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宇宙(そら)を翔ける

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

秋山はNASAの審査が通りそうな旨を話しに、H社を訪問した。

そしてそこで、この応募が一社員のアイデアであった事を知る。


そのバイクが、全ての自動二輪の代名詞となっている国ベトナム。

その現地法人に勤めるレ・ヴァン・クァン氏はそのバイクが好きで好きで仕方なかった。

献身的な仕事ぶりと、新型エンジンに関する意見が取り上げられ、今年日本勤務となる。

その矢先に、例の疫病で工場が操業停止となる。

彼はベトナムに居た時に、母校の高等工専に日本勤務になった挨拶をしに行き、NASAが月面で移動手段に使える何かを募集した事を知った。

休業中の暇つぶし、というより遥かに高度な余暇の使い方で、彼と、同時に日本勤務になった弟、同僚のベトナム人ら数人で初代をベースに魔改造バイクを完成させたのだった。


休業明け、それを上司に報告する。

日本人の嫉妬は酷かった。

「なんで俺を呼ばなかった!」

「お前ら、日本人を差別してんじゃねえ!

 自分たちだけでやってんじゃねえよ!」

「ああー、羨ましいったらありゃしねえ!

 バイク屋として、断固俺も参加するからな!」

そして、魔改造バイクをプロトタイプに、何台も試作量産機を作り、オフロードを走らせまくる。

まるでバイクを虐めるかのようにテストし、納得いくものをJAXAとNASAに送った。


「なるほど、そこまでしたのですか」

「全くうちの技術馬鹿どもは……。

 こう言っては秋山さんに失礼かもしれませんが、市販出来ないので、金にならんのですよ」

重役が苦笑いしている。


「失礼シマス」

レさんが入室する。

秋山は軽く握手をすると、本題に入る。

まずは、ほとんど悔し紛れのNASAからの難癖をクリアすれば、採用はほぼ確実という話であった。

「よくまあ、バイクを酸素も無いとこで走らせようって思いましたね」

「大丈夫デスヨ。

 ベトナムじゃたまに川の中走ってマス」

「は?」

 なんでも、増水して橋が壊れたり、氾濫して道が水没したりしても、そこを平気でバイクが走っているそうだ。

 日本の暴走族のような、竹槍のような給排気口を付けるそうだが。

「いくら何でも、壊れるでしょ?」

「だからベトナムには、修理する工場(?)いっぱいアリマスヨ」

「そうなんですか?」

「まあ、ライセンス出して、街中の中小企業に任せてたりします。

 もうラインが終わった型のも、平気で走ってますから、街中のオッチャンの方が古いのは扱い慣れてたりします。

 逆に日本人の方が、何十年も前の型に戸惑ったりします」

「なるほどねえ」

数人で魔改造出来た背景がよく分かった。

道理で電子機器が極端に少なく、故にシンプルで壊れても力技で直せそうな車体だった。


そしてもう一つの本題に入る。

「タイヤの無いバイク的な乗り物、作れたりしますか?」

「何?」

「は?」

今度はH社が意表を突かれた。


秋山が言うのは、1人乗り、もしくはタンデムでの2人乗りの小型宇宙船である。

日露共同訓練で、ドッキング装置の無い宇宙船同士での人の乗り移りが課題に上がった。

アメリカ式もしくはロシア式ドッキングポートは必ず有るものの、塞がっていたり、故障している場合も想定される。

その場合、宇宙服を着て乗り移る事になるが、その距離が離れていた場合、推進剤を積んだバックパック付きの宇宙服で無ければならない。

この宇宙服は船外活動や緊急時の脱出用である。

船外活動宇宙服と、軌道を行き来するソユーズやジェミニ改のような与圧室のある宇宙船、その中間の宇宙船が作れないだろうか?

ランデブーしたちょっと先の人工衛星まで行って修理して戻って来るとか、宇宙ステーション間をちょこっと往復するとか。

「そういう宇宙スクーターを

「作りマス!!!」

「ちょっと、レ君!!」

重役が慌てる。

「君は一回下がって下さい。

 お金絡む話ですから、上の方で話しますから」


レ・ヴァン・クァン氏は退室する。

「秋山さん、困りますよ。

 それは正式な発注ですか?」

「いや、出来るかどうか聞きたかっただけです」

「誘惑するような言い方はしないで下さい。

 うちは車屋なんですから、宇宙船とか無理です」

「あれ?

 お宅、アメリカの子会社がジェット機作ってませんでしたっけ?」

「あれは、その、子会社というより、名前だけうちの、現地法人と言うか……。

 かなり自由度が高い別会社と言うか……」


「失礼します!」

ノックより先に声がする。

どうぞと言わないのに、作業着姿の日本人が数名入って来た。


「話は聞きました!

 まさか、こんな面白そうな話、他所にやる気は無いでしょうね?」

「何だね、君たちは!」

「もし会社で受けないなら、有給取りますから、半年休み下さい」

「ちょっと待て!

 まだ打診されただけで、本当に作るか決まってないそうだぞ!」

「じゃあ、先行して作っちゃいましょうよ」

「そうは言うがだね、君、ロケット工学とか、そういうの知らんだろ」

「勉強しますよ」

「簡単に言うがね……」

「やる前から否定する方が簡単ですよ。

 新入りがNASAを唸らせたんなら、俺たちにだって出来ますよ」

「つーか、やらせて下さい」

「ダメなら有給使いますんで」


普通は営業が無茶な仕事を取って来て、技術者が泣かされるものである。

しかしここでは、技術者が未知の開発をすると駄々を捏ね、営業が「それ、金にならないから、やめて」と言っている。

珍しい光景を秋山は見ていた。


結局、H社が独占受注する事になった。

「……という事で、見積もり高めに出させて貰いますが、通して下さいね。

 でないと、うちが丸々損するので」

「分かりました。

 ただ、発注は入札式になりますので、相見積もりでもっと高く出してくれるとこが必要になります。

 どこか心当たり有りますか?」

重役は溜息を吐いた。

「心当たりは有りませんが、この話を同じバイク屋に持って行くのだけは止めて下さいね。

 SさんもYさんもKさんも、バイク屋は基本どこかおかしいんで、自分がやるって言いかねませんから」

現実のH技研がこういう社風かは知りません。

あくまでも架空のH社の鈴鹿工場ですので。


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