流石に変形は無理!
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
日本はまだ宇宙服を作れない。
米ソで作られたもので、ほぼノウハウは出揃った。
機密服、耐圧服、熱を溜めない、冷え過ぎない、それでいて可動域をある程度確保する。
原理も製法も分かるが、それだけでは作れない。
肝心な部分は経験を多く積んだ国の貴重なデータが反映されている。
そもそもがアメリカの貿易赤字を減らす為の宇宙計画なので、既存品でどうにかならないものは国産化でなく、アメリカから既製品を買え、となる。
船外活動服なんかがそうだが、日本ではその活動範囲を更に広める機械の開発を考えた。
一つが、ちょっとそこらを飛行して来られる、宇宙スクーターである。
人工衛星の修理や、ちょっとした宇宙船間の移動に使用出来る。
もう一つ考えたのが、ちょっとそこらで土木工事して来る、所謂ロボットスーツであった。
ロボットスーツの手足は、中の操縦士が操る。
一方、ロボットスーツ自体の移動は、操縦士が操縦桿とアクセル、ブレーキで行う。
所謂パワー補強スーツ、外骨格型は既に大学で完成している。
船外活動服に身を包んだ宇宙飛行士が、巨大な太陽電池パネルを持ったり、宇宙塵を拾うより安定感がある。
大学はご近所なので、既に協力を依頼していた。
試作品を見た秋山は、ちょっと思ったのと違い、軽く戸惑った。
フレームで人間の体を覆っているが、稼働性と呼吸の為に剥き出しになっている。
宇宙用に機密室を導入して欲しいと要望を出した。
ついつい、フレームの外周を装甲で覆い、見た目乗り込み型ロボットになるものと思い込んでしまった。
大学で作ったのは、コクピットに当たる部分だけ透明のアクリルっぽい素材で、他は今まで同様に剥き出しのフレームや腱にあたるワイヤー。
「360°全方位の視野確保のコクピット、戦争じゃないから駆動部やフレームは寧ろオープンにしていた方が整備性が良い。
まあ、最適解か」
足は鳥の爪のようになっていて、宇宙ステーションのトラス構造なら掴む、そうでなくてもなるべく表面の形に合わせて安定させるようになっていた。
あとは、この機体を飛ばす方法である。
「女の子2人が宇宙怪獣相手に光速戦闘するアニメみたいに、操縦士と航法士の2人乗りにしましょうか」
「フランスの有名ブランドと名前が一緒だったが為にプラモデルの名前変えられた機体みたいに、脳波コントロールにするとか」
「航法モードと作業モードを切り替えるのが良いかと」
纏めるとこの3案になった。
脳波コントロールはSFの話ではない。
既に自動車や鉄道で試作されている。
「でも、まあ眠くなったのを検知して自動停車するものだから、数年以内に脳波制御は無理だな。
研究自体はして良いと思う」
秋山はこう言い、役割別に2人乗りにするか、モード切り替えにするかの意見を募った。
2人乗りのデメリット
・酸素は2倍必要となる
・コクピットサイズも2倍となる
・人間が発する熱も2倍となり排熱問題発生
・停止作業時、航法士はする事が無い
・将来はともかく現在2人も要員を宇宙滞在させられない
が指摘され、1人乗りの
・飛行中に手足を動かすロボット機動が出来ない
より重要とされた。
「飛行中のロボット機動?
必要無いでしょ?」
そういう秋山に、立ち上げ当初からの職員が指摘する。
「四肢を動かす事による重心変化で推進剤使用量を減らす実験、企画段階で有るんですが」
「本当だ!
そういやこの企画が始まる時、何でも良いから予算下りるホラ書けって言われていた!
実現不能を並べ立て、予算却下されると思ってたから、忘れてた!」
「我々は月基地とか、木星へのヘリウム船団とか、冥王星に敵勢力が来た時の対処とか、しなければならないんですよ」
「いやいやいやいや……、流石にそれは……」
「そこまでは無理にしても、重心変化での推進剤節約は実験項目ですんで。
しかも、実現可能になっちゃいましたし」
「シミュレーターで、ある程度の効果は有るけど、動かす宇宙機の質量が大きければ、推進剤の節約量は微々たるもの、って結果出たじゃない」
「だから、質量の小さい宇宙機として、このパワードスーツがある訳じゃないですか」
「にしても、後にしましょう。
操作と航法の同時は、今はまだ難しい」
「ですな」
そう結論出した所に、若手がまた爆弾を投げてくる。
「航法中のパワードスーツ、巡洋艦から発進した赤い奴みたいに、気をつけの姿勢で飛ぶんですよね?」
「多分ね。
真空だと空気抵抗とか無いから、ノズルが向いてるのと逆の方向に進む事になるかと」
「それなんですが、変形して巡航時はノズルを揃えるとかしませんか?」
「はあ〜? 変形?」
「よくある戦闘機に変形するアニメのロボットは、あれノズルを全て同じ向きに揃え、人型になると姿勢制御しやすい各方向に分散する、ってなるんですよ。
このパワードスーツ、フレーム剥き出しですし、変形もしやすいと思いまして……」
別の職員が応えた。
「変形のギミック開発しろってのが、まず無理。
パワードスーツ開発した研究室も、人間のサポートを目的としているから、変形までは目的外。
それに、ノズル全部揃えたら、多分速度超過。
慣性の法則を支配出来ていない我々には、今のスピードでも宇宙、無重力ではいっぱいいっぱい。
戦闘機みたいな速度は出せないにしても、加速し過ぎたら手に負えない。
そして、我々の技術では、人が入ってる状態でコンマ数秒での変形は無理。
10秒以上かけて、ジワーッと変形するのが精々。
そうなると、いざという時手足で何かに掴まったり出来ない。
最初から人型の方が安全」
そして、こう付け加えた。
「私も変形、ムーバブルフレームは考えたんだ。
だが、我々にはまだマグネット何ちゃらは無いんだ!
核パルスエンジンも、高速移動するロボットを受け止められるだけの宇宙ステーションも無い。
いきなりは無理なんだ!
我々が最初の一歩で、変形・合体ロボットまで行き着かなければならない。
機動戦闘ロボットへの道に近道は無い。
我々が地道に基礎を固めねばならないんだ!」
秋山は思う。
言っている事はまともだが、目的地が違うぞ!!




