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手段の目的化

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「……という訳で、イプシロンの部門から協力要請が有ったのだが」

秋山は職員たちに諮る。

職員たちは真剣に考える。

総理とかロシアやフランスから言われる無理難題と違い、頼んだ代わりに製作は自分たちでやる、と言っていて納得が出来る。

総理案件だから予算青天井ながら(とは言え、アメリカに比べたら微々たるもの)、今までは予算が付かない部門に居たりして、少しでもロケットを安くする為に発注してくれという気持ちはよく分かる。

イプシロンチームは「稼ぐ」部門だから、使う一方の自分たちとしたら協力し、少しでも海外への売り込みにおける競争力を高めてやりたい。


「宇宙ステーションで再生産出来ず、定期的に補給されたいものを挙げていこう」


幾つか挙げられたが、反論も出た。


・週刊少年◯◯を週一で差し入れ←電子版にしろ!

→いや、電子版出てないのも有る←帰って来てから読め!

・持病の薬や血液検査の注射器←持病有る奴は宇宙に上げられないぞ。

・◯◯を作ろう系分割組立付録←物によっては最終版より任期の方が先に終わるぞ

・出前配達←流石に冷めるわ!

・実家からの差し入れ←急ぎでなければ、通常の輸送機で届けているぞ


このような中から、まともな案として

・半導体の実験に辺り、長期間の貯蔵が難しいフッ化水素系の製造材

・日持ちしない試薬系

・動物実験した動物の回収カプセル

が挙げられた。


だが、この意見が考えさせられる。

「実験そのもの、定期輸送の手段確立とそのコスト計算が目的で良いんじゃないですか?

 我々は去年、やっと自力で宇宙に出たっていうのに、もう長期滞在だの長期間飛行を見越して自給自足だとか、それが出来ない物に限って定期輸送だとか、先に行き過ぎてませんかね。

 一年とか二年は、普通はテスト運用ですよ。

 それで中身空っぽじゃ文句有るって話なら、総理に揮毫の色紙でも入れて貰いましょうや」


いずれは何かに使いたいというのが出る。

緊急時には使用する。

その為の試験をすること自体が目的であっても本来問題無いのだ。

秋山も、貧乏性から「どうせやるなら」の思考に囚われていた事に気付かされた。


大体アメリカなんかは、月に行ってどうこうする、ってよりスローガンとして「もう一度月に行くぞ」があり、それの為に目的募集しているところがある。

やってみたい、も動機の一つとしては十分なのだ。


そうではあるが、きちんと内容のある輸送品も数個上がった事から、それを纏めてイプシロン部門と再度協議をする。



「フッ化水素って、どれだけの量必要ですかね?」

イプシロン部門が恐る恐る聞いてくる。

「半導体の実験計画はまだ先だし、研究部門の担当者の選考も訓練もまだ。

 だからどれくらい使う気なのかは、我々では分からない。

 だけど、どうしました?」

「いや、フッ化水素運搬するとか、宇宙ケミカルタンカー作る事になりますよね。

 ケミカルタンカーって、どれだけ厳重に作られているやら……。

 それに万が一墜落して、汚染とか起こさないよう対策は必要。

 だから、余り重量が有ると輸送機自体が重くなり、イプシロンSでも打ち上げられなくなります」


イプシロン部門も、想定として宇宙伝書鳩、手紙とか宅配便程度の運用を考えていたようだった。

プラスチックの提携箱に荷物を詰めて、宇宙ステーション側まで運んだら回収して貰う。

受け取りのハンコでも捺して貰ったら、それをカプセルに入れて大気圏再突入で送り返して貰おうか、なんて冗談を言っていた。

まさかケミカルやバイオ製品を輸送となるとは……。


「一応、そっちの依頼もするよ」

秋山がそう言うと、ホッとした顔になる。

定期的とは言えないが、乗組員の誕生日にはサプライズでプレゼントを送るとか、クリスマスや正月には七面鳥だの餅だのを送ろうとか、そういうのもある。


「ケミカル製品輸送は、意義ある任務だから、可能か不可能かも含めて検討願います。

 こちらも重さが知りたいって事は分かったので、聞き取りをしておきます。

 ケミカル輸送は、消費ペースが掴めないので分かりませんが、その他の定期便は

『宇宙で定期便を運用する』

 それ自体を目的として最初は月に1回、予算付けたら月2回のペースで打ち上げて貰います」

「助かります。

 ペイロードですが、チェックの関係も有りますので、打ち上げ3日前までには各自に送っていただきたく」

「まあ同じJAXAですからね、それはやりますよ」


とりあえず大体のペースを伝えて枠だけは抑える事になった。

イプシロン部門も、製造ペースが掴みやすいし、事前に大量生産して備蓄しておく個数が計算出来れば、無駄なく安く出来る。


薬品に関して秋山が、研究を提出した候補者に事情を話して聞き取りをしたところ、

「定期的に得られるのなら、全部で1kgも有れば何とかなります。

 工場じゃないので、そんなに多量には使いませんし、2週間に1回補充なら多いかもしれませんね。

 日持ちしないと言っても、1日で使い物にならなくなるとか、そんなではないので」

という事だった。

大学の実験設備より小さいラックでの試作なので、数十グラムで良い場合もあるとか。


聞いたイプシロン部門は肩を撫で下ろしていた。

それくらいなら大規模汚染も無いし、小さい程密閉はしやすい。


だが、小型輸送機にはまだ解決すべき問題は残っている。

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