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ドッキングと言えるかどうか?

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「イプシロンSは直径2.6mだけど輸送機はサイズどうなります?」

秋山が聞いたのは、ドッキング方式がどうなるかを確認したかったからである。

1.1m四方サイズのアメリカ型だと、ロボットアームでの把持キャプチャーによる取り付けとなる。

直径90cm円形のロシア型だと、自動ドッキングもあり得る。

ロケットの直径からフェアリング分を引いたのが輸送機のサイズとなる。

さらに輸送機の外壁分を引いたのが、与圧部のサイズになる。


しかし、イプシロン部門からの回答は意外だった。

「直径は1.5mくらいですかね」

「それじゃ、ロシア式ドッキングでギリギリかな」

「秋山さん」

「はい」

「ドッキングって、どういう事です?

 我々は有人機は作りませんよ」

「知ってるよ。

 でもドッキングしないと、中の物を移動出来ませんよね?」

「え? 回収しないんですか?」

「回収って?」

「宇宙ステーション内部に入れて、与圧室の中で蓋を開けて取り出して貰うつもりでしたが」


有人宇宙飛行部門の秋山は、輸送機とはドッキングして、中に人が入って運び出すという先入観があった。

一方、イプシロン部門というか小型衛星を見て来た人からすれば、ドッキング装置とか人が入れる与圧部等という重量物を付ける気はさらさら無い。

「こうのとり」だけでなく、アメリカの無人輸送機でも使われている、把持キャプチャー位置に誘導する方式を使うだけで、輸送機の機能はいっぱいいっぱいだ。

だから、最適な位置まで輸送機を持って行って停止させるから、後は回収して、室内で開けてね、という意識であった。


扱ってる機体のサイズで、意識のズレが生じていたのだ。


早い内に意識の擦り合わせをしていて良かった。

両者とも自分が思った方式では使えないと理解したのだ。


「回収は、1.5mサイズの物なんて出来ない。

 取り込み口が無いし、置き場も無い。

 研究用ラックを置いたら、案外船内は狭い」

「ドッキング装置と与圧部を作るとなれば、イプシロンで打ち上げられる重量を超えるかもしれない」

「内部に回収するなら、もっとサイズを小さくしないとなりませんよ」

「サイズを小さくすると、ロボットアーム真下まで誘導するだけの燃料を載せられるかどうか」


この件、それぞれの部門で再検討して、また話し合う事になった。




有人宇宙飛行部門で経緯を話す。

「船外活動用のハッチから入れられませんかね?」

「1mサイズにすればギリギリ入るけど、長さが問題だ。

 人間サイズの長さ2mならなんとか」

「いや、過去の衛星サイズを見るに4mくらいにはなる。

 それくらいはサイズが無いと、慣性航行はともかく、ロボットアームの下で静止とかは無理だろう。

 あれ、結構細かく燃料噴射を繰り返すからね」

「ロシア式ドッキング装置付けて貰う?」

「ドッキングして、その後どうするの?

 与圧部無いんですよね?

 どうやって荷物運びます?」

「船外活動になるなあ」

「あの日本を代表するアニメの宇宙コロニーの宇宙ポートみたいに、レーザー出して誘導するとか」

「将来やろうね。

 次期宇宙ステーションじゃ増設場所が無い」

「まだ作ってる最中ですから、あのドッキングベイ作れませんかね?

 世界に先駆けて」

「ドッキングベイって……。

 確認しとくぞ。

 コアAとコアBそれぞれに、軸線のドッキングポートと、4基のドッキングポートがある。

 軸線のドッキングポートは有人宇宙船と輸送機のドッキングに使う。

 コアAには、バイオハザード設備付の農業モジュール、倉庫モジュール、実験モジュール、生活モジュールが結合予定。

 コアBには、重量バランスの関係でフランスの厨房モジュールがこっちに移動し、倉庫兼ロシア式ドッキングポート付モジュール、短期滞在者用の実験モジュール、船外活動用エアロックモジュールが結合予定。

 ドッキングベイとやらを増設出来る余地は無いな」

「コアAの倉庫モジュールを使えませんかね」

「え?」

「コアBの倉庫モジュールは、ソユーズやプログレス、欧州輸送機とのドッキングポートを備えてますよね。

 コアAの倉庫モジュール、倉庫モジュールが2つ有るのも機能重複ですが、それは置いといて、こちらにもドッキング機能付けたらどうですかね。

 まあ、重量の関係が有りますから、空洞の円筒を外に張り出して、レーザー誘導でそこに収納したらハッチを閉める。

 そうしたら空気を入れて、そこで搬入作業する。

 どうです?」

「アイデアは面白いね。

 将来やろう。

 今回は無理だ」

秋山が断じる。

「宇宙ステーションは軸線を前後にして公転する。

 ドッキングポートが横を向いている場合、ソユーズとかなら機動が可能だが、小型輸送機はそんなアクロバティックな飛行する程燃料積めないんだ」


アイデア自体は面白いからストックしておくが、何せ相手の輸送機に出来る事が少ないのだ。

結局、宇宙ステーションの下に静止したらロボットアームで把持キャプチャーして固定し、船外活動で物資を搬入する方法になった。

「ドッキングって……言えますかね、これ」


入渠ドッキングというより接岸ドッキングになる。


一方、小型輸送機を考えていたイプシロン部門は、貨物室を直径1m、長さ1.5mとし、直径1.5mの機関モジュールから切り離せるようにし、それを搬入して貰おうと考えていた。

両者の擦り合わせの結果、

・輸送機は宇宙ステーションの下でランデブー

・ロボットアームで把持してドッキング

・荷物そのものではなく、取り外した貨物室を船外活動で取り込む

・貨物室は与圧室内で開封

・使用後、与圧室前部の大気圏再突入カプセルに地球に持ち帰る物を、後部にはゴミを入れて密閉

・再度船外活動で貨物室を機関モジュールに取り付ける

・ドッキング解除し、輸送機は大気圏再突入


という仕様で固まった。

貨物室と機関モジュールは、航行中は絶対に外れず、取り外す時は複雑な手順無く外せるようなロック方法とする。


運べる荷物は、宅配便の箱2つ半分くらいになった。


「まあ十分と言えば十分ですな。

 宅配便クラスの容積だから、いっそ運輸会社とタイアップして運用したら、スポンサー料が入ったりで安くなるかもしれませんな」


秋山の冗談は本当になる。

今はまだそれを知らない。

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