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意外な部門からの呼び掛け

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「秋山、わざわざ来て貰ってすまんな」

有人宇宙飛行部門のプロジェクトマネージャーを招いたのは、小型ロケット「イプシロン」チームの面々であった。


日本の小型ロケット「イプシロン」。

H-2Aロケットの固形燃料ブースターを一段目、過去に運用していた科学衛星用ロケットを再利用して二段目、三段目とした、安価・小型衛星専用・どこからでも打ち上げ可能を売りにしたロケットである。

低軌道に1200kgの物資を投入出来る。

当然だが、この打ち上げ能力では人間を運べないし、1.4トン級のアメリカ最初の有人宇宙船マーキュリー・カプセルなら、弾道飛行させられるかもしれない、その程度の能力である。

だから、有人宇宙飛行部門のリーダーたる秋山が

「打ち合わせしたい」

と言われたのは意外だった。


「いや、うちらもイプシロンで人間を宇宙に運ぶ気なんて無いよ。

 出来ないって事くらい知ってるから」

「人運ぶんじゃなければ、物だな。

 輸送機にしたいって事ですな?」

「半分当たり。

 帰還カプセルにもしたいって話ですわ」



H3ロケットの実用化に伴い、固形燃料ブースターも更新される。

H3ロケット用の固形燃料ブースターを使い、二段目ロケットも強化したイプシロンSが開発される。

この低軌道投入能力は1400kg以上と、200kg以上向上する。

その為、低軌道を回る日本の宇宙ステーションや、有人宇宙船への輸送機が務まらないか、という話になった。


「お前さんの部署、総理案件で予算の心配無いんだろ?」

「今のところね」

「だったら、そっちからイプシロンSを発注してくれないか?

 うちの売りは安さ。

 安く売るには大量生産する。

 有人部門から何機もイプシロンSを発注して、成功を見せれば、さらにイプシロンSは世界に売り込みをかけられるって事だ」

よく分かる。

「同じJAXAだ。

 助け合いも必要だし、要望に応えたい」

「おお!」

「あとは、何が出来るか、だね。

 プレゼン考えて来たんでしょ?

 見せてよ」


そもそも輸送機は間に合っている。

有人宇宙部門は、宇宙ステーション補給機部門から人を貰って発足した過去があり、輸送機「こうのとり」という総重量16.5トン、物資搭載量6トンという、10倍のサイズのものが利用出来る。

欠点として、打ち上げロケットが限られる上に、製造に時間が掛かる為、打ち上げ間隔が長くならざるを得ないのと、元々国際宇宙ステーション軌道まで物資を運ぶ為、低軌道の日本の有人宇宙ステーションで使用するにはオーバースペックでもある。

搭載物資を除いて10トンあるのは、低軌道より50km高く、ロシア絡みで傾斜のきついISS軌道に辿り着く燃料や、30日間自律活動する為の電池を積んであるからだ。

低軌道なら不要となる。


イプシロンチームのプレゼンでは、その逆の利を説いて来た。

まず、受注から10日で打ち上げ可能となる早さが利点である。

例えば、事故が起きて宇宙ステーション内では応急処置をしたものの、治療薬消費量が想定より多くて備蓄を使い切る勢いで、次の輸送機到着なり短期滞在要員到着まで待てない時、必要なものだけを迅速に届けられるロケットが必要であろう。

例えば、緊急で観測が必要な現象が予想され、直ちに宇宙ステーションに観測機器を設置したい場合も有効だ。

緊急輸送が必要なものが、せいぜい数十kgで100kgにも届かない場合、今の輸送機では高過ぎるし、間隔が開き過ぎるし、一緒に何らかの物資を積まないと搭載量の無駄遣いとなる。


そういった説明に納得しながらも、秋山は指摘せねばならない事がある。

「確かに緊急時の備えは必要です。

 有り難く使わせて貰います。

 しかし、滅多に起こらないから非常事態な訳で、その時に使うロケットは、使われずに終わる可能性もあります。

 また、我々も非常事態を想定して、多目に備蓄しています。

 宇宙ステーションには倉庫区画があるので、消耗品や交換部品はそこに置いてます。

 つまり、安くなる程発注出来ない事になります」

「まあ……1機や2機でも……我々は助かりますがね」

「あと、受注から10日は非常に早いのですが、例えば天文現象で観測機器を設置したいとかだと、数日が勝負だから、10日でも遅いと言わざるを得ません。

 我々はその数日を逃さないよう、有り合わせの機材を使って対応出来るよう訓練しています」

ミッション・スペシャリスト候補の大学院生とかも、

『イレギュラーの太陽フレアの予兆が出ました。

 実験機材に想定以上の影響が出る事が予想されます。

 対処1として、有り合わせの物を組み合わせて対フレアバリアを作って下さい。

 対処2として、その実験機材が故障し、修理不可能となったと想定し、他の機材を代用して差し当たり1ヶ月実験出来るようにして下さい」

といった訓練をしている。

余程の事でなければ、宇宙ステーション内で何とかしろ、というのが飛行士から研究員、地上スタッフも含めたチームのスタイルなのだ。


「イプシロンで打ち上げる輸送機のコンセプトは良い。

 だから、非常時緊急時に拘らず、定期的に打ち上げを必要とする計画を立てましょう」

秋山はそう伝えた。

そして相反する事実も伝える。


「なお、現在の宇宙ステーション運用の方針は『自給自足』ですので。

 食糧、水、酸素に至るまで、出来るだけ無補給で生活して、火星等への長期飛行用のデータを取ります。

 そんな方針で運用している宇宙ステーションに、定期的に物資を届ける、それを考えなければなりませんよ。

 出来るだけ協力しますから、上手く矛盾を解消する補給を考えましょう」


イプシロンチームも難題に取り組む事になる。

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