営業的な打ち合わせに技術職を引っ張り出すな!と言いたいけど技術職が居ないと進まない話もあるからなぁ
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
小野のアメリカ放牧、もとい駐在員生活も長くなる。
民間企業の僻地駐在員、交代が来たがらないから十数年放置という感じではなく、花形部署だから本来成り手は多い筈だ。
……派遣された時の経緯、形も何も無かった有人宇宙船を開発して貰う、複数のメーカーに依頼をかけるがどこが受けてくれるか未定の中、たまたま「昔使ったジェミニを使える部分は使い回し、必要なとこは近代改装したら良いかも」というB社に当たったというのから始まる。
やがて、同じようにアメリカ放牧されていた新人職員たちが、他社は予算や納期やもっと条件が良い開発優先から手を引き、B社に集約された時に、最先任の小野がリーダー的役割になった。
リーダー的役割ゆえに、NASAや日本の首脳と質疑応答をしたりする。
そうなると、余計に他国の宇宙機関や企業からリーダー扱いされ、重宝される。
何となく取りまとめ役をさせられているから、可哀相に思ったJAXAは、正式にプロジェクトリーダーに昇進させた。
「百歩譲って技術的な打ち合わせは良いですが、今後の計画とか、予算規模とか、発展性とか、2年前に入った若造には分かりませんから!
そういう打ち合わせが可能な人を自分の上に置いて下さい!」
小野は秋山に要請し、上長を置いて貰った。
……その人が渡米出来なくなった。
そして小野もまた使い勝手の良さから、アメリカでは色々使い回されている。
彼もまさかNASAとの連絡役になるとは思ってなかった。
コミュニケーション障害とは、自分の主張を出来ない、相手の話を聞けない、相手の言ってる事が理解出来ない、言葉が出て来ない、人と話すと具合が悪くなる等の症状がある。
小野はコミュ障気味ではあるが、多分に気分的な問題、気質的な問題で、病理的なものではない。
それ故に、凄く苦痛なのだが、他人ときちんと話し合いが出来るのだ。
それ故に、言っても
「君、出来るじゃないの。
やりたく無いとか言わないで」
と甘えてる扱いをされてしまう。
本人的には辛いのだが。
そして、宇宙ステーション部門は訓練機部門と分けられたが、機体調達に関わるアメリカ組も両属とされた。
スケジュールを渡され、打ち上げから逆算して製作を依頼する。
「で、自分も会議出ないとダメなんですか?」
小野は上長に文句を言う。
「先方が技術も分かる人にって言っていてね」
テレビ電話での会議に出席するよう言われた。
スケジュールや宇宙ステーションの仕様は、小野よりもっと詳しい者が日本に居る。
ジェミニ改2の仕様は、公開されている部分は読めば良いし、非公開の部分は話す訳にはいかない。
何故自分??
聞かれたのは、ジェミニ改2のリリース見込み、4人乗り状態での生活スペースやストレス、増設椅子について等であった。
彼等にしたら、自分たちが間に合わなかったり、事故を起こした時にどうするのかを知りたかったようだ。
責任や補償の問題は日本の上長や秋山がNASAや宇宙企業に説明するが、本格運用前のジェミニ改2については小野に聞くのが話が早い(プラスB社の技術者も参加)。
普通に「失敗したら死んじゃうね、でもアメリカ民間宇宙企業の宇宙船を全面的に信頼するよ」なら、それで終わりだった。
だが、日本は失敗が許されない。
例え、打ち上げで爆発したら全滅なのは分かっていても、保険を求める。
そこで
・もし非常脱出シートを使って爆発時にベイルアウトするなら何人乗りになるか
・その人数の宇宙船が遭難した場合、バックアップ宇宙船は何機必要か
が話題となり、それを元に保険金が算出される。
(あの見慣れない人は、漫画とかによく出て来る保険金エージェントか……)
保険料の話になった時は、我関せずと口を挟まずにPCの画面を見ているだけの小野は、色々と人を観察していた。
そうしている内に、どんどんと話が進み、仮契約まで決まった。
仮契約なのは、日本側で政治家の承認が必要になるからだ。
だが、小野が見ていて
(展開が速いなあ)
と感じる。
会議が終わるところで、小野が民間宇宙企業のCEOに声をかけられる。
「君が居たから技術的な話が聞けて、話が速く進んだ。
助かったよ」
(僕??)
展開が速い一因が自分にあると思ってなかったから驚く。
技術的な話、どういう要求をされ、どれくらいのサイズや重量に収めたのか、購入またはライセンス生産は可能か等、仕様書には書いてないし、知ってる人に聞いた方が早い話だったりする。
日本仕様の内装と、その調達費用や期間などが分かり、追加予算が計算出来た。
こんな感じで、技術者も打ち合わせの席に居た方が良い場合もある。
内容の半分以上興味の無い話であろうが、決定的な内容に関わったりする。
小野にとって、テレビ電話での会議で良かったかもしれない。
ご機嫌のCEOは
「こういう情勢じゃなければ、一緒に食事でもしたいね、ハッハッハー!」
と語りかけていた。
果たして単なる社交辞令か、それとも本音かつ話が滞るのが大嫌いなアメリカ企業トップの本気なのか。
小野は、その時は是非、なんて流暢な英語で答えていたが、秋山からしたら
(無理しやがって)
てなものである。
そつのない受け答えが出来るのと、人付き合いが好きか嫌いかは別物である。
ビットレートの関係で、一瞬の引きつった表情も見えなかったであろう。
小野のアメリカ生活はまだ続く。