだが、その時の上空の気流で実際に投下する場所は変わる。
「本当に人が住んでいる場所には落ちないのですか?」
落とさない。
だが
「大体どれくらいの範囲内に着陸しますか?」
これは数キロと答えると怒られる。
砂丘は沿岸方向には長いが、幅で見ると数キロって程も無いのだ。
そこで
「進行方向には数キロですが、横にはズレません。
幅は300メートルくらいの範囲です」
と答える。
そして、言ったからにはそれを目指す。
警察と消防署、そして管区の海上保安庁にも挨拶に行かねばならない。
上で保証した事と矛盾するが、万が一の時はお世話になるから、予め挨拶しておく。
こんな感じで動いている内に、話題が広まって、問い合わせが増え始めた。
「うちの県には何が降りて来ますか?」
最初に「投下実験で何を試験的に搭載しましょうか?」と募集した為、応募した人は「プラモ」や「フィギュア」と自分が書いたから覚えている。
どうも、それが採用されたっぽいと広まっていた。
……政治家がSNSで
「さて、オペレーション◯◯は採用されるかな?」
とか書いた為、そうなんじゃないか?と噂された。
そうなると、オリーブ色でモノアイのものか、白い主人公機かは知らないが、何時何処に降りて来るかが重要となる。
アニメファン、モデラーが問い合わせる。
実は、まだ決まっていない。
推した政治家同士でも半分喧嘩になっている。
「初代の良さが分からんミーハーめ!」
「あの軍はナチスドイツがモデルだろ?
表立って使ったら面倒な事にならんか?」
変なとこで揉め始めたから、あとは宇宙飛行士に任せる事とした。
そして、どう頑張っても打ち上げ後の気象までは予想出来ないから、予めどこに絶対下ろすかは決められない、と何度も何度も何度も説明する。
結局、観測ツアーは企画段階で潰れ、個人個人で候補地のどこかを選択する事になった。
プラモデル着陸よりも面倒な問題も発生した。
有翼モジュールの自動操縦での回収、この飛行経路が在日米軍の管制空域を掠めてしまう。
いや、気象次第では確かに入ってしまう。
秋山は米軍基地に説明に行く。
意外に気さくで、実験には協力してくれると言う。
協力してくれるのと、その為に書類を書かねばならないのは別問題である。
管制空域に関しては日本の担当役所にも書類を出さなければならない。
(そういえば、もしも日本版スペースシャトルが出来たなら、発着基地は是非にうちに!とパラオ共和国が言って来てたな。
こうも空域の使用で難が有るなら、低緯度でもあるし、あっち使うのもアリだな)
カプセル落とす以上に、滑空機を飛ばすのは面倒臭いようだ。
そんな思いを秘めつつも、米軍基地に顔を出した秋山は、空軍の偉い方の将校から話が有る、と呼ばれる。
「まあ、椅子に座って下さい」
そう言ってコーヒーが出されるから、深刻な話では無さそうだ。
「聞いた所によると、実験で投下するカプセルには機動兵器、あのアニメーションの戦闘ロボットのミニチュアモデルが入るのだろう?」
「は、はい……」
「それはモノアイの方かね?
それとも白い主人公機の方かね?
一体どっちなんだい?」
お・ま・え・ら・も・か!!
「まだ決めていませんが、それが何か問題ですか?」
「大問題だ!」
「は?」
「大気圏に突入して来る物体は、全て監視している。
我々はサンタクロースすら追尾しているのだ」
「はい、それは知ってます」
「だから、突入カプセルの中身がモノアイロボットならば、合衆国なあの国を味方だと認識していないから、敵の符号を割り振る。
主人公機なら同盟軍の符号を……」
「あの、ちょっと良いですか?」
「何ですか?」
「オペレーション何ちゃらで地球降下して来た時の彼等はテロリストでしたよ。
どっちにしても敵って事で良くないですか?」
将校は残念そうにため息をついた。
「NORADの連中の熱い議論も結論が出てしまったか……」
JAXAから離れた所で、どうでも良い事が真剣に議論されていたようだった。
基本ジョーク回です。